2018.0611

将来構想部会が中間まとめを検討―国立のアンブレラ方式など提言へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●2040年には「18歳で入学」という従来型大学モデルからの脱却が必要と指摘
●国公私の枠を超えた大学の連携や再編統合につながる施策を盛り込む
●学習成果に関する情報公表の義務化も提起

2040年の高等教育のあり方について話し合う中央教育審議会の大学分科会将来構想部会は、月内に出す中間まとめの検討に入った。文部科学省が示した原案では、大学が18歳の学生だけでなく、社会人や留学生など多様な学生を積極的に受け入れるための教育の質保証と情報公開の重要性を強調している。国立大学の一法人複数大学制、私立大学の連携・統合や学部単位の譲渡、国公私の枠を超えた大学連携法人など、大学の再編統合につながる施策が盛り込まれる方向だ。

*中間まとめ(2018年6月28日発表)はこちら
*将来構想部会の議論の経過はこちら
中退率やST比を加え、情報公開の対象拡大へ
地域の国公私立大連携の規制緩和を目的に文科省が新法人制度を提案
文科省が大学の機能別分化に向けて3つの類型を提示-将来構想部会
2040年の大学進学者数は12万人減の51万人~文科省試算
他大学への学部譲渡を可能にする制度検討へ―文科省が論点提示
地域別・分野別の進学者数・受け入れ数のデータを提示―将来構想部会


「第4次産業革命」「人生100年時代」など、社会変化を説明

 将来構想部会は文部科学大臣から「各高等教育機関の機能の強化に向け早急に取り組むべき方策」「今後の高等教育全体の規模も視野に入れた、地域における質の高い高等教育機会の確保のあり方」などについて諮問を受け、2040年の社会を想定した高等教育の将来像について議論している。6月上旬に開かれた大学分科会と将来構想部会の合同会議では、文部科学省がこれまでの議論をふまえた中間まとめの原案を提示した。
 原案では、2040年の社会変化の方向を「SDGs(国連が提唱する持続可能な開発のための目標)」「Society5.0、第4次産業革命」「人生100年時代」「グローバリゼーション」「地方創生」などのキーワードで説明。急速な社会変化の中、教員ではなく学習者を中心に置いた主体的な学びのシステムの構築を念頭に、2040年に向けた高等教育の課題を整理した。

●設置形態の枠を超え、「公共財」という視点での政策への転換を提起

 部会では、2040年の大学進学率は2017年より4.8ポイント高い57.4%となる一方、18歳人口の減少により大学進学者数は12万人減の約51万人になると試算している。
 そうした環境の下、18歳の入学者だけでなく、リカレント教育など多様な年齢層の多様なニーズに応える教育によってあらゆる世代の「知識の共通基盤」になることが高等教育の新たな役割だと提起。多様性確保のためには高等教育の質が保証されていることの認知が重要として、設置認可や認証評価を中心とした質保証のあり方を見直す必要があると指摘している。「知」の重要性が高まる2040年以降は、国公私という設置形態別の政策ではなく、「国公私を通じ、『公共財』としての高等教育という視点での政策がより重要になる」と、設置形態の枠を超えた連携や再編統合を想起させる一文もある。
 高等教育の将来像を国が示すだけではなく、それぞれの地域において高等教育機関が産業界や地域を巻き込んで将来像を議論し、地域の実情をふまえた連携・統合や規模の設定をしていくべきと、大学が地域における自らの役割や規模を主体的に決めていくことへの期待が示された。

●「世界をけん引」「高い実務能力」など機能別分化の「3つの観点」を例示

 中間まとめの原案では上記のような前提の下で課題を整理し、その解決のための具体的な方策を挙げている。主なものは次の通り。

*多様で質の高い教育プログラムを構築するための具体的な方策
・単位互換制度の実質化を阻んでいる「全ての科目を自学で開設」という設置基準上の原則についての考え方の明示
・複数の学部間での教員の共有を円滑にするため、教員を一つの学部に限り専任教員としている運用の緩和

*キャンパスの多様性を確保するガバナンス構築のための具体的な方策
・国立大学の一法人複数大学制の導入
・私立大学の各学校法人の自主的な判断の下、強みを生かし弱みを補い合うための連携・統合を支援。学部単位での事業譲渡の円滑化の方策も検討する。
・国公私立の枠を超えた連携を進めるための大学等連携推進法人(仮称)の導入
・寄附金をはじめとする外部資金獲得などを担う学外理事の登用促進

*大学の強みを強化するための具体的な方策
・「世界をけん引する人材の養成」「高度な教養と専門性を備えた先導的な人材の養成」「具体の職業やスキルを意識した教育による高い実務能力を備えた人材の養成」という「3つの観点」を参考にした機能別分化

*教育の質保証と情報公表のための具体的な方策
教学マネジメントの指針を作成し、各大学が教学改革を図るうえでの留意点を網羅的に示す
・学修成果や教育の質に関する情報(単位の修得状況、学生満足度、入学者選抜の状況、留年率、ST比等)の把握と教学改善のための活用、情報公開の義務付け
・認証評価制度がより効率的・効果的で実質的な改善につながるよう、自己評価書の記載内容や受審期間を見直し、特色ある教育研究活動を積極的に発信

●「認証評価結果は高校生でも理解できるものを」

 原案についての討議で委員から次のような意見が出た。

・18歳での入学だけでなく多様な学生が大学で学ぶようになるには、情報公開の一つとして認証評価結果を高校生、外国人を含め誰もが理解できるものにする必要がある。また、認証評価では大学の強みだけでなく弱みも指摘し、入学を検討する人たちの関心に応えるべき。
・産業界にいる自分から見ても、企業はいまだにサークル活動・アルバイト重視の採用をしていて、これでは大学がいくら教育改革をしても意味がない。このような採用の見直しの必要性についても中間まとめで触れるべきではないか。
・地域の実情をふまえた高等教育の規模の見直しとあるが、若者の流出に悩む地方自治体の長としては、人口が減っているから定員を減らすということになるのを危惧する。進学で流出した若者が卒業後も戻ってこないことが大きな問題であり、都会の大学は地方出身の学生がUターン就職に目を向けるような指導をしてほしい。

 将来構想部会は6月下旬の会合で中間まとめを了承し、公表する見通しだ。秋には最終まとめを予定している。