教育力を"見える化"〈上〉茨城大学~成長実感に企業の評価も加え、紹介
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2023.1212
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3行でわかるこの記事のポイント
●コンパクトで楽しく、わかりやすいサイトで学内外とコミュニケーション
●DP達成度の経年比較で「教育力が年々、向上」をアピール
●卒業生調査や成長させる仕組みも加え、大学の姿を立体的に伝える
「教育力の可視化」「情報公表」の重要性が盛んに言われ、大学の4割が教育成果として学生の成長実感を公表するようになった(2021年度の文科省調査)。しかし、平板な数字とグラフを並べただけで高校生や一般の人の興味を引き付けなかったり、大学の特色である「成長させる仕組み」を伝えきれなかったりというケースが多い。こうした中、国立大学の教学IRをリードしてきた茨城大学と佐賀大学がそれぞれ、ウェブサイトで自学の特色の"見える化"に挑んでいる。両大学に共通するのは「ディプロマ・ポリシー達成度の自己評価が中心」「ワンスクロールでコンパクトに、イラストやアニメーションで楽しくわかりやすく伝える」「成長させる仕組みも説明」といった点だ。まずは、先陣を切った茨城大学のサイトを紹介する。
*図はいずれも大学のウェブサイトから
茨城大学はディプロマ・ポリシー(DP)として、5つの知識・能力からなる「茨城大学型基盤学力」を設定している(Beween」No.310参照)。
学生は入学時から卒業時まで毎年、これらの知識・能力の到達度を自己評価する。卒業後3年目にも追跡調査を実施するほか、就職先の企業等にも卒業生の評価を依頼している。
大学のウェブサイトに設けた「茨城大学コミットメントがみえる。」では、これらの調査データをもとに、DPの達成度を立体的にわかりやすく伝えようという意欲がうかがえる。
サイトの冒頭では、卒業生によるDP全体の達成度の平均値を2016年度から2021年度までの経年変化で示している。「身についた」が5年間で50%台半ばから70%台後半まで徐々に上昇するグラフは、「茨城大学の教育は年々良くなっている」ということを、学生の成長実感というエビデンスを通して端的にアピールする。
次に、DPの各項目について、2021年度の卒業生が入学時と卒業時に「身についた」と答えた割合を比べ、4年間の成長度を可視化。卒業生のその能力を「評価する」と答えた就職先企業の割合もあわせて掲載している。
卒業時の自己評価より企業の評価がやや低い項目がある一方、「コミュニケーション力」のように、自己評価(67%)を企業の評価(90%)が大きく上回るものも。データをありのまま公開することによって、強みもあれば課題もあるという大学のリアルな姿が浮かび上がる。
さらに、社会に出て3年目の卒業生の追跡調査をもとに、5つの知識・能力の活用度も紹介。
卒業時に「身についた」と答えた割合が高いものほど、「活用できている」の割合が高い。広報室の山崎一希氏は「身についていなければ活用できないというのは当然だが、身についたという自覚があってこそ、活用できているという実感が高まることを物語ってもいる。学生に力をつけるだけでなく、自己評価を通してそのことを明確に認識させることが大切だ」と話す。
「学生生活実態調査」のデータも使い、「茨大に入学してよかった」「指導教員や担任の支援が充実」の肯定率、授業外学習時間などを紹介。高校生が「茨城大学に入学したら...」とイメージする助けになりそうな情報だ。
サイトの後半では、太⽥寛行学長が「データに基づき、地域と協働する教学マネジメント」について説明。
茨城大学は、DP達成をめざす教育を「茨城大学コミットメント」として学生や教職員、地域に約束している。入学式の後、配付する「コミットメントブック」をもとに上級生が4年間の学修とDPとの関係について説明。大学は、学生と学びの約束を交わすこの場を「コミットメント・セレモニー」と呼んで大切にしている。
学生はDPについて理解し、意識したうえで学修を進めて達成度を自己評価する。大学はそのデータを蓄積し、教育改善に生かす。サイトでは、こうした教学マネジメントの仕組みについても平易な言葉で説明。さらに、DP達成の仕組みの例として、学生の主体的な学外学修を促す「iOP(internship Off-campus Program)」も紹介している。
「茨城大学コミットメントがみえる」は全学の教学マネジメントを担当する全学教育機構と広報室が制作。2020年3月の公開以来、毎年度末に更新している。
大学がめざす教育のゴールとその達成のための仕組み、そして成果をデータとビジュアルでわかりやすく伝えるこのサイトは、一義的には「コミットメントブック」「コミットメント・セレモニー」などとセットにした学生、教職員向けの発信だという。サイトの基調色の黄色は「コミットメントブック」にそろえたものだ。
「学生が自信を持って進んでいけるよう、大学での学びが確かな力になっていることを伝えたい。われわれは教育にさらに磨きをかけ、応援するというメッセージもこめている」と山崎氏。
一方で、高校の校長や教員からも「茨城大学の教育を知るうえで、コミットメントブックとこのサイトが一番役に立つ」と好評だという。
「サイトが大学のコミットメントを軸に、さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションツールとして活用されるよう、今後もブラッシュアップしていきたい」(山崎氏)