2018.0719

経済2団体の提言に対し委員からコメント相次ぐ―将来構想部会

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●経団連と経済同友会がそれぞれ大学の再編・統合を求める提言について説明
●「再編統合のための会議体を内閣に設置」「私立大学再生機構の設置」などを提案
●委員から「総花的なものでなく実効性ある提言を」との注文も

このほど開かれた中央教育審議会大学分科会・将来構想部会の合同会議で、経済2団体が高等教育政策に関するそれぞれの提言について説明、それに対して産業界と高等教育界、双方の委員から産業界への注文・要望を含むコメントが次々に挙がった。産業界からの大学改革の圧力、再編統合の要求が高まる中、直近のニュースを引き合いに「企業の合併も簡単ではないようだ」という発言もあった。

*2団体の説明資料を含む配布資料はこちら


●経済同友会は私立大学の財務に絞って提言

 経済同友会は6月1日に「私立大学の撤退・再編に関する意見 財務面で持続性に疑義のある大学への対応について」、日本経済団体連合会(経団連)は6月19日に「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」を相次いで発表した。どちらにも、大学の再編・統合を求める内容が盛り込まれている。
 7月11日の大学分科会・将来構想部会の合同会議では、両団体の関係者がそれぞれの提言について説明した。
 先に説明があった経団連の提言は、「大学教育の質の向上」「大学の再編・統合」「大学のマネジメント力・財務基盤の強化」が柱。再編・統合については「国立大学の一大学一法人制度の見直し」「教員の一大学専任制度の見直し」「私立大学の学部・学科単位での事業譲渡」など、将来構想部会で議論された内容を追認する提案が目立った。
 他に、「再編・統合に関するグランドデザインを策定する省庁横断の会議体を内閣に設置」「国立大学の『3類型に基づく重点分野評価』と『中期目標・中期計画に基づく評価』を一本化し、客観的評価を行う第三者機関を設置」などの提案も。連携や再編・統合のベースとなる「地域」については、道州制も念頭に「都道府県より広域なものを想定している」と説明した。
 一方の経済同友会の提言は、私立大学の財務に絞ってまとめられた。官立民営の「私立大学再生機構(仮称)」を設置し、大学の再編・撤退に関わる機能を集約するという内容が柱。同機構は、大学が撤退する際の①在学生の他大学への転籍や教職員組合等の権利調整、②債権の買い取り、③再生支援中の大学の保有などを担い、8年程度の時限組織とすることが想定されている。それ以降も必要な機能は、この間に機能強化する日本私立学校振興・共済事業団が引き継ぐとされた。
 私学事業団の機能については現在、経営判断指標に基づく各大学の経営状態を把握してもそこから先、踏み込んだ対応はできないと指摘し、法改正によって主体的に経営の指導・監督をする権限を持たせるべきだと提案。さらに、現在の経営判断指標に加え、志願倍率や卒業者数を母数とする就職率などを入れた「早期健全化指標」をつくること、早期健全化の対象となった大学が2年間で有効な経営改革プランを策定できない場合は私学助成を打ち切るという案も盛り込まれた。

●産業界に対し、具体的な人材要件の提示や新卒一括採用見直しを要求

 経団連の説明に対する委員の質問・意見では、日産自動車の志賀俊之取締役が「提言には中教審で出た内容が多いが課題の抽出はすでに済んでおり、何を実行するかが問われている。経団連には総花的なことでなく、そろそろ実効的な提言を期待したい」と発言。バークレイズ証券の益戸正樹顧問は「企業人としてこの会議に参加しているが、私も当初はなぜ大学改革が進まないのかわからなかった。今や課題は出尽くし、問題解決までの時間が足りない」と指摘、内閣主導によるグランドデザイン策定という経団連案に対し、「文科省が責任を負い、他省が協力して一丸となって予算獲得に動くべき」と述べた。
 大学関係者の委員からは「企業は大学教育の成果を可視化しろと求めてくるが、採用時に大学の成績は見てくれない。一方で求める能力として人間力やコミュニケーション力を挙げるが、学生にはわからない」「リカレント教育の拡充をとあるが、夜まで働くような労働状況の下でリカレント教育を受けられるのか」「新卒一括採用が変わらない限り大学での人材育成を抜本的に見直すことはできない」といった疑問や注文が次々に飛び出した。
 経済同友会の踏み込んだ提言については、委員から一定の評価がなされる一方、「再生機構と言っているが、実質は撤退のための機構に見える」「(再生機構は文科省主導の組織と受け取れるが)大学の再編に行政が介入するのは法制度上、不可能だ」「一つの大学内でも学生が集まっている学部と定員割れの学部があり、経営状態を学部単位で見るのか大学単位で見るのか、あるいは法人全体で見るのかという問題がある」といったコメントが出た。 
 大学の撤退・再編を求める提言に対し、ある委員が「出光興産と昭和シェル石油の例に見るように、企業の合併も簡単ではない。それは大学も同じだ」と述べる場面もあった。
 委員のコメントを引き取る形で、永田恭介・大学分科会長(筑波大学学長)が「大学の再編を求める声が大学の外から出ていること、文科省はそれをやるかどうか迫られていることを、われわれがしっかり受け止める必要がある」とまとめた。


*関連記事はこちら

次年度からの入定厳格化策の検討が難航、当初案修正も視野に結論を急ぐ
将来構想部会が中間まとめを検討―国立のアンブレラ方式など提言へ
中退率やST比を加え、情報公開の対象拡大へ