2018.0425

THE大学ランキング日本版2018―「国際性」上位大学の理念と戦略(上)

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3行でわかるこの記事のポイント

●上位50大学の内訳は国立14、公立5、私立31
●「アウトバウンド」「英語による授業」の指標追加による順位変動も
●建学の理念の実現に取り組んだ結果、4つの指標で高スコアになった大学

「THE世界大学ランキング日本版2018」では総合ランキングに加え、「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」「国際性」の各分野のランキングも発表された。その中でも「国際性」は私立大学が強みとする分野だ。一方で、近年は国立大学も力を入れ始め、総合ランキング上位校の順位変動にも影響を及ぼした。「国際性」上位の大学はどんな戦略の下で各施策に取り組み、どのような実績を挙げているのか。大学への取材を通して紹介する。

*「THE世界大学ランキング日本版2018」の結果はこちら
*ランキング指標の解説はこちら
*「THE世界大学ランキング日本版」公式サイトはこちら


●上位10大学の半数が入れ替わり、外国語大学3校が加わった

 「THE世界大学ランキング日本版2018」の「国際性」分野の指標と比重は、①外国人学生比率(5%)、②外国人教員比率(5%)、③日本人学生の留学比率(5%)、④外国語で行われている講座の比率(5%)の4つ。今回新たに③と④を加えて充実させた。
 上位50大学は下表の通り。

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 上位50大学を設置形態別に見ると国立14、公立5、私立31で、前回同様、私立大学が優位に立っている。9位の東京国際大学、13位の城西国際大学など、総合ランキングでは「151+」の大学が11校あり、国際性を際立つ特色としているケースも目につく。
 「日本人学生の留学比率」「外国語で行われている講座の比率」が指標に加わったことが要因とみられる「国際性」ランキングの順位変動もあった。全学生に留学を課している国際教養大学が前回の13位からトップに。上位10校のうち半数が入れ替わり、3つの外国語大学が新しく加わった。
 「国際性」でトップになった国際教養大学は開学当初から「国際教養(International Liberal Arts)」という教学理念を掲げ、その実現をめざすうえで「すべて英語による授業」「徹底した少人数教育」「1年間の海外留学義務付け」「多文化が共生するキャンパス環境」などが相互に作用する教育環境の整備に力を入れてきたという。その結果として4指標のスコアが高くなったという認識だ。
 これは恐らく他の大学も同様で、建学の理念の下、自学の強みを生かしつつグローバル社会で活躍できる人材の育成に必要な環境整備をそれぞれの手法で進めた結果、4つの指標に反映されたと言えるだろう。
 上位10校のうち今回は1位~5位の大学について、それぞれの指標に影響を及ぼした取り組みやその実績を紹介する。

●APUは積極的な国際認証取得を通して競争力を強化

1位 国際教養大学

① 外国人学生比率
 「単位互換が可能な国際標準カリキュラムの授業科目」「学修と生活の全てが英語で完結するキャンパス環境」など、完全にグローバルな学修環境の整備に努めている。地域交流活動の充実にも力を入れ、農村部での伝統文化の体験等、都市部では難しい地域活動ができることも留学先として選ばれる理由の一つである。

②外国人教員比率
 全ての科目を英語で開講しているため、教員募集では英語で授業ができることを条件にしている。「外国人学生比率」と同様、多文化・多国籍のキャンパス環境が外国人教員にとって働きやすいものとなっている。

③日本人学生の留学比率
 開学当初から海外留学を卒業要件とし、交換留学の提携先開拓を進めてきた。

④外国語で行われている講座の比率
 英語という「世界で通用するコミュニケーションツール」によって幅広い教養を身につけ、多様な価値観に触れることを重視。留学生が日本語を修得するための科目など一部を除き、語学はもとより基盤教育や専門教養教育の科目など、全ての科目を英語で開講している。

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2位 立命館アジア太平洋大学

① 外国人学生比率
 国際経営学部・経営管理研究科が取得した国際認証AACSBをはじめ、積極的に外部評価を受けて国際競争力の向上を図っている。世界各国で高校訪問、留学フェア参加、説明会開催などの学生募集活動を展開し、オンラインマーケティングも強化。秋入学を設け、一定の英語力がある者については日本語能力を入学要件とせず、およそ9割の科目で日英両言語による授業を開講している。

② 外国人教員比率
 2000年の開学時から国際学生の比率50%、外国籍教員の比率50%、国際学生の出身国・地域数50という「3つの50」のコンセプトを掲げ、現在23カ国・地域出身の外国籍教員が50.3%を占める。

③ 日本人学生の留学比率
 異文化コミュニケーション、言語修得、専門学修、キャリア形成など、多様な興味に応える長期・中期・短期のプログラムを開設。入学前も含め4年間いつでも、1年間のさまざまな時期に参加できる仕組みにしている。

④ 外国語で行われている講座の比率
 アジア太平洋学部、国際経営学部ともに英語の授業のみでの学位取得が可能。

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海外研修で英語による教授法向上を支援する大学も

3位 国際基督教大学

① 外国人学生比率
 新たに導入した「ユニヴァーサル・アドミッションズ」の枠組みでは、従来の英語による書類選考では入学する機会を得られなかった、日本語も英語も母語としない学生にも門戸を開いた。英語話者の外国籍学生を対象とした書類選考も9月入学に加え、4月入学の受け入れを開始し、多様な教育背景の外国人学生に合わせた入学機会の拡大を図っている。 重点化する地域を定め 、海外の高校やインターナショナルスクール、国内の日本語学校等、積極的な学生募集活動を展開している。

② 外国人教員比率
 専任教員は英語の授業を担当できることを条件に、原則としてすべて国際公募をしている。国籍にかかわらず、海外の大学での学位取得者や1年以上の教育研究実績のある教員を積極的に採用し、その比率は2017年度、専任教員の92.7%に達している。

③ 日本人学生の留学比率
 英語外部検定試験対策の授業や受検料負担などで語学力向上を支援。学生に人気の高い欧米地域の協定校開拓に取り組む一方、タイ、フィリピン、台湾、韓国などアジア地域への留学プログラムも拡充し、2016年度はこれらの国への派遣が前年比2倍強になった。

④ 外国語で行われている講座の比率
 2015年度に設置した英語開講関連施策検討委員会での議論に基づき、非英語話者教員の英語による教授法のさらなる質向上を目指す海外プログラム派遣等の施策を実施している。

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4位 東京外国語大学

① 外国人学生比率
 質の高い日本語教育の実績を生かし、学部では日本語学習経験のない学生も受け入れている。大学院でも日本研究の分野で外国人学生を多数受け入れている。

② 外国人教員比率
 26の専攻言語に対応した外国語教育担当教員の採用枠を設定。これに加えて国際日本学分野でも外国人教員の採用を進め、全教員の約16%にあたる41人が外国人である。

③ 日本人学生の留学比率
 協定に基づく1年間の交換留学生を増やす努力をしていて、協定校は63カ国・地域151機関に上る。協定に基づいて夏学期・冬学期に短期留学プログラムの充実を図り、主に専門とする言語の地域に派遣している。

④ 外国語で行われている講座の比率
 外国人学生と日本人学生が一緒に学べる「教養日本力」科目で英語による科目を増やしている。各学部の専門科目でも英語による授業の開講に努めている。

5位 上智大学

① 外国人学生比率
 従来、短期受け入れは夏期および冬期、定期開講の計3プログラムが中心だったが、数年前から派遣元の国や大学のニーズに合わせた特別プログラムを開講して受け入れを拡大。同時に、交換留学協定校の拡大や文部科学省「大学の世界展開力強化事業」等による海外大学との連携で、正課での受け入れにも力を入れている。

② 外国人教員比率
 英語のみで学位を取得できる学位プログラムを複数設けているため、外国籍の教員に加え、海外で学位を取得した日本人教員、海外で一定期間以上の教育研究歴を有する日本人教員を国内外で幅広く公募し、採用している。

③ 日本人学生の留学比率
 交換留学協定校を毎年増やし、2018年3月現在、55カ国・地域の284大学と協定を結んでいる。外国語学部ドイツ語学科では、必修科目の一部をドイツの協定校で1学期間履修する「在外履修制度」があり、積極的な学生交流を行っている。語学講座、短期研修、サービスラーニングプログラム等、海外での実習を含む実践型プログラムなどの短期プログラムも年々増加。外部の専門スタッフによる留学カウンセリング制度も充実している。

④ 外国語で行われている講座の比率
 2018年5月現在、国際教養学部をはじめ2学部5研究科において英語のみで学位取得が可能であり、今後さらに拡充する計画がある。また、全学共通科目やその他の学部・大学院においても英語による授業科目や特修プログラムを設けている。

(以下、「下」に続く)


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