探究学習評価型入試① レポートで意欲を測る一般選抜-産業能率大学

●総合型選抜で獲得してきた「PBLのコアとなる学生」を一般選抜でも
●進学校で探究学習にのめりこんだ生徒に多面的・総合的評価で光をあてる
●共通テストの基準点で教科学力を担保、2つのレポートで意欲や思考力を評価

2022年度から高校で新教育課程が実施されるのを受け、各大学で入試の見直しが始まりつつある。先行実施されている探究学習については、その成果を評価する入試をいくつかの大学がすでに導入。自学の教育とのマッチングをはかるこの入試を、シリーズで紹介する。初回の産業能率大学は2021年度、探究学習の成果を評価する一般選抜「未来構想方式」をスタート。教育の特色であるPBL型授業でコアな人材として活躍できる主体性や意欲がありながら、総合型選抜ではすくい上げられなかったタイプの学生を受け入れる。一般選抜で、面接なしに多面的・総合的評価を行うチャレンジでもある。
*大学のプレスリリースはこちら
*この記事では、2020年度入試以前に実施していた「AO入試」も便宜上、「総合型選抜」で統一しています。


●共通テストは出願要件で、得点は合否に影響しない

 産業能率大学(東京都世田谷区)は経営学部に経営学科とマーケティング学科、情報マネジメント学部に現代マネジメント学科を置く2学部3学科の大学で、入学定員は810人。
 2021年度に導入した一般選抜「未来構想方式」は、求める人材像として「社会課題に対し、主体性を持って向き合うことができる」「高校で探究学習、課題研究に取り組み、意欲的、積極的に行動できた」「地域の課題に問題意識を持ち、起業家や組織のリーダーとして課題解決の担い手になることをめざしている」などを挙げている。
 この入試では①大学入学共通テストで3教科(国語・英語が必須)を課し、得点率50%以上で出願を認める、②ネット出願時に「事前記述課題」を提出させる、③2月17日、試験会場で「未来構想レポート」を書かせる-の3段階で実施され、「事前記述課題」と「未来構想レポート」の総合評価で合否を決める。共通テストはあくまでも「産業能率大学で学ぶためには、これくらいの学力を身に付けてほしい」という基準であり、得点は選抜には使われない。

●現実的な課題解決手法を見るため、スマホやタブレットの持ち込みも可

 初年度の「事前記述課題」は、「『持続可能な多様で豊かな社会』を構築するための意欲あるいは『地域創生』への意志など未来への意欲について、探究学習の経験を踏まえ」、600字程度で記述してもらうという内容。
 対して「未来構想レポート」は、「近未来のある地域での社会状況(シナリオ)を読み、このような状況に陥らないためには、どのような構想を描き、方策を構築するべきか考え、レポートをまとめる」という課題の下、レポート用紙2枚程度の文章を書かせる。初年度の課題文はこちら
 「未来構想レポート」では知識や経験、情報を組み合わせながら社会の課題を発見・解決する思考力を見るため、スマートフォンやタブレットの持ち込みを認める。知識や経験だけでは足りない部分をネット検索で補うという、現実の課題解決手法の習熟度も評価の対象にするからだ。
 「事前記述課題」「未来構想レポート」はそれぞれ、ルーブリックに基づき8段階で評価。2つのレポートの評価比重はおよそ2対8で「未来構想レポート」を重視する。

hyokapint.png

●「面接でないと意欲を評価できない」という固定観念に異議

 一般選抜としては異色のこの入試は、産業能率大学の教育にマッチする学生を受け入れることがねらいだ。同大学では、さまざまな企業・団体と連携して課題解決に取り組むPBL型授業を数多く展開。その中で、地域課題の解決にも力を入れている。
 このような教育との接続を重視する入試として従来、総合型選抜の開発に力を入れてきた。「キャリア教育接続方式」や「アクティブラーニング方式」は、PBL型授業で一般選抜による入学者をリードして活性化させる、主体性と意欲に富む学生を獲得する入試として定着。これらの入試を通じて産業能率大学の教育の特色を理解し、第一志望で受験する者も増えているという。
 「未来構想方式」は、そのような学生を一般選抜でもとりたいと考えたところから検討が始まった。文部科学省の入試改革で示された「学力の3要素の多面的・総合的評価」という理念に共感し、知識や思考力だけでなく主体性や意欲を測る一般選抜を模索。高校で活発化する探究学習の成果を問うことによっても、意欲を測定できると考えた。
 入試企画部の林巧樹部長は「意欲を見るために面接を入れることは、当初から考えなかった」と説明する。「一般選抜でも主体性を見ることは大事だと多くの大学が考えているが、『主体性の評価=面接』という固定観念にとらわれ、『私立大学の一般選抜で主体性評価はできない』と結論づけることに、常々疑問を感じていた。面接以外の方法でも可能なはずだ、と」。
 「『持続可能な多様で豊かな社会』を構築するための意欲」をストレートに問う「事前記述課題」は、まさに意欲を見るものだ。探究学習を重ねた生徒は答えやすいであろうこの課題を通して、社会の一員としての姿勢を見る。意欲が高くても、面接ではそれを十分に表現できない生徒もいる。総合型選抜では見い出せないそのようなタイプの受験生に別の角度からアプローチすれば、「PBLのコアとなる学生」の層を厚くできると考えたのだ。

●「多面的評価を望む生徒は進学校にもいるはず」

 「一般選抜で主体性を評価する」「探究学習の成果を評価する」ことへの強い思いについて、林部長はさらに説明を重ねる。
 「『一般選抜は知識・技能(リテラシー)を見るもので、総合型選抜は主体性や意欲(コンピテンシー)を見るもの』という固定観念が、大学にも高校にも、社会にもある。この二分法的な発想を打ち破るためにも、この入試は一般選抜として実現する必要があった」。
 「総合型選抜で探究学習を評価する入試は他大学にもある。しかし、教科・科目の勉強を頑張りつつ、探究学習にも意欲的に取り組む生徒だっているはずだ。そういう生徒は教科学力だけでなく、探究学習で学んだこともちゃんと評価してほしいと思うのではないか」。こうした「二分法の枠に収まらない」多様な生徒がいることは、長年、SSHやSGHを含む全国の高校と連携し、総合学習や探究学習を支援してきた経験を通して実感している。
 「一般選抜中心のトップ校や進学校の生徒が探究学習にのめりこんで共通テストで点が取れず、第一志望校をあきらめるとしたら、とても残念。そういう生徒の受け皿として、多面的評価型の一般選抜が必要ではないか」。

●「数年間は志願者が集まらなくてもいい」と割り切る

 「多面的評価による一般選抜」を具体化しようとすると、私立大学の入試に求められる「受けやすさ」「志願者確保の可能性」からは遠ざっていく。一方で、これらの要件に縛られてハードルを下げると、欲しい学生は集められない。そんな葛藤を経て、「数年間は集まらなくてもいい」と割り切り、思い描く入試の実現にこだわった。かつて、高校へのヒアリングを重ね、満を持して始めた「キャリア教育接続方式」が当初、志願者をほとんど集められず、軌道に乗るまで4、5年かかったことが念頭にあった。林部長は「『未来構想方式』も数年間続けながら改善を重ね、定着させられればいい」と話す。
 結果的には2学部3学科で計25人が出願し、17人に合格を出した。従来より上位の高校を含む幅広い学力層の高校から出願があり、公立大学を辞退して入学した学生もいた。各入試方式の入学者を分散させてクラス編成する初年次ゼミの担当教員は、未来構想方式で入学した新入生について「PBLに主体的に向き合う姿勢はねらい通りで、さらに、総合型選抜の学生以上に論理的な考察ができる」と話している。

●学びの文化に共感して出願する受験生の増加を期待

 想定より成績上位の志願者がいたことをふまえ、2年目となる2022年度は共通テスト5教科型を追加し、この方式での学費は国立大学並みに減免する。さらに、3教科型、5教科型いずれも3月上旬の後期日程を加えた。
 一方、総合型選抜の「アクティブラーニング方式」では、首都圏では少ない併願可能な方式を新たに構築した。探究学習の成果を総合型選抜で試したいが、一般選抜にもチャレンジしたいという受験生のニーズに応えるために開発。林部長はこれを「一般選抜寄りの総合型選抜」と説明する。学力の3要素を多面的・総合的に評価するという理念を各入試方式で具体化していくと、いずれ入試方式を明確に区別するのは日程のみになるのかもしれない。
 2月中旬にレポートを課す一般選抜「未来構想方式」はこの先、注目が高まり志願者が増えると実施不可能になるのでは-? この質問に対し、林部長は笑って「増えません」と即答。「評価者を増やせば各学科100人程度は対応できるだろう。しかし、この入試は志願者集めのためではなく、高校でこういう力をつけてきてほしいという本学のメッセージでもある。学びの文化に共感し、成長可能性や学ぶ楽しさという新たな選択軸で本学を選んでくれる受験生が増えたら嬉しい。18歳人口が減っていく中で、数年先には志願者の数を競うような時代は終わると思う。本学は新たなステージでの入試を問い続けたい」。


*関連記事
早稲田大学教育学部が共通テスト5教科7、8科目を課す新入試を新設
入試改革の有識者会議が提言-改革総合支援事業等による取り組み促進へ