2017.0331

「THE大学ランキング 日本版」、次年度は学生調査の導入をめざす

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●入学者の学力以上に、大学教育による成長度に重点を置く評価
●THEの強大なプラットフォームを使い298大学の情報を世界に発信
●ステークホルダーの意見を反映してより良いランキングに

3月30日に「THE世界大学ランキング 日本版 2017」を発表したイギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」は同日、東京都内で記者説明会を開いた。学部の教育力を重視するランキングによって世界ランキングとは異なる顔ぶれの大学名を世界に発信した意義を強調。次回は学生調査を導入し、よりユーザー視点に立ったランキングにしたいと意欲を示した。
*評価指標の解説はこちら
 /univ/2017/04/THE-japan03.html
*「THE世界大学ランキング 日本版 2017」の結果はこちら
 /univ/2017/03/THE-japan.html


●東大、京大だけではない優れた大学の層を知らしめた

 記者説明会に臨んだのは「THE」編集長のフィル・ベイティ氏と同誌を運営するTES Global社のデータ・解析ディレクターのダンカン・ロス氏ら。
 THE側は日本版ランキング作成のねらいについて、「グローバルスタンダードの指標に基づく先の世界ランキングでは69校しか取り上げられなかったが、日本にはまだ多くの優れた大学がある。日本の高等教育の文脈に沿った形で、大学院レベルの研究ではなく学部教育にフォーカスしたランキングを通して教育の質を世界に発信しようと考えた」と説明。入学者の元々の学力以上に、大学教育によってどれだけ成長させられるかに重点を置いたと強調した。
 今回のランキングでは全ての大学にデータ提供を依頼、協力した435校を評価対象とし、その中から150校の総合ランキングを作成した。さらに、評価指標の4つの分野それぞれについても150校をランキングした結果、計298校の大学名を世界に発信することができたと説明。THEのウェブサイトには世界中から実人数で年間2800万人が訪問、2016年は6億8900万人がランキングにアクセスしたといい、この強大なプラットフォームを通じた発信力に自信を示した。

●リソースのスコアは必ずしも満足度と相関があるわけではない

 THE側は「全ての大学が情報公表に前向きだが、データを集めるのが困難な大学も多い。私たちのパートナーとして無償でデータを提供してくれた大学に心から感謝する。私たちはその貴重なデータを使って日本の高校生の大学選びや海外の人々の留学先選びを支援し、さらに、大学に情報を還元することによって教育水準をより高める支援もしていく」と述べた。
 ランキングの結果について、「これまでは世界ランキング100位以内の東京大学と京都大学のみが海外で認知されてきたが、今回、2位の東北大学はじめ多くの大学が僅差で並んだ。日本には2つの大学だけが突出した形で存在しているわけではなく、いくつもの優れた大学が層をなしていることを知らしめた」と意義を強調した。

ross&baty.jpg

 「教育リソース」を評価指標にすることについて、「設置形態によって政府資金の投入に差があるのは承知しているが、リソースの差が教育の質に影響を及ぼすのは事実。留学を考える人にとって関心が高いこの情報をきちんと提供する必要がある」と述べた。そのうえで、教育リソースのスコアと教育満足度や国際性のスコアとの間に必ずしも相関があるわけではないと指摘。リソースをどう生かして分野間のバランスがとれた教育力を構築していくか考えるよう提案した。
 アメリカが入国を制限し始め、イギリスがEU離脱に向けて動き出す中、留学生確保において日本に大きなチャンスが到来していると指摘。このチャンスを生かすうえで、日本の大学の弱点である国際性をいかに高めるかが課題になると突き付けた。

●教室での学びの様子がリアルに伝わる学生調査をめざす

 登壇者は、「入学者の学力という単一の指標で大学を見るのではなく、中身を多面的に評価する方向に変えていくうえで、このランキングが大きな意味を持つ」と指摘。大学はランキングの結果に一喜一憂するのではなく、自学の強みを伸ばし、弱点を補強するための参考材料としてデータを活用してほしいとの考えを示した。そして、「現時点で作り得る最高のランキングができたと思うが、まだ完成形ではない。多くの大学とそのステークホルダーから意見をいただき、日本の高等教育の質向上に資するより良いものにしていきたい」と語った。
 次回、2018年のランキングについてTHEは、アメリカ版で実施した学生調査の導入に強い意欲を見せた。「単なる学生満足度ではなく、チャレンジングな環境であるか、双方向型の学びでかつ振り返りの機会があるかなど、教室の様子がリアルに伝わるような調査にしたい」とイメージを説明。日本やアメリカ、ヨーロッパの大学間の比較が可能なランキングをめざすとし、「ある分野において東大とハーバードのどちらが優れているか可視化できるようなもの」と例示した。