2021.0803

早稲田大学教育学部が共通テスト5教科7、8科目を課す新入試を新設

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3行でわかるこの記事のポイント

●知識・技能を評価する共通テスト+論述中心で思考力等を評価する独自試験
●従来の独自試験3教科型も維持し、多様な学生の確保を図る
●教育の課題を解決する人材を多様な分野に送り出す機能を一層、強化

早稲田大学教育学部は2023年度入試から、一般選抜で従来の独自試験3教科型に加えて共通テスト5教科7、8科目型と独自試験を課す新方式を設ける。深い専門性を有する従来の層と広い教養を有する新たな層が共に学ぶ環境を創出して人材育成機能を強化、教育をめぐる課題解決に一層、貢献することがねらいだ。「⼊試改⾰を核⼼戦略のトップに据える」という全学的な方針もあらためて打ち出した。
 
*大学の発表内容はこちら


●教育、社会、複合文化の3学科は新方式の独自試験で総合問題を出題

 早稲田大学教育学部は現在、学部独⾃試験による3教科型(⽂科系は「A ⽅式」、理科系は「B 方式」)で一般選抜を実施している。2023年度入試からはこれに加え、「大学入学共通テスト5教科7〜8科⽬」+「学科ごと(理学科は専修ごと)の独⾃試験」で選抜する「C方式」を新設。理学科生物学専修では「B 方式」を廃止し、C方式に加え「共通テスト3 教科5 科目」+「独自試験」による「D方式」を設ける。

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 新設のC方式、D方式では、共通テストで知識・技能を評価し、学科(専修)ごとの独自試験で論述問題を中心に思考⼒・判断⼒・表現⼒を評価する。教育学科、社会科、複合文化学科の独自試験では総合問題を課す。教育学科は「資料を読み解いたうえで読解⼒・思考⼒・⽂章⼒並びに教育への関心を問う」、社会科は「社会への関⼼を問い、⽇本語または英語の資料や図表を読み解いたうえで、解答する」、複合文化学科は「複数の資料を読んだうえで、⾃分の考えを論理的に述べる論述問題」と説明している。

●「新方式は志望学科が明確な受験生に受けてほしい」

 英語英文学科を含め、英語外部検定試験の活用等による4技能評価は当面、導入しない考えだ。教育学部入試担当教務主任の守屋和佳教授は「4技能評価の意義については理解している。共通テストでの活用が見送りになった理由をきちんと精査したうえで、対応を考えたい」と説明する。
 一般選抜全体の募集人員は560人から90人増の650人。既存のA方式とB方式から計30人を新方式に移し、残り60人は「学則定員の枠内での純増」となる。
 志願倍率が約8.0 倍に達した場合は共通テストの得点で第一段階選抜を行う。そこでの不合格者は申請があれば、検定料3万5000 円のうち1万5000 円を返⾦する。
 この入試改革により、受験生(理学科生物学専修以外)は従来の独自試験3教科型か新設の「共通テスト5教科7~8科目+独自試験」のいずれかを選択できるようになる。守屋教授は「3教科型はやや狭き門になり志願者が若干減るかもしれないが、多教科型の受験勉強をしている新たな層を呼び込むことで補えるだろう。新方式の個別試験には学科ごとの特色を強く反映しており、『この学科で学びたい』という意思が明確な受験生に受けてほしいとのメッセージだ」と解説する。

●教員免許の取得を主たる目的としない独自のポジション

 今回の入試改革のねらいは幅広い知識と思考⼒、論理的思考能⼒、⾔語運⽤能⼒を持つ人材の獲得だ。
 早稲田大学教育学部は他大学の教育学部と異なり、教員免許の取得を主たる目的にはしていない。優れた教員の養成、および社会の各分野でリーダーシップを発揮し、課題を解決できる人材の養成という2本柱が特色だ。教員免許の取得を卒業要件にしておらず、取得しても教員採用試験を受けない学生も多い。近年の免許取得率は15~20%で、緩やかに下降。一方で採用試験の合格者数はほぼ一定で、教員志望度の高い学生は着実に夢を実現して巣立っている。
 大部分の学生は教育分野を含む民間企業や行政機関、マスコミ、高等教育機関など、幅広い分野で教育を軸とした専門性を生かしている。大学はこの状況を是としている。「教員の過重労働など、教育をめぐる問題は学校の内部だけ、教員だけでは解決できず、行政や報道、研究機関など、多様な分野の知見を持ち寄る協働が必要。それぞれの現場で自分の知識や考えを伝え、新分野を切り開く『社会の教育者』を送り出すことも、われわれの重要な使命だ」。守屋教授はそう説明する。
 従来の3 教科型入試では特定の専⾨分野を深めた学生を受け入れ、入学後の教育を通して「学校の教員」と「社会の教育者」を送り出してきた。入試改革によって今後、複雑化する社会課題に対応できる柔軟な思考⼒や豊かな教養を有する新たなタイプの受験生の獲得を図る。深い専門性を有する人材と幅広い教養を有する人材が共に学んで高め合い、新たな価値を創出できる環境を構築。それによって、課題解決型人材の育成機能を強化する。

●「幅広く深い教養の修得」を支援するカリキュラム改革も実施

 早稲田大学は他大学に先駆けて入試改革を進め、多様な学生の受け入れに力を入れている。教育学部もその一環として帰国生や外国人学生の入学者を継続的に集めてきた。さらに、入学者の7割を一都三県の出身者が占める状況を是正しようと、2019年度には指定校推薦制度を導入、全国で100人規模の枠を設けている。「文化的多様性」に次ぐ「思考的な多様性」の確保という課題が、今回の改革に結実した。
 教育学部のカリキュラム・ポリシーでは今回の入試改革と連動する「深い専⾨性、幅広い知識、豊かな教養、優れたコミュニケーション能⼒を⾝に付けた⼈間の育成」を掲げる。これを実現するためのカリキュラム改革も推進しており、その一つが2019年度に設けた副専攻の「総合科学プログラム」だ。複合文化学科(2007年度設置)で行っていた文理融合学修の概念を学部全体に適用、多様な学科・専攻・専修から成る学部のリソースを生かし、学科の枠組みを超えた科目履修による学際的学修コースを提供することで、幅広く深い教養の修得を支援する。

●「求める人材に入学してもらうための入試改革の検討・実践を継続」

 早稲田大学は2021年度入試で政治経済、国際教養、スポーツ科学の各学部で共通テストを必須化、政治経済学部では数学Ⅰ・Aを必須にした。その影響もあり志願者数は大きく減少。入学センターの城座俊輔課長は、「ある程度の志願者減は予想していた」としつつ、コロナ禍による高校や予備校の学習の遅れ、オープンキャンパスなどの入試広報が予定通りできなかったことが影響したと指摘する。「政治経済学部の入試は『数学の必須化』が独り歩きし、学部の意図、例えば配点は共通テスト100点、独自試験100点で独自試験での挽回も十分可能だということがきちんと伝わらなかった」。
 これら3学部では、志願者減の一方で偏差値は上がったという。他の属性も含めどんな学生が入学したか検証したうえで、今後の入試改革を検討する考えだ。「本学では学部ごとの独自性を尊重しているので、政治経済学部方式や教育学部方式が一気に他学部に広がることはない。学部がそれぞれのアドミッション・ポリシーと時代変化をふまえ、理想の入試方式を検討している」(城座課長)。
 創⽴150 周年(2032年)を⾒据えた同大学の中⻑期計画「Waseda Vision150」では、グローバルリーダーとして活躍できる人材の育成に向けて、教育研究の改革を進める考えを打ち出した。教育学部の入試改革に際し、「本学では⼊試改⾰を核⼼戦略のトップに据えて真に求める人材に入学してもらうべく、検討と実践を継続的に推進する」という考えをあらためて表明した。「核⼼戦略のトップ」に据えられた入試改革の、次なる一手が注目される。