2018.0523

名古屋外国語大学~「語学+教養」の理念の下、留学比率トップに

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3行でわかるこの記事のポイント

●英語以外も真剣に学ぶよう留学許可基準として高めのGPAを設定
●「費用全額大学負担」の予算拡大で学生の意欲と努力に応える
●多言語修得を促すためヨーロッパの協定校拡大に力を入れる

「Times Higher Education(THE:ティー・エイチ・イー)世界大学ランキング日本版2018」の「国際性」分野では、今回も私立大学の健闘が目立った。同分野に追加された2つの指標のうち「日本人学生の留学比率」ランキングでトップになったのは、「留学のしやすさを大学の強みにする」という目標を掲げる名古屋外国語大学だ。「語学力と合わせ、世界に通じる教養を身に付けさせる」という理念の下、送り出す学生の質も重視する留学支援策について亀山郁夫学長に聞いた。

「THE世界大学ランキング日本版2018」の結果はこちら
*「THE世界大学ランキング日本版」公式サイトはこちら


●2016年度は学生の1割強が半年以上の留学

 「THE世界大学ランキング日本版2018」の参考データとして公表された「日本人学生の留学比率」(2016年度)は下表の通り。2位以下の大学がおおむね1ポイント未満の僅差で並ぶ中、名古屋外国語大学は2位の大学を4.1ポイント上回る24.4%で、学生の4人に1人が留学や海外研修を体験している。

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 同大学によると2016年度の学生数は4160人。留学期間で特に人数が多いのは「6カ月以上1年未満422人」「2週間以上1カ月未満368人」「1カ月以上3カ月未満130人」などとなっている。同大学の主な留学・海外研修プログラムは下表の通り。最長2年間のダブルディグリー留学プログラムや航空業界への就職をめざす学生対象のプログラム、長期休暇を利用して参加できる研修など、多彩な内容になっている。 

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 東京外国語大学学長を経て2013年に名古屋外国語大学学長に就任した亀山郁夫氏は、「私が来る前から『留学のしやすさを大学の強みにする』という目標を掲げ、大学を挙げて取り組んできたことが形になっている」と話す。「今年で創立30周年と歴史が浅く、高校からの評価もまだ高いとは言えない本学にとって、わかりやすい強みを持つことはとても重要だ」。
 留学へと学生の背中を押す施策の中でも特筆すべきは、授業料に加えて渡航費や滞在費、教科書代まで全額を大学が負担する「Total Expense Support System(TESS)」だ。上のプログラム一覧で示した通り5つの中・長期留学が対象で、人数制限はなくGPAや英語外部検定のスコアなど、成績の要件を満たせば適用される。
 制度がスタートした2015年度、100人程度を想定して基準となるTOEFLのスコアを設定したところ、全学生の7.5%にあたる300人がクリアして申請。急きょ、補正予算を組んで対応した。2年目はスコアの基準を引き上げたが、学生はそこをめざしてさらに努力してハードルを超えてくるという結果に。その意欲、努力にできる限りの支援で応えようと、現在はTESSの予算を増やして対象者300人を目安に基準を設定している。

●英語圏以外の教員も集め多様な英語と文化に触れさせる

 一方、長期留学が可能なレベルまで英語力を引き上げるための独自の教育プログラムが、1年次の必修科目「Power-up Tutorial(PUT)」だ。ネイティブ教員1人が学生4人を担当する超少人数の対話型授業で、学生にとって緊張しすぎず埋没もしないちょうどいい人数だという。英語圏出身の教員だけでなく、アジアやアフリカ出身の教員も担当し、国際社会で使われるさまざまな言い回しやなまり、さらには文化の多様性にも触れさせる。
 PUTの担当者をはじめ外国人教員は非常勤講師を含め155人。亀山学長は「一般の大学にも国際系学部が増えて外国人教員の獲得競争が起きている。優秀な外国人教員を確保するためには、学生の意欲と能力を高めるなど、本学でキャリアを積むことによる教員にとっての価値を示す必要がある」と話す。
 留学費用の全額負担やネイティブ教員による超少人数授業など、高コストの施策が目立つが、学費は他の外国語大学と比べて高いわけではない。運営する学校法人の理事長の「学費は教育を通して学生に最大限、還元する」という方針の下、ハード以上に教育プログラムや留学支援などのソフトに投資している。

●サークル活動の停滞が悩み

 外国語大学は「留学比率が高くて当然」と捉えられがちだが、名古屋外国語大学は「語学だけを武器にして海外に出ていく学生」にしないことを強く意識している。「外国語運用能力に優れ、世界に通用する教養を備え、共感力溢れるグローバル職業人を育てる」というビジョンの下、世界の文学や音楽、美術、宗教、政治・経済などを通して多元的な価値観に触れる全学共通の「世界教養プログラム」を開講。ロシア文学が専門の亀山学長も音楽の授業を担当し、オペラについて論じている。「英語が話せるだけでは国際人として通用しない。豊かな教養を身に付けてこそ人間的な魅力が備わり、それを伝える手段として語学力が生きてくる」。

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 「世界に通用する教養」「多元的な価値観」を重視して、英語に加え、もう1つ他の言語の修得も推奨している。海外協定校はヨーロッパをはじめ英語圏以外での開拓に力を入れ、2017年度はスペインの3校、ロシアの2校と協定を結んだ。現地の言語で日常生活を送り、大学では英語の授業を受けるという留学スタイルで多言語修得を促す。2018年4月現在の協定校は22カ国・地域の128校で、これらほぼすべてとの間で学生の派遣や受け入れの実態がある。
 海外留学を認める要件として、GPAについても高めの基準を設定している。「GPAが低くても留学ができると、英語しか勉強しない学生が出てきてしまう。他の科目を真剣に勉強せず、基本的な教養が身に付いていない学生を送り出すわけにはいかない」と亀山学長。
 2016年度にGPA制度を導入したが、現状、教員による成績評価の基準は必ずしも一定ではないという。客観性に欠けるGPAによる留学可否の判定は学生にとって不公平であり、派遣先の大学の信用も得られない。そこで、2018年度からの厳格なGPA運用に向けて成績評価のルールに関する検討が進んでいる。
 学生の教養を重視する同大学には、留学比率と表裏の関係にある悩みも生じている。各サークルの中軸となる2年次、3年次に留学する学生が多く、活動が活性化しないことだ。亀山学長は「授業とは違う学びがあり、学生生活を豊かにするサークル活動は非常に重要。複数のサークルをひとまとめにしてメンバーを増やすなど、何らかの対策が必要だ」と考えている。

●「努力の成果を客観的な数字で確認したい」とランキングに参加

 「THE世界大学ランキング日本版2018」で、名古屋外国語大学は「日本人学生の留学比率」に加え「外国語で行われている講座の比率」(27.1%、13位)も高かった。「国際性」分野で8位(総合ランキング100位)という際立つ強みを持つが、ランキング初回の2017年度は法人内の意思統一が間に合わず参加を見送った。今回の初参加で「予想もしなかった結果に学内も法人も喜びに沸いている」という。
 18歳人口が減る中、同大学は「万が一、定員割れしても入学者のレベルは下げない」という方針を堅持してきた。正念場の時期にブランド力を高めておくことが生き残りにつながると考えるからだ。その方針は、入試難易度や就職実績という形で徐々に実を結びつつあるという。「留学のしやすさを強みにする」という目標も、ブランド戦略の重要な柱になっている。「ランキングの結果は何百位でもいい。自分たちの努力の成果が客観的な数字で示される教育力重視のランキングには絶対に参加すべきだと思った」。
 2018年7月には日本人学生と留学生、教員が高校1・2年生120人と、英語によるゲームやクイズで交流する「World English Festival」を開催する。高校生のプレゼンコンテストは、自学の教員が原稿作成から支援する。「留学比率トップ」という実績は、このイベントに参加する生徒たちにも注目されるだろう。
 亀山学長は「次回のランキングの指標となる2017年度の留学者数はさらに増えたが、国際性は他の指標も含め今がほぼ目一杯で、順位を上げるのは難しいだろう。ランキングのためではなく、『世界に通用する教養』という理念に基づく人材育成のため、今後も教養教育の充実を図っていく。それが結果として学生満足度や高校教員からの評価につながるのではないか」と考えている。


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