2019.0415

電気通信大学-アセスメントを改革の根拠、学生支援データとして活用

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3行でわかるこの記事のポイント

●試行実施によって推薦入試の実施意義を確認
●GPAでは見えない学生の思考力、姿勢・態度等を把握
●全体傾向を改革に反映し、個別データを学生に還元して学修計画を支援

電気通信大学は教育の成果検証とPDCAサイクル確立に向け、2019年度からアセスメントテストを本格導入する。2018年度の試行実施で推薦入試による入学者の特性が明らかになり、入試改革の議論のためのエビデンスを取得できたことが弾みとなった。試行実施でどんな発見があり、今後、アセスメントデータをどう活用する方向なのか、IR担当者に話を聞いた。


●「GPAが低い=求める学生ではない」は真か?

 電気通信大学は2016年度に教育体系を大きく見直した。情報理工学域(学部)の下、従来あった4学科を学生の興味・関心に合わせた「Ⅰ類(情報系)」「Ⅱ類(融合系)」「Ⅲ類(理工系)」という3つの類に再編。1年次は全学共通科目で理工学全般の基礎を学び、1年次後学期に類共通科目で自分の興味・関心、適性を確認したうえで2年次後学期から14の教育プログラムに分かれる仕組みだ。
 この改組をはじめ様々な改革の成果を検証し、次の改革につなげるというPDCAサイクル構築を担う役割として2017年にIR室を設置。情報理工学研究科の中村淳教授が学長補佐として室長を務める。
 2021年度からの入試改革、およびそれと連動する形での教学改革、学修成果の可視化と教育の質保証など、山積する課題を前に、中村教授と室職員の長谷川擁(たすく)氏は「改革を進めるためにはどんなデータを収集・分析すべきか」と頭を悩ませていた。
 例えば、入試改革。従来の知識・技能偏重を脱して学力の3要素を多面的に評価し、多様な人材を受け入れるという改革の理念は自学のめざすところでもある。しかし、思考力や主体性を測るノウハウが確立できているわけではない。思考力を評価するには学生に何を問えばいいのか―。情報を求める中で出合ったのがベネッセi-キャリアの提供するアセスメント「GPS-Academic」(以下、「GPS」)だった。
 教育を通して育成される思考力を測定し、測定精度を上げるために毎年、設問を改訂している点などに着目。入試改革の出発点として、まずはこのアセスメントを使って現行入試を検証することにした。
 対象として選んだのが「推薦入試(一般)」。この入試方式の意義について、教員から懐疑的な声が挙がっていることも背景にあった。評定平均値4.0以上を出願資格とし、ペーパーテスト、面接、書類審査など、手間ひまをかけて全募集人員のほぼ1割にあたる67人を選抜する。にもかかわらず、入学者の初年次のGPAは一般入試による入学者より決して高いとは言えない状況だという。そのため、2021年度までに推薦・AO入試等の入学者の割合を3割まで増やすという国立大学協会の方針に、学内では不安の声も聞かれるという。
 そこで、推薦入試で求める人材がとれているか確認しようと、2019年度の入学予定者約65人を対象にGPSを試行実施。比較のため、卒業直前の4年生も対象とし、推薦入試による入学者約20人と一般入試による入学者約220人に受検してもらった。

●推薦入試による入学者は創造的思考力の高さが際立つ

 GPSの結果を基に批判的思考力、協働的思考力、創造的思考力の3つについて分析したところ、中村教授らが驚くほどはっきりした傾向が浮かび上がった。

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 一般入試で入った4年生(グラフでは「卒研・一般」と記載)は創造的思考力が他の2つの思考力より高いが、全体として大きな偏りはない。
 対する推薦入試の学生を見ると、入学前は協働的思考力が低く、4年生(グラフでは「卒研・推薦」と記載)もこれを少し上回るレベルで、一般入試の4年生との差が大きい。入学前の学生と4年生は同じ学生を追跡したデータではないが、4年生を「推薦入試による入学者の4年後の姿」と読み替えると、推薦入試では一般入試に比べて協働的思考力が低い学生が入り、あまり伸びないまま卒業するということになる。一方、批判的思考力は4年生の段階で一般入試の学生よりかなり高い。特筆すべきは創造的思考力で、入学前でも一般入試の4年生と同レベル、卒業時にはさらに伸びて一般入試の学生を大きく上回る。
 一般入試と推薦入試では入学者の特性が明らかに異なり、推薦入試ならではの明確な強みがあると結論づけ、この入試方式を実施する意義をあらためて確認できた。「推薦入試組は学力試験だけでは測りきれない、きらりと光る何かを持っている」。教員のこうした肌感覚が客観的なデータで示され、学生を多面的に捉えることの重要性を認識した。
 両入試合わせた4年生の9割が電気通信大学の教育に満足していることも分かった。同大学は単位認定基準が厳格なため留年率が高く、全国大学生協組合連合会が実施する学生生活実態調査では毎回、教育満足度が全国平均より低いという。「全学年平均の満足度は低くても、4年間を振り返る時には高いということは、我々にとって自信と励みになる。4年次で研究室に入るとST比がほぼ3対1になり、きめ細かく対応できることが満足度を上げているのではないか」(中村教授)。
 GPSは思考力の全体傾向に加え、姿勢・態度、大学への期待などのアンケート項目も含めて受検者一人ひとりの特性もあぶり出す。電気通信大学の試行実施では、推薦入試による入学者について「思考力が全て高いのにいずれについても自信はなく、リーダーシップ等の姿勢・態度のスコアがおしなべて低い」「第二志望で入学。思考力、特に協働的思考力が低く授業についていけるか不安を抱えている」といったタイプなどが報告された。このレポートに目を通していると、それぞれの学生にどんな配慮が必要か、具体的なイメージが湧きやすいという。
 「今後の入試改革や教学改革、学生支援について、エビデンスに基づく議論をするための出発点に立つことができた」と中村教授。GPSに対する期待が高まり、2019年度は推薦入試による入学者に加え、対象学年を広げて本格的に実施することを決めた。

●FD研修会ではデータを基に入試改革、教学改革について議論

 同大学ではアセスメントデータの主な活用法として、①全体傾向に基づく入試改革や教学改革、学生支援の検討、②学生が主体的に学修に向かうための自分の特性把握、③大学による個別の配慮や支援を必要とする学生の抽出などを考えている。
 まずは①に着手すべく、2019年4月の全学FD研修会でIR室が今回の試行結果を報告する予定だ。推薦入試による入学者の創造的思考力をさらに伸ばし、協働的思考力やGPAを引き上げるにはどんな支援が必要なのか。一般入試でも批判的思考力がより高い学生を選考するには入試のどの部分を見直すべきか。そんな議論が展開されそうだ。
 同大学では、2021年度入試から新たに総合型選抜を実施し、21人を募集することが決まっている。ペーパーテストに代えて、高校在学中の科学系コンテスト等での主体的な活動や、自学で実施する高大接続型スクーリング教育(UECスクール)等での積極的な活動を重視する予定だ。推薦入試の意義を学内で共有することができれば、総合型選抜も、多様な学生を確保するための新たな入学者選抜の試みとして定着させていくことができると大学側は期待している。

●キャリア教育科目で自己分析に活用することを検討

 学長らトップ層は、2016年度の改組がねらい通りに機能しているかという検証など、教育の質保証におけるアセスメントデータの活用に期待を寄せる。
 一方、中村教授はアセスメントデータを学生の個別支援に生かすことが特に重要だと考えている。先に挙げた「③大学による個別の配慮や支援を必要とする学生の抽出」については、アセスメントの活用範囲に関する学生の同意取得や学内での合意形成など、環境を整えるまでに今しばらく時間がかかると見ている。
 当面は「②学生が主体的に学修に向かうための自分の特性把握」の実現を探る。「入学時の力や学年ごとの学修成果は学生本人に対してもきちんと可視化すべき。自分の強みと弱み、行動特性を把握したうえで一つひとつの授業を通してどう成長したいか、意識づけをすることが重要だ。学修ポートフォリオとの連携も重要になる。」(中村教授)。
 キャリア教育の授業でアセスメントデータを使って自己分析し、各自の目標達成に向けて主体的な学修計画を立てさせることなどを考えている。「理工系の学生は専門性さえ高めればいいというわけではない。自分の専門分野を社会で生かせるという実感を持ち、具体的な生かし方を主体的に考える必要がある。そうしたキャリア形成のためのデータを提供することも大学が果たすべき役割ではないか」。
 「③大学による個別の配慮や支援を必要とする学生の抽出」についても、他大学での実践例を参考にしながら手法を模索していく。入学前から学生の特性を把握し、IR室が中心となる一元的なデータ管理の下、卒業に至るまで一人ひとりを適切に支援するエンロールメントマネジメントの仕組みを構築したい考えだ。
 中村教授は「国立大学法人の第4期中期計画では教育成果に関する数値目標を求めらるれだろう。GPAだけでは示せない成果を可視化するためにアセスメントをうまく活用していきたい」と説明。学生中心の教学改革を進めるうえで学生満足度を特に重視し、他大学をベンチマークしながらさらなる満足度の向上をめざす。

*GPS- Academicの詳しい説明はこちら