2018.0905

地域別流出/流入データ付き:学校基本調査に見る入定厳格化の効果・影響

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学進学率は現役生49.7%、過卒者含め53.3%でいずれも過去最高
●首都圏への流入率はわずかに低下、北関東3県で地元進学率が上昇
●四国からの流出率はわずかに上昇

文部科学省が先ごろ発表した2018年度学校基本調査(速報値)によると、4年制大学への進学率は現役のみで49.7%、過卒者を含むと53.3%と、いずれも過去最高となった。同調査のデータを基にしたエリア・県別の流出・流入状況から、地方では入学定員管理厳格化の影響で流出が抑制されたと推測されるエリア、あまり影響がなく流出が続くエリアという違いが浮かび上がる。
*2018年度学校基本調査(速報値)はこちら


過卒者含む短大進学率は0.1ポイント減

2018年度学校基本調査(速報値)によると、高等教育関連の各データは次のようになっている。

○2017年度の高校卒業者(現役生)の進学状況
 大学進学率は49.7%(対前年度0.1ポイント増)で過去最高
 大学・短大進学率は54.8%(前年度と同じ)
 専門学校進学率は16.0%(0.2ポイント減)

○過卒者を含む進学状況(分母は18歳人口)
 大学進学率は53.3%(0.7ポイント増)で過去最高
 短大進学率は4.6%(0.1ポイント減)
 大学・短大進学率は57.9%(0.6ポイント増)で過去最高
 専門学校進学率は22.7%(0.3ポイント増)
 高等教育機関進学率は81.5%(0.9ポイント増)で過去最高

●福井県では大学間連携や行政の施策で地元進学率向上の取り組み

 進研アドは、2018年度学校基本調査(速報値)と前年度までの同調査のデータを使い、大学進学者の流出・流入の状況をエリア・県別にまとめた。「流出率」は当該エリア(県)内の高校卒業者のうち他のエリア(県)の大学に入学した者の割合で、「流入率」は当該エリア(県)内の大学入学者のうち他のエリア(県)の高校から入学した者の割合を表す。

*全国9エリア・47都道府県別流出・流入データはこちら

 入学定員管理厳格化の影響で2017年度、2018年度とも私立大学の志願者数は大きく増加したが、この施策がねらいとする地方からの進学者流出抑制の効果は一様でないことが、流出・流入状況から確認できる。
 入定厳格化初年度の2016年度から2018年度までの首都圏と近畿3府県の流入状況を下表にまとめた。

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 入学定員管理厳格化の主たるターゲットである首都圏(1都3県)への流入率は、2年間で0.6ポイント下がった。この間、大規模私大が入学者数を絞ったが、首都圏全体で見た地方からの流入という点では厳格化が抑制効果を発揮したと言えるか微妙なところだ。各都県の流入状況は下表の通り。

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 大阪・京都・兵庫3府県への流入率は2年間で0.1ポイント上がっている。各府県の流入状況は下表の通り。

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 一方、地方の一部エリアにおける流出率や地元進学率を下表にまとめた。

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 北関東3県から首都圏への流出率は2年間で2.1ポイント低下。一方、このエリア内の大学への進学率は1.8ポイント上昇し、入定厳格化によってこれら周辺部から首都圏への流出には一定程度、歯止めがかかったと考えられ、地元進学へのシフトが見られる。県ごとの状況は下表の通り。

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 北陸3県からの流出率は2年間で3.2ポイント下がった。県ごとの自県進学率は富山0.2ポイント、石川と福井が3.6ポイント、それぞれ上がっている。石川県については、2018年度の公立小松大学の新設に加え、一部私立大学のプレゼンス向上が要因と推測される。福井県は「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」で県内からの入学者確保を課題に位置付け、2017年度は県内5大学による合同進学説明会を開催。県も人口減少の抑制に力を入れ、2018年度は高校生と県内大学との連携による課題研究を支援する事業を予算化した。こうした取り組みも自県進学率の上昇につながっていると考えられる。県ごとの状況は下表の通り。

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 一方、四国はエリアからの流出率が2年間で0.3ポイント上昇。県ごとの自県進学率は徳島0.3ポイント減、香川0.1ポイント減、愛媛2.7ポイント増、高知0.4ポイント増となった。社会科学系3学部に加え人文学部、薬学部も擁する松山大学がある愛媛では自県進学率が突出して上がっているが、他の3県は微減か微増。4県とも自県以外の四国3県への進学率は低下傾向にあり、四国エリア全体で見ると依然、流出に傾いている。県ごとの状況は下表の通り。

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 見てきたように、都市部の大規模大学の定員抑制は、同じエリア内の中小規模大学や隣接エリアの大学への入学者増につながっている可能性がある。その構図の中、大都市部から離れた地方では依然、都市への流出が続いているエリアもある。
 18歳人口が減り続ける中で地方大学が安定的に定員を確保するためには、エリア内の中核大学を加えた大学間連携、産官との連携によって地域で学ぶメリットを発信することなどがカギとなりそうだ。エリア内でそれぞれの大学が改革を進め、個々の特色と魅力を高めることの重要性は言うまでもない。


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