2019.0206

2019年4月更新:広島経済大学~戦略的定員割れの現在地<下>経営も底を脱し明るい兆し

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3行でわかるこの記事のポイント

●夢と熱意で現場を動かしたトップのリーダーシップ
●「学生のため」という方向性を共有し、教職員が積極的に提案
●次のステージをめざし「学びと実践を往復する教育」を強化

広島経済大学は2013年度入試から合格最低点を引き上げ、同時に教育改革も進めてきた。入学定員割れを受け入れて踏ん張る中、志願者数やGPA、授業の雰囲気など、数と質の両面で確かな成果が顕在化。そして2019年度、悲願だった入学定員充足を果たした。改革構想の中心に学生を置き、トップのリーダーシップの下、教職協働で進めてきた「戦略的定員割れ」の成果と今後の課題を2回にわたって報告する。今回は、改革の舞台裏、そして定員割れ脱却に向けた考えについて聞いた。

*「広島経済大学の戦略的定員割れの現在地<上>GPAや中退率で着実な成果」はこちら
*広島経済大学の戦略的定員割れに関する2016年の記事はこちら
 選ばれる大学になるために「戦略的定員割れ」を続ける
 広島経済大学―マーケットデータに基づく広報戦略で入学者の質確保を図る


●結論を先送りせずスピーディに決まっていく会議

 覚悟と痛みを伴う改革を、広島経済大学はなぜやれたのか。松井寿貢事務局長は即座に「理事長と学長のリーダーシップによる部分が大きい」と答える。「両者がしっかりコミュニケーションをとって経営と教学それぞれの重要性を理解し合い、尊重し合って同じ方向を向いていたからこそできた」。
 石田優子副学長は「ただし、トップダウンの押し付けではない」と補足する。「トップが、今この時代、この社会にどんな人材を送り出したいか、どんな大学でありたいかという夢を熱く語り、それが教職員の気持ちを動かした」。
 教育改革について話し合うCC(カリキュラム・コーディネート)会議には当初、「負担が増えたら困る」「カリキュラム改革で自分の担当科目がなくなるのでは」という不安や警戒心から出席する教職員もいたようだが、その多くが次第に「学生のために何をすべきか」「自分に何ができるか」と主体的に考え、積極的な提案をするようになったという。
 石田副学長は「『そんな大変なことを言い出して本当に大丈夫?』とこちらが心配になる提案もあった」と振り返る。例に挙げたのが、2年次の中だるみ問題の対策として提案された2年次ゼミの開講。教員の負担増大を心配し、持ち帰ってあらためて検討するよう促しても「いや、やらせてください」と引かない。
 一方、「2年次ゼミで授業数が増えるが、時間割は組めるのか?」と質問が挙がると、今度は教務課長が「大丈夫、やれます」と即答。「それぞれの現場に精通した教職協働の会議なので結論の先送りがなく、ものごとがどんどん決まっていった」。松井事務局長はそう説明する。
 CC会議ではトップから現場へ、教員同士で、そして教職員の間で熱意が伝染し、次々にアイデアが生まれた。石田副学長は「目の前の若者をきちんと育てたいという、大人なら誰もが持っている愛情が湧き出していた」と振り返る。

●入定厳格化の影響による定員割れは「新たなステージ」

 2018年度は上位校の追加合格による入学辞退の続出で、入学者数が再び前年割れとなった。しかし、大学側はネガティブな受け止め方はしていない。入試広報センターの岡田英幸センター長は「国公立大学を含む上位校との併願が大幅に増えた結果であり、以前の定員割れとは中身が違う。新しいステージに移ったと考えている」と説明。「両方受かった時に多くの受験生に選んでもらえる大学になるため、今後も表面的な目新しさを追求するのではなく、これまでやってきた教育をさらに強化していきたい」。
 その姿勢が2019年度、7年ぶりの入学定員充足につながった。今後も、学びと実践を緊密につなぐ教育プログラムの強化によって他大学と差別化し、「広島経済大学でなければできない学び」を選んでもらうという目標を着実に実現していくという。
 同大学は、地域課題への取り組みを通してチャレンジ精神や行動力を育てる課外の「興動館プロジェクト」を2006年度から展開している。これがやりたくて入学したという学生も多いが、プロジェクトでの実践のベースとなる知識を修得させる支援が十分ではないという問題意識が学内にあった。できることから始めた2013年度以降の教育改革は、この問題へのソフト面での対応でもあった。カリキュラム改革と厳格な成績評価によってしっかり学ばせ、知識を身に付けさせようというわけだ。
 一方のハード面の対応は2016年12月に完成したアカデミック・コモンズ明徳館だ。10階建ての全館がゼミ室や自習スペース、ディスカッション、プレゼンテーションといった学びの場で、アイデア創出と主体的な学びを促し、学生が自らの成長を実感できるよう工夫を凝らした。石田副学長を中心とした教職協働で2年間かけて設計、床の色や机の形状・配置など細部までこだわり抜いたという。

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 ソフトとハードの両面から知識の修得を支援し、興動館プロジェクト等で知識を実践に移す機会を提供する。学びと実践を行き来しながら社会で活躍する力を修得させ、それを教育の特色としてより強力に打ち出すことで、選ばれる大学になることをめざす。
 学力面で入学者の質を上げていく戦略によって、興動館プロジェクトに象徴される広島経済大学の「チャレンジ精神旺盛で元気な学生」というイメージが薄れるのではないか―。高校教員からはそうした懸念の声も聞かれるという。しかし、実際にはプロジェクトに参加する学生は数も割合も増える傾向にある。「知識とチャレンジ精神は相反するものではなく、知識に対する自信から何かやってみたいという学生は確実に増えていくだろう」と石田副学長。

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●「定員割れによる減収は将来への投資」

 2019年度は経営学部とメディアビジネス学部の新設効果もあり、2月上旬時点で4年連続の志願者増となった。一般入試1期は2.8%増の1546人、センター利用入試1期は11.2%増の916人で、推薦・AO入試の志願者もそれぞれ増えた。こうした結果の手応えはオープンキャンパス参加者の数や反応からも感じていたという。最終的には定員850人を上回る866人の入学者を迎えた。

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 2学部の新設は経済学部の再編に伴う改組で、学科から学部に昇格することでスピーディな判断、機動力ある運営が可能になる一方、学部間の連携による教育の充実も図る。
 戦略的定員割れによって、2013年度から2017年度までの学生納付金の減収は29億円に上る。内部留保を取り崩してしのぐ中でも、教育の質にかかわる人件費や教育研究費は削らず、明徳館の建設費もより良いものをめざした結果、当初予算を大きく上回った。

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 7年ぶりの定員充足について石田副学長は「大きな目標を1つ達成したが、これで終わりではなく新たなステージに立ったと認識している6年前にあのような決断をせず何の改革もしてこなかったとしたら、今ごろは定員を埋めるために底をさらうような学生募集をしていたかもしれない。そう考えると怖くなる」と話す。「29億円は単なる減収ではなく将来のための投資だったと考えている」と松井事務局長。
 「これからも学生本位の学びを大学運営の柱に据え、目の前の学生をどう伸ばすか考え続ける。そのためにも教職協働の伝統を大切に、トップと200人の教職員が同じ方向を向いて進んでいく必要がある」。石田副学長はそう決意を語った。