2017.1221

23区規制は最終報告で歩み寄り~「一時的な収容定員増」を容認

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●スクラップ・アンド・ビルドによる学部等新設で移行期間を認める
●専門職大学は期限付きで純増も可能に
●新設の必要性を判断する第三者機関の設置について引き続き検討

東京23区内での大学の定員抑制等について検討する政府の有識者会議はこのほど、最終報告をまとめた。学部等の新設はスクラップ・アンド・ビルド方式が前提という原則を維持しつつ、完全に定員を移行するまでの間は「一時的に収容定員の総数が増加することを認めることも考えられる」と明記するなど、中間報告に比べ規制が緩和された部分もある。定員抑制策は大学の経営権の侵害だと反発した私大団体等に対し、一定の歩み寄りがなされたと言える。

*最終報告はこちら
*最終報告関連の全資料はこちら


●専門職学科の新設は純増を認めないことも視野に引き続き検討

 内閣官房が所管する「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」(座長:坂根正弘コマツ相談役)による検討は今年2月にスタート。5月の中間報告をはさみ、9月には文部科学省が当面の認可申請に対応するため23区内での定員抑制の告示を出した。最終報告を受け、政府は2018年の通常国会で法案を成立させ、すぐに施行する方向で具体的な検討に入った。地域創生のための政策として内閣府が法案を提出する方向だ。
 最終報告では抑制の対象は国公私立の大学・短大とされた。国立大学の学部等の新設は通常、中期計画に盛り込まれるため文科大臣がそれを認可しないことによって規制できる。公立大学で唯一、23区内に学部を置いている首都大学東京を除くと、新規立法による規制は実質的に私立大学が主な対象となりそう。
 抑制の例外となるのは、大学院、専門職大学、留学生、社会人など。
 専門職大学の新設について9月の告示では、23区内に専門学校を持つ学校法人がその定員を活用する場合に限定して認めた。最終報告ではこうした条件がつかず、純増となる新設も可能となる。抑制の例外とするのは5年間などの期限付きとなる見通しだが、期限を過ぎた後も専門学校の定員を活用した新設等は認める方向。既存の大学が専門職学科を新設する場合は23区内での収容定員の総数維持を課すべきとの意見もあるため、その扱いは引き続き検討することになった。
 留学生と社会人については定員増を認める。今後、留学生や社会人の定員増をする23区内の学部等は、これらの定員と一般学生の定員とを分けて管理することになる。例えば留学生枠で定員割れしても一般学生で補うことはできず、充足率に応じた私学助成のペナルティが課される見通しだ。
 社会人の学び直しを推進する観点から通信教育、夜間学部も抑制の例外となる。
 施設整備等の投資を伴い、収容定員増について機関決定を行い公表している場合も定員増が認められるが、いつまでの決定を対象にするかは今後、検討される。

●「将来的な学部廃止の約束は学生に不利益のない形で」と文科省

 中間報告と9月の告示では、23区内での収容定員の総数が変わらないスクラップ・アンド・ビルド方式による学部等の新設は認めるとされた。これに対し最終報告では、既存の学部を廃止するまでの移行期間は一時的に収容定員の増加を認める考えが示され、中間報告に比べると緩やかな規制となった。例えば、入学定員100人の学部を作る場合、同じく入学定員100人の既存学部を同時に廃止する必要はなく、数年かけて徐々に定員を減らしていくことなどを認める。
 これについて文科省の設置認可担当者は「学部新設の申請時に、時期を明示する形で既存学部の廃止を約束することになるのだろうが、従来の設置認可にない発想でどう具体化するのかイメージしにくい」と話す。学部の廃止は、学生募集を停止したうえで在籍学生が全て卒業するなど大学に残らない状態の下で決めるのが一般的。「学生に不利益をもたらすことがあっては困る。学則で定めた在籍可能年限を保証するためにも、既存学部の廃止は早くても、例えば最後の学生受け入れの8年後にするといった配慮が必要ではないか」と話す。
 一方、新規立法の趣旨をふまえると、収容定員の「一時的な増加」は「最長で10年」等の期限を定めることになりそうだ。「学生が在籍している状態で10年近く先の学部廃止を決めること、2つの学部が併存して多くの教員を抱えることなどに問題がないか気になる」と担当者。
 現在は届け出でできる学部・学科間での収容定員の移動、さらに届け出も不要な既設キャンパスへの学部移転(収容定員増や施設の新設等を伴わない場合)も、23区の定員増になる場合は不可能になる。

●第三者機関ができれば設置審とのダブル受審に

 最終報告では、スクラップ・アンド・ビルドの徹底に関する留意事項として、「既存の定員枠の温存」にならないよう、学部等の新設については「その必要性や教育の質が担保されるような仕組みを設けること」とされた。その具体策として、後述する第三者機関の設置が検討される。
 また、23区内の学部・学科の定員を減らす場合は私学助成を増額し、学生や社会のニーズを踏まえた学部・学科の見直しを行わない場合は減額するという趣旨の提言も盛り込まれた。後者は、定員割れが恒常化している大学を想定しており、文科省が検討中の定員未充足による補助金のペナルティ強化策が念頭にある。
 前述の専門職学科の扱いに加え、以下のことについては最終報告で結論が示されず、「引き続き検討」とされた。
23区周辺での定員増
・新増設の必要性と合理性を判断する第三者機関の設置
 文科省の担当者は、第三者機関を設置する場合も文科省ではなく内閣府に置かれ、23区での新設の適否に絞った観点での審査になると見ている。行政、産業界、教育関係者といった委員構成が推測される。23区内での学部等を新設する大学は、この第三者機関と従来の設置審から二重の審査を受けることになるわけだ。
・定員の抑制期間
 時限立法にするか否かが検討される。
 なお、2019年度の学部等の新設や収容定員増、および2020年度の大学新設の申請については文科省が来年2月に告示を出して対応する。9月の告示の内容に、留学生、社会人の例外規定が加わる見通しだ。機関決定がされている場合の例外的扱いについて、決定時期は有識者会議の最終報告までとする案が検討されている。


*関連記事はこちら

<続報付き>他大学への学部譲渡を可能にする制度検討へ―文科省が論点提示
設置認可申請時の「学生確保の見通し説明」における課題
地域別・分野別の進学者数・受け入れ数のデータを提示―将来構想部会
地域の産官学連携体制作りの重層的支援―内閣府も地方大学支援へ