2023.0405

"ダブル留学+社会科学+データサイエンス"の分野横断新学環-甲南大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●学部等連係課程制度を活用して新設
●ローカルな問題を世界基準で捉え、解決する人材を育成
●異文化調整、課題分析、企画立案等を横断的に学ぶ

甲南大学は2024年、「グローカル人材」の育成をめざす「グローバル教養学環」(STAGE =Special Track for Accelerated Global Education)を新設する。「複数言語圏へのダブル留学」を必修にし、社会科学やデータサイエンス・ AI 等の幅広い知見とグローバルな視野で地域の課題解決に取り組む人材を送り出す。


●定員25人の学環を全学教育推進機構に置き、教員11人が担当

 甲南大学の「グローバル教養学環」(STAGE)は学部等連係課程制度を活用して新設され、分野横断の新たな学位プログラムを実施する。入学定員は25人で、法学部から15人、マネジメント創造学部(CUBE)から10人を割り当てた。全学教育推進機構の中に置かれ、学部等と同じ位置づけとなる。
 開設準備委員会委員長を務める野村和宏氏(全学共通教育センター教授)をはじめ、同センターの教員11人が中心となってSTAGEの教育を担う。教員の専門分野である語学、グローバル教育、経済学、法学、行政学などをカバーする教育がなされる。
 法学部とマネジメント創造学部の教員2人も、学部教授会に相当する学環会議に参加し、運営に関わる。

●「グローバル教育の新たなシンボルとなるプログラムを」

 甲南大学は創立者・平生釟三郎(ひらお はちさぶろう)が掲げた「人物教育の率先」を建学の理念とし、「世界に通用する人物」を育成するグローバル教育に力を入れてきた。2015年から、学部を問わずすべての学生がグローバル教育を受けられる「融合型グローバル教育」を推進。海外大学との交流協定締結、留学プログラムの開発に取り組んだ。
 学内の国際交流拠点として、グローバルゾーン「Porte(ポルト)」も整備。学生と留学生が共に学ぶ「グローバルラーニングコモンズ」など3つのエリアに、オープンカフェも併設する。
 コロナ禍においても、オンライン留学や新たな留学制度を設け、世界とつながり、学びたいという学生の意欲を後押ししてきた。
 外国語大学から移り、2021年に甲南大学に着任した野村教授は「国際系学部を持つ大学と比べても遜色がないほど、充実したグローバル教育が実践されている」と話す。同年に設置されたタスクフォースで次なる可能性について話し合った結果、「グローバル教育の新たなシンボルとしてアピールできる尖ったプログラム」の設置が決まり、野村教授ら開設準備委員会に具体的な検討が委ねられた。

●グローバル社会で求められる文理横断的な知識・技能を修得

 甲南大学は「グローバル、ローカル、いずれの課題についても世界基準で考え、持続可能で活性化した社会の実現に貢献できる人」を「グローカル人材」と定義。STAGEは「グローカル人材として社会の第一線で活躍する人物」の育成を掲げる。
 野村教授は、予測困難で多様な価値観がせめぎ合うグローバル社会で求められる力として、次の3つを挙げる。
①文化や言語の壁を超えて協働するための言語運用力と異文化調整力
②新たな価値創造や課題解決のための政策・企画立案力
③データサイエンス・AI、ICTの活用を含む文理横断的な知識と技能
 このような力を修得させるため、STAGEの教育は「複数言語圏へのダブル留学」「4年間のゼミ」「社会科学・国際、データサイエンス・ AI 等の幅広い学び」「企業・行政等との連携によるPBL(課題解決型学習)」を特色とする内容になっている。
 これらについて、カリキュラムに沿って説明する。

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●複数言語運用力・ダブル留学-長期留学を軸に履修や短期留学を計画

 1年次は英語を週4回、ドイツ語、フランス語、韓国語、中国語の中から選ぶ第二外国語を週2回、集中的に学ぶ。
 卒業要件となるダブル留学については、入学直後から考える各自のキャリアプランに基づき、長期留学(半年~1年間)を軸にして検討する。就職活動との兼ね合いで、多くの学生は2年次後期から3年次前期にかけて長期留学に赴くことになりそうだ。科目履修の計画もふまえ、夏休みや春休みに短期留学を組み込む。
 甲南大学では、協定による留学先が16か国42校あり、認定による留学先を合わせると21か国145校の受け皿が提供されている。長期、短期とも、豊富な留学プログラムの中から、それぞれの興味・関心や目的に応じて行き先を選ぶ。短期留学は、学外機関が提供する海外ボランティアも対象になる。
 短期留学の費用は学費に組み込まれる。長期留学の費用は、甲南大学や留学先の授業料減免によって負担軽減を図る。
 留学からの帰国後は、語学科目の中上級クラスで言語運用力に磨きをかける。

●4年間のゼミ―留学先からもオンラインで参加

 11人の教員がアカデミックアドバイザーとして、4年間にわたってチーム体制で少人数ゼミの指導にあたる。学生は世界のニュースにアンテナを立てて情報収集し、要点をまとめて発表、意見交換などを繰り返す。留学先からもオンラインで参加し、留学で得たものを共有するなど、仲間と刺激し合い、切磋琢磨して学びを深める。
 留学中の学生には、現地での調査結果やメディア等で得た情報の提供を通してクラスに貢献してもらう。時差が大きい国への留学者については、個別に録画した発表をゼミで共有することも考えている。野村教授は「現地の大学に学生を預けっぱなしではなく、学環の学生として責任を持って指導し、成長させるために教員は最大限の努力をする」と説明する。
 協定校のピッツバーグ大学やアリゾナ大学とのCOIL(オンライン国際協働学習)の導入も検討されている。

●社会科学・国際、データサイエンス・ AI 等-他学部の専門科目も履修

 課題解決のための政策の企画・策定に必要な力として、経済学、法学・政治学、経営学などの幅広い知識を修得する。1年次は、全学共通科目で開設される「基礎共通科目」を履修。2年次以降は経済学部、経営学部、法学部等の専門科目や「キャリア創生共通科目」を学ぶ。
 課題分析力を養う統計・データサイエンス・AIについては8単位の選択必修とし、低学年でリテラシーレベル、高学年は応用基礎レベル相当の科目で学ぶ。情報倫理やセキュリティについて学ぶ科目も設ける。

●グローカル実践PBL-企業等の課題解決に取り組む

 「グローカル実践プロジェクトⅠ」は2年次の開設科目で、プロジェクトを実際に動かしながら、課題解決のために何が必要かを実践的に学ぶ。
 3年次後期から4年次前期にかけて開設する「グローカル実践プロジェクトⅡ」では、留学経験に加え社会科学・国際、データサイエンス・ AI 等の科目を通して修得した力を発揮し、地域や企業が抱える課題の解決に取り組む。学内の社会連携機構や企業等からテーマの提供を受け、グループワークで解決策を考える。地域の留学生支援を担う神戸市国際コミュニティセンター(KICC)のプロジェクトとの連携も予定。プロジェクトで扱う主な領域は、持続可能な社会、地域創生、異文化間コミュニケーション、グローバルイシューズ、グローバルビジネスなどを想定している。
 プロジェクトで取り組んだ課題から派生する新たな課題や、留学先で興味を持った問題を卒業研究につなげることも考えられる。

●公募推薦では英語による質疑応答を含む面接も

 STAGEの学生選抜では、一般選抜や公募制推薦入試(教科科目型)が他の学部と同様に全学共通で実施され、一般方式および外部英語検定活用方式の試験が行われる。
 公募制推薦入試(個性重視型)では高校での成績のほか、外部検定で一定の基準を満たす生徒を対象とし、英語での質疑応答を含む個別面接を実施する。

●「学生の無限の可能性を信じ、学びを支える」

 卒業後は「国際公務員をめざして大学院進学」「金融、IT、環境、商社、製造・販売業の国際部門、報道機関など、グローバルに活躍する民間企業」「地方自治体を含む行政機関、NGO等の各種団体」といった進路が想定されている。
 国際教育に力を入れる高校との強力なネットワークを持つ野村教授は「コロナ禍の中でも、海外をめざす高校生の意欲は変わらないと感じていた。STAGEの構想に対する高校の先生方の反応もいい」と話す。
 同教授は学環のパンフレットの高校生へのメッセージで、「港にいる船は安全だ、しかし船は港に置いておくために造られたのではない」という格言を紹介。人生を大海原に例え、そこにはさまざまな困難があると同時に、大きな可能性が広がっていると説く。2回の留学という大きな挑戦を念頭に、「経験豊かな教員がみなさんの可能性を信じ、成長を願って学びを支えていく」と宣言している。
 「若者には偏差値のような既成の物差しで自分の限界を決めず、無限の可能性を信じて挑戦してほしい。その可能性を切り開くためのSTAGEのさまざまな仕掛けに期待してほしい」と述べ、「グローバル教育の新たなシンボル」に学生を迎え入れ、船出する日を心待ちにしている。