2016.0905

AP選定の東京都市大学-4年間の成長支援と卒業時の質保証

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3行でわかるこの記事のポイント

●ディプロマサプリメントを1年次からのPDCA型学修にも活用
●6つの能力をレーダーチャートで可視化
●企業、卒業生対象の調査に基づき到達目標を設定

文部科学省の大学教育再生加速プログラム(AP)の「テーマⅤ 卒業時における質保証の取組の強化」の選定結果が7月末に発表された。(関連記事はこちら /univ/2016/08/apsentei.html)。選定された大学の中から東京都市大学の計画を紹介する。卒業時の学修成果の客観的提示方法として文科省が例示したディプロマサプリメントに、4年間の成長支援の機能も持たせるという独自の発想で、APの要件である「卒業時の質保証」と「大学教育のプロセス全体にかかる取り組み」を一体的に進めようとしている。


●1年次からプレ・ディプロマサプリメントを発行 

 東京都市大学は、学生が卒業までに身に付けた力を客観的に示す仕組みとしてディプロマサプリメントを開発する。同じ書式のプレ・ディプロマサプリメントを各学年末に発行し、学修到達度の確認と新たな目標が設定できるようにする。ディプロマサプリメントは学びのPDCAサイクルによって成長を支援するツールでもあるわけだ。
 ディプロマサプリメントはヨーロッパの大学で導入されている学位の「内容証明書」とも言うべきもので、学修の履歴や時間、達成度、取得資格などを共通の書式で記す。東京都市大学の湯本雅恵副学長がフランスの大学で勤務した20年ほど前には、学生の流動性が高いヨーロッパで、送り出しや受け入れに際して教育の質を保証したり確認したりする仕組みとして、ディプロマサプリメント的な書式の必要性が議論されていたという。
 今回、文科省がAPで開発を提起したのは、大学間で参照し合うものではなく、主に企業が採用の時に学修成果を確認するためのディプロマサプリメント。同大学では、この「日本型ディプロマサプリメント」を検討する中で、「企業に見てもらうことが前提なら、就職活動を始める3年次にこそ発行すべきだ」と考えた。そこから、さらに1年次までさかのぼって発行するという発想に。3年次、そして卒業時までにめざす到達度を見据え、同じ書式のプレ・ディプロマサプリメントで低学年から自分の力を定点観測できるようにする。学生には、その結果をふまえて目標設定と学修を繰り返してもらうというのが、計画の柱だ。

●キャリア・ポートフォリオの課外活動情報も活用

 東京都市大学のディプロマサプリメントは、学修成果に関する定性情報と定量情報からなる。前者は、学位の情報、履修履歴、課外活動やボランティア活動、取得した資格等について記載。これらには、学生が自分の正課内外の活動とその振り返り、評価などを記録するキャリア・ポートフォリオの情報も使われる。
 一方、学修成果に関する定量情報として、以下の6つの能力をレーダーチャートで示す。

① リテラシー基礎力(汎用的なアセスメントテストで測定)
② コンピテンシー基礎力(同上)
③ 語学力(TOEIC等の英語外部検定試験で測定)
④ 基礎学修力(教養科目のGPA)
⑤ 専門学修力(専門科目のGPA)
⑥ 専門実践力(卒業研究や実験の能力をルーブリックに基づいて評価)

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 各能力の目標値は、企業対象の人材ニーズ調査に基づいて設定する。さらに、社会人5年目と15年目の計3000人を含む1万人を対象に、卒業生調査も実施。在学中に修得した知識やスキルが仕事でどのように生かされているかを確認し、これもディプロマサプリメントの目標値に反映する。
 キャリア支援センターは、4年間にわたって運用されるこの管理指標について学生が十分理解して学修を進められるよう、入学直後を皮切りに定期的にキャリアガイダンスを開催。その中で、目標設定のワークショップも行う。
 キャリア・ポートフォリオやディプロマサプリメントを活用しながら自らの課題を的確に把握して学修のPDCAサイクルを回せるよう、日常的な助言や面談を担当する学修アドバイザーを新規に採用する。社会経験豊富なリタイア前後の人材を想定、工学系のバックグラウンドを持つ人を加えて専門教育に関する助言もできるようにする。
 こうした取り組み全体のチェック・助言機能として、企業や地元自治体、高校、さらに他大学の関係者などからなる外部評価委員会を設ける。

●卒業研究偏重を見直し、低学年からの成長支援に取り組む

 4年間の成長支援を卒業時の質保証につなげる仕組みの構築は、文科省の要請に応えるというだけでなく、「大学としての反省もある」と湯本副学長は話す。前身の武蔵工業大学時代から就職実績に定評があり、企業からの評価の高さには自信を持つ。「しかし、4年生を卒業研究で鍛えれば優れた人材に育て上げられるという自負があり、1年生から3年生までの教育を必ずしも重視できてはいなかった」。教養教育を含め、1年次からの成長支援に真摯に取り組まなければ、変化の激しい時代に一線で活躍し続ける力は育たないという危機感が高まる中で、今回のAPの公募があった。
 事務方としてAP申請の事業計画に関わった企画室の小池慶一課長は、「この公募が1年早かったら申請は難しかったかと思う」と振り返る。「教学改革に出遅れ、他大学の取り組みを羨望まじりに眺めていた」(湯本副学長)が、この2、3年で、不本意入学者を想定した入学前教育の開発、大学が企業と連携するFuture Skills Project(FSP)のPBLプログラム導入、キャリア・ポートフォリオの電子化、卒業研究の評価におけるルーブリックの導入など、精力的に改革を進めた。「全学で取り組んできた教育への取り組みの積み上げが今回の申請の土台になった」と小池課長。

 計画を実行していくうえでいくつかの課題もある。ディプロマサプリメントの指標の一つとなるGPAを全学で標準化して信頼性を高められるよう、FDの推進は最優先事項だ。学部ごとに、国家資格やJABEE認定カリキュラムなど、さまざまな仕組み、基準によって教育の質保証がなされているが、全学として統一的に社会に示せる基準を設けたいとの考えもある。
 「自ら学び、社会の発展に貢献する、責任感と実践力を持った人材」という育成ビジョンの下、全大学の普遍的課題ともいえる卒業時の質保証に、最前線でチャレンジする。