2018.1203

一法人複数大学検討会議-法人の長は国が任命、学長の任命権者が論点に

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学合併は「地元の市民感情的に困難」「ブランド力が損なわれる」等の見解
●一法人二大学を出発点に、将来的な連携・統合拡大の構想も
●「国が法人の長と学長、両方を任命するのは適切でない」との指摘

「国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議」(座長:有川節夫放送大学学園長理事長)の4回目の会合がこのほど開かれた。経営統合を検討している4組の大学から、「従来の大学連携ではリソースの大幅な相互融通が難しい」「歴史や文化、ミッションが異なる大学同士の合併は考えられず、複数大学としての存続が必須」などの考え方が示された。
*配付資料はこちら
*4組の法人統合のねらいと計画の説明を含む第3回会合の内容はこちら


●「従来の連携では不十分」「統合メリット」「大学合併は不可」について説明

 前回の会合では、経営統合を検討している4組の大学に対し、「経営統合による具体的メリット」「大学を統合せず、複数大学のまま運営する必要性」について説明を求めることになった。今回はこの「宿題」について各大学グループが文書で回答。
 それぞれが、①従来の大学連携では構想を実現できない理由、②法人統合によるメリット、③大学合併ではなく複数大学として存続する理由-について説明した。それぞれの主な回答内容は以下の通り。

◎小樽商科大学・帯広畜産大学・北見工業大学

①従来の大学連携では構想を実現できない理由
 往々にして現場の教員レベルの活動にとどまり、学長をトップとする組織の取り組みにならない。
②法人統合によるメリット
 商学・農学・工学をそれぞれ専門分野とする3大学の連携によって、文理融合・異分野融合による新たな教育プログラムを開発・実践することが容易になる。企業の研究者や3大学の産学官連携担当教員が結集して分野融合型の共同研究を企画・実施する組織を新法人の下に設立し、新たな産業や雇用の創出をめざす。
③大学合併ではなく複数大学として存続する理由
 合併はそれぞれの大学が築き上げてきた歴史や文化を断ち切ることになり、関係者のコンセンサスが得られない。

◎岐阜大学・名古屋大学

①従来の大学連携では構想を実現できない理由
 大学間に各種システムの相違や利害の違いがあった場合、それらの調整を図ってまで連携を推進することが難しく、これらの相違の調整役も不在であるため、連携の範囲が限定的なものにとどまる。
②法人統合によるメリット
 東海地域全体を視野においた地域創生のグランドデザインをステークホルダー間で共創し共有する。新たな研究領域に踏み出す戦略的な教員人事によって両大学のミッションの違いをふまえた強みと特長をもった大学になることをめざす。東海地域の国立大学の連携・統合が必要で、積極的な合意が可能な2大学の間でプロトタイプを創出し、次の段階で順次、他の国立大学の参加を促すことも検討。
③大学合併ではなく複数大学として存続する理由
 大きさの異なる大学間の合併では小さな大学が一つの部局と化し、質の向上に向けた自己改革努力が進まなくなる。県域を超えた大学の機能統合では、各県域において地域ニーズに応じた高度な教育研究機能を有する国立大学の存在を求める地域の声があり、一方の大学への吸収合併は市民感情的に極めて困難。

◎静岡大学・浜松医科大学

①従来の大学連携では構想を実現できない理由
 高いブランド力の獲得をめざす全国初の医科工科系大学の創設が見送られる。
②法人統合によるメリット
 浜松地域の大学では全国初の医科工科系大学として高いブランド力の獲得を目指す。情報学、光・電子技術・自動車等、地域産業界のニーズや医・工・情報の連携分野に精通する人材養成や研究、地域連携を達成できる。一法人複数大学とすることで、国公私の枠を越えた地域大学プラットフォームの形成や産官、NPO等との連携など、次の段階の再編・統合も視野に入れることができる。
③ 大学合併ではなく複数大学として存続する理由
 これまで培ってきた各大学のブランド力や特色が損なわれる可能性がある。意思決定等において距離的・時間的ロスが発生し、非効率な運営になる。

◎奈良教育大学・奈良女子大学

①従来の大学連携では構想を実現できない理由
 共同による工学教育課程の設置にはリソースの大幅な相互融通が必要であり、単なる連携の枠を超える。
②法人統合によるメリット
 「両者の強み・特色を出し合う教員養成の連携」「両大学の教育・研究資源に加え奈良国立博物館、奈良文化財研究所の資源も持ち寄り、奈良でこそできる教養教育の共同実施」「奈良教育大学の教育メソッド、奈良女子大学の各学部等の専門性、両大学の多様な教養教育などの強みを基盤とした工学系共同教育課程の設置」を円滑に実施できる。
③大学合併ではなく複数大学として存続する理由
 優れた教育人材の輩出をミッションとする共学の奈良教育大学と、高度な専門的力量を持つ女性人材の輩出をミッションとする奈良女子大学が一定の融合を図るうえで、合併という選択肢はあり得ない。

●学長は「法人の経営方針に従い、法人の長に対し責任を負う」

 この日の会合では、一法人複数大学制度における法人の長と学長の任務や任命権、兼務等について議論した。
 前回までの議論をふまえ、法人の長の任務は「法人全体の資源の配分や成果の最大化」、学長の任務は「法人全体の経営方針に従いつつ、教育研究の実施体制、カリキュラムの編成、学生の管理等、大学の自主的な運営について一定の権限と裁量を持つ一方、法人の長に対し責任を負う」と整理された。
 一法人の下にA大学とB大学を置く場合、①法人の長とA大学の学長、B大学の学長がそれぞれ異なる、②法人の長がA大学の学長のみ兼ねる、③法人の長がA・B両大学の学長も兼ねる―という3パターンいずれもあり得るとの考え方で一致。

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 前回までの議論をふまえ、法人の長はいずれのパターンでも国が任命するという案が明示された。一方、①の両学長、および②のB大学の学長については、「国が任命」「法人の長が任命」のいずれとすべきかが論点の一つとして示された。委員からは、法人の長に加え学長も国が任命することについて「両者が同格となり(学長が法人全体の経営方針に従うという位置づけと齟齬が生じるため)、適切ではない」との意見が出た。
 その他、経営協議会は法人に置くこととする一方、教育研究評議会は法人と大学どちらに置くこともあり得るという考え方で一致。現行制度と異なり法人の長ではなくなる学長を法人の経営に関わらせる手法として、副理事長に任命する案などが委員から出された。


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