2018.1011

私大の自主的な行動規範「ガバナンス・コード」導入へ~私学団体が策定

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3行でわかるこの記事のポイント

●上場企業のガバナンス・コードをモデルに社会の理解と支援を得る
●一律の実施義務付けではなく各大学の主体的判断に委ねる
●中長期計画策定は法律で義務付け、記載内容はガバナンス・コードで規定

文部科学省は私立大学のガバナンス強化のため、学校法人制度見直しの検討を進めている。今回の見直しでは、理事会機能の実質化等を具体化する法改正に加え、私学団体等に自主的な行動基準となる「私立大学版ガバナンス・コード」の策定を求めることがポイントになる。各私立大学、団体には、社会からの信頼と支援の獲得のために自らをどう律し、社会に開かれた存在になるかという観点からの議論が求められている。


●2017年の私大振興検討会議の提言を具体化

 文科省は「私立大学等の振興に関する検討会議」が2017年5月に出した「議論のまとめ」の提言の中からガバナンスに関する事項の具体化に向けて、大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の下に「学校法人制度改善検討小委員会」を設置し、検討を進めてきた。2018年8月に具体的な改善方策をまとめ、10月上旬までパブリックコメントが行われた。制度化が必要な事項は次期通常国会での法改正をめざす。見直しの根底には、私立大学が自律的なガバナンスの下で経営力強化と経営の透明性向上に努め、社会の理解と支援を得られるようにすべきとの考えがある。
*文科省の公表資料はこちらこちら

 ガバナンス強化の具体的方策のうち、中長期計画策定の義務化、役員の責任の明確化、監事機能の充実などは私立学校法をはじめとする法令で定める方向だ。一方で、私学団体等が自らの行動規範として「私立大学版ガバナンス・コード」を定めることも推進する。

●ガバナンス・コードを実施しない場合は理由の説明で透明性を確保

 「私立大学版ガバナンス・コード」のモデルとなっているのは、上場企業が守るべき行動規範、企業統治の指針として東京証券取引所が策定した「コーポレートガバナンス・コード」だ。ステークホルダーである株主がその権利を適切に行使するための環境整備などについて規定。例えば、「適切な情報開示と透明性の確保」の項には「上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである」と示されている。 
 ただし、一律に実施を義務付けるのではなく、実施しない事項については投資家にその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」を求めるなど、企業の自主性・自律性の尊重を原則としている。これは私立大学版でも踏襲される方向だ。
*東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」はこちら

●学校法人の運営方針の主体的点検にも活用

 「私立大学版ガバナンス・コード」は、学生や保護者を中心としたステークホルダーに対する説明責任を積極的に果たすとともに、学校法人の運営方針や姿勢を主体的に点検し、私立大学の健全な成長と発展につなげることをねらいとして導入が検討されている。
 文科省の担当者は「権限や責任に関わること、情報公開に関することなど、法人制度の骨格として一律に適用すべき事項は法令で定め、これらの具体的内容や運用面での工夫など、各法人が自主的に取り組むことが望ましい事項についてはガバナンス・コードに委ねる」と説明する。
 例えば、中長期計画の策定を私立学校法で一律に課す一方、中長期計画に盛り込む内容は大学が主体的に考え、ガバナンス・コードで定めてもらうという考え方だ。また、理事・監事が善管注意義務(専門家としての能力、社会的地位などから考えて一般的に期待される注意義務)を負い、これに違反して第三者に損害を与えた場合に損害賠償責任も負うことは私立学校法に明記する方向。そして、こうした責任を課す前提として、理事・監事に対する研修機会の提供、監事監査支援体制の充実などをガバナンス・コードに盛り込むことが想定されている。
 今回の有識者会議でとりまとめられる内容をふまえ、私立学校法改正のプロセスと並行して、各私学団体が策定に向けた検討を進めることになる。

●想定される記載事項の中に「外部理事の適切な人数」も

 「私立大学版ガバナンス・コード」に盛り込む事項として、現時点で文科省は次のようなものを例示している(一部を抜粋)。

<経営の強化>
(1)経営と教学の連携・協力の在り方
(2)中長期計画に盛り込むべき内容

<ガバナンスの強化>
(1)理事会機能の実質化
 ① 理事会の議決事項の明確化
 ② 外部理事の適切な人数
 ③ 外部理事に対する十分な情報提供(非常勤監事、評議員も同様)
 ④ 理事に対する研修機会の提供と充実(監事、評議員も同様)

 (2) 監事機能の実質化
 ① 監事監査基準・同規則等の作成
 ② 監事監査支援体制の充実
 ③ 一定規模以上の学校法人における常勤監事の設置

 (3) 評議員会機能の実質化
 ①評議員会からの意見を引き出す議事運営の方法改善
 ②法人の規模に応じた評議員数の配置

 (4) 情報公開の推進等
 ① 学生や保護者、学内、学外など対象に応じた分かりやすい情報公開の推進
 ② 経営状況の「見える化」による課題・成果の明確化と共有による改革の推進
 ③ 事業報告書に盛り込むべき内容

 日本私立大学協会はすでにガバナンス・コードを策定し、加盟大学間で共有している。パブリックコメントをふまえた修正の可能性もあり得るが、原案から大きな変更は生じないのではとの見方だ。

●財務書類のウェブサイト等での公表も義務化へ

 今回の学校法人制度の見直しでは、以下のようなことも検討されている。

 <情報公開>
・資金収支計算書、賃借対照表等の財務書類は現在、在学生をはじめとする利害関係人の閲覧に供する義務が課されているのみだが、一般市民を対象に大学のウェブサイト等で公表するよう義務付ける方向。
・事業報告書も、現在の「閲覧に供する」からウェブサイト等での公表義務化に変える方向。記載内容も充実させるべく、ガバナンス・コードに盛り込むことが想定されている。

<経営の強化>
・学部単位での円滑な事業譲渡の促進(審査項目の簡略化など)
新たな財務指標に基づく経営改善指導(制度が新設され2019年度から実施)

<破たん処理手続きの明確化>
・学生のセーフティーネットの充実(コンソーシアムを活用した転学支援、授業料返還債権の考え方の整理)