2020.0818

オンライン授業から派生した講座で保護者とコミュニケーション―北陸大

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3行でわかるこの記事のポイント

●学生の言葉をきっかけに、「オンライン授業でも大丈夫」と伝えようと企画
●一般の社会人も受け入れ、リカレント教育の可能性を探る
●大教室での対面授業にオンラインの手法も取り入れ、質の向上を図る

北陸大学経済経営学部は6月末からの1カ月間、保護者と社会人対象のオンライン講座を全5回、開講した。オンライン授業に対する保護者の不安を払拭することに加え、広く社会人に学部の特色をアピールしてリカレント教育のテストマーケティングをするねらいもあった。新型コロナウィルスの感染拡大を受けて蓄積してきたオンライン授業のノウハウを学生以外のステークホルダーとのコミュニケーションに生かしつつ、従来の授業のブラッシュアップにもつなげようとしている。


●挙手や投票、グループワーク等、オンライン授業の機能を駆使

 北陸大学経済経営学部の「社会人のためのオンラインマネジメント講座」は6月26日にスタート、7月31日までほぼ毎週、金曜夜7時から8時半まで開講された。

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 興味があるテーマの回だけの参加も可としたところ、保護者約45人をはじめ企業関係者や教育関係者など計90人ほどが申し込み、毎回20~50人が参加。首都圏や関西在住の保護者もいて、全体でも県外からの参加者が多かった。参加者同士の対話が多く堅苦しさのない講座がリピーターを獲得、全回出席した人も複数いた。
 最終回は山本啓一学部長が講師を務め、学部の教育の特色を紹介。その中で重視している自己理解の手法をワークで体験してもらい、そこでの気づきをグループに分かれて話し合うという流れだった。他の回と同様、挙手や投票、グループワーク等、オンライン授業の機能を使いながら学部が力を入れる参加型のスタイルで進めた。

●「学生を育てるうえでのパートナーたる保護者との対話は有意義」

 社会人向け講座を開くきっかけは「自宅でオンライン授業を受けていると、母親が興味深そうにのぞきこんでいる」という学生の一言だった。「特に1年生の保護者は、入学後に全く登校できず、ずっとパソコンで授業を受けているわが子の状況に不安を覚えて当然。であれば、実際にオンライン授業を体験してもらい、本学部が提供する授業の質に安心してもらおうと考えた」と山本学部長。
 どうせやるなら保護者に限定せず広く開放し、リカレント教育のテストマーケティングもしてしまおうと、社会人に関心を持ってもらえそうなプログラムを検討。社会・組織・自己のマネジメント力の育成を掲げる学部のポテンシャルをアピールする講座となった。着想からわずか2週間で告知・受講者募集を始めた。
 事後のアンケートでは保護者から「ゼミの先生とお話しできて大変楽しく、安心してお任せできる」「一方向の講義ではなく主体的に参加できるよう工夫されていることが分かった。子どもにはボーッと聞くのでなく、しっかり参加するよう言いたい」といった声が寄せられた。山本学部長は「大学は一般的に、保護者に対してセンシティブになりがちだが、学生を育てていくうえでのパートナーとして理解し合おうという姿勢が大事。今回の講座はパートナーと対話する有意義な機会になった」と振り返る。

●組織的に授業を作り上げる体制がオンライン授業導入でも力を発揮

 経済経営学部にとって、正課のオンライン授業自体も初めての取り組みだった。新型コロナの感染拡大を受けて授業開始が2週間延期され、4月22日から全授業をオンラインでスタート。当初は「対面と同レベルでなくてもいい。学びを止めないための最低限の土台を作る」という低めの目標を掲げた。
 ITに詳しい田尻慎太郎学長補佐と共に検討するうち、学修管理システムに加え、今年度から導入されたMicrosoft TeamsやG Suite for Education、さらにZoom等のオンラインツールを授業ごとに自由に活用すればいいこととし、同期型や非同期型など、さまざまな授業形態を認める方向性が明確になっていった。2019年度の入学者からパソコンを必携にしたことにも助けられた。
 一方、山本学部長は「学部教育は教員が個々に動くのではなく組織でつくり上げるという方針が、初めてのオンライン授業にも生かされた」と話す。初年次ゼミは元々、1年間を5つのユニットに分割し、教員がチームを組んで各ユニットの授業設計と教材作成をそれぞれ担当、全クラスがその教材を使って授業を行う体制だ。2020年度は最初の担当チームがオンライン授業の導入編的な教材を作成したことでスムーズな滑り出しとなった。Teamsのマニュアルや講習会がなくても、授業の実践を通じて教員、学生ともにオンラインツールの操作に習熟していったという。
 山本学部長は2週間に1回、学部の全学生に動画メッセージを配信するとともに、アンケートで授業の理解度や満足度、問題点を把握。結果を教員にフィードバックして改善につなげるサイクルを通して満足度が徐々に上がり、「これはいける」という手応えを感じたという。結果的に、対面授業で想定していた到達目標をそのまま維持することができた。

●リカレント教育の拡充によって新たなマーケットを開拓

 山本学部長はオンライン授業を「コロナ対応」のための一時的なものに終わらせず、この間に蓄積したノウハウや気づきを新たな展開に生かしたいと考えている。
 社会人向け講座もその一環で、「リカレント教育のテストマーケティング」というねらいは、企業との協働による若手リーダー人材育成プログラムとして具体化する企画が進んでいる。経済経営学部は2018年から2019年にかけて、さまざまな地域の高校教員や企業の社員を対象に研修プログラムを複数回実施。今後はそれをオンライン化し、オンデマンド方式も取り入れることによって受講における距離や時間の制約を取り払い、プログラムの質も向上させようという構想だ。
 「地方の中小企業には自力で人材育成をする余裕がなく、若者は10年後、20年後の自分の成長を考えて都市部での就職を選ぶ現状がある。大学がコアとなってリカレント教育に取り組めば、地元で就職したい高校生に地元での進学も選択肢にしてもらえる一方、18~22歳以外のマーケットも開拓できる」(山本学部長)

●大教室での授業でも一人ひとりの状況に応じた多様な学び方を

 オンライン授業のノウハウは従来の授業のブラッシュアップにもつながりそうだ。
 経済経営学部では緊急事態宣言解除後の6月はじめ、それまでの完全オンライン授業から対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型授業に移行。対面授業を再開する一方で、多くの学生がオンラインでの受講を選べるようにした。状況が安定した7月には登校する学生が約半数になるよう調整し、8月時点でほぼ全授業が対面方式になった。
 山本学部長は今後、コロナの問題が収束しても「大教室での講義を以前のような対面だけの授業に戻すべきではない」と考えている。オンラインの方が学生一人ひとりの反応を把握しやすい、講義部分をオンデマンドの動画にすれば理解度に応じて繰り返し見てもらえる、学習支援システム経由のファイルでの課題のやりとりの方がきめ細かいフォローができる-など、オンラインの手法には対面に勝る点も多いという。対面授業であればその場の勢いで乗り切れるようなことも、オンラインではそうはいかない。SAとの連携についても、分単位の授業設計など、より緻密な準備が必要だという。
 学生の密度を下げるため、従来は大教室でやっていた授業を現在は中小教室に分けて実施。一つの教室での授業をZoomで他の教室に配信したり、オンラインで教材やワークを配付したりするハイブリッド方式だ。学生はプロジェクタの画面を見ながら自分のパソコンで資料を閲覧するなど、それぞれのペースでワークに取り組んでいる。一番後ろの席でも居眠りする姿は見られないという。
 「大教室だと後ろに座る学生が『寝てしまいがち』だと思っていたが、実は、我々教員の工夫のなさが学生を『寝かせていた』のだと気づかされる」と山本学部長。今後もオンライン的な手法を対面授業にうまく取り入れ、一人ひとりの状況に応じたさまざまな学び方ができるようにして学生の意識変容を促し、教育成果を上げたい考えだ。
 コロナ禍によって「やむを得ず」講じた策によって、それまで見えなかった本質的な課題が見えてきたり、教育や学生支援の新たな可能性を見出したりといったことは、多くの大学であると考えられる。その気づきをどう生かすかが、まさにこれから問われることになる。 


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