2016.0425

APの新テーマへの示唆―共愛学園前橋国際大学の学修成果可視化の取り組み

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3行でわかるこの記事のポイント

●アクティブラーニングの成果の可視化を、出口の質保証にもつなげる
●DPと社会人基礎力の要素に基づく「身につけるべき力」を産業界と検証
●卒業生と就職先企業、両面からのアプローチ

2016年度のAPの新テーマ「卒業時の質保証」に申請予定の大学にとって、同事業で「学修成果の可視化」に取り組む共愛学園前橋国際大学の事例が参考になりそうだ。


●新テーマは16件程度を採択予定

 2016年度の大学教育再生加速プログラム(AP)「高大接続改革推進事業」の「テーマⅤ 卒業時における質保証の取組の強化」の公募が、5月20日に締め切られる。16件程度を採択して計約4億円を配分する予定だ。採択をめざす大学にとって参考になる情報を得るべく、2014年度、「テーマⅠ アクティブラーニング」「テーマⅡ 学修成果の可視化」の複合型に採択された共愛学園前橋国際大学に、計画の概要と3年目の現状について聞いた。
 同大学は、主にアクティブラーニングによる学修成果の可視化を進めているが、産業界との協働による成果指標の設定や卒業生調査を通じた大学教育の役立ち度把握など、「卒業時の質保証」にもつながる取り組みである点が着目される。
 共愛学園前橋国際大学は群馬県にある国際社会学部のみの単科大学で、英語、国際、情報・経営、心理・人間文化、児童教育の5つのコースを設置。APでは、独自の成果指標の開発、ポートフォリオの構築、ステークホルダー調査等によって学修成果を可視化し、教育プログラムの改善に反映する仕組みを構築している。

●身につけるべき力の中には「地元に対する愛着」も

 AP採択後まず、学修成果のベースとなるディプロマ・ポリシー(DP)を具体的な表現に改訂する作業に着手。「共愛=共生の精神」「国際社会に目を向けながら地域に根差すグローカル人材の育成」という建学以来の理念と実践を反映し、さらに学士力の観点を加えて「地域社会の諸課題への対応能力」「国際社会と地域社会の関連性についての識見」「問題を解決するための分析能力・実践的技能」等をDPとして設定した。
 これをベースに社会人基礎力の要素を取り込んで、全ての学生が卒業までに身につけるべき汎用的能力として「4つの軸と12の力」の原案を作り、2015年秋に地元産業界の意見を求めた。12の力を「〜できる」という具体的な表現にして52項目に整理。連携協定を結んでいる前橋商工会議所の会員企業に対し、各項目について「大卒の新入社員に求めるスキルとしての重要度」を5段階で尋ねるアンケートを実施した。52項目は、他大学で開発された社会人基礎力の構成要素(*)のほか、「自分が暮らしている地域(群馬)に対して愛着を持っている」「コミュニティにおける市民参加の重要性を理解している」等、自学オリジナルの項目も盛り込んだ。
 約50社からの回答で、全項目がおしなべて重要という結果がまとまり、「4つの軸と12の力」を自学の学修成果指標として確定した。

表.png

●ポートフォリオを就活にも活用

 能力の修得度は学生の自己評価を基本とするが、そのエビデンスとなるのが、2015年度後期に導入したポートフォリオに蓄積する学内外の活動記録だ。各履修科目は「12の力」のどれを伸ばすものか、シラバスと連動してポートフォリオに明示される。学生はそれを意識しながら毎回の授業の振り返りを記録し、成果物があればデジタルデータを添付する。正課と関連した授業外学修やオープンキャンパスのスタッフ等の課外活動、アルバイトやボランティア等の学外活動、さらに各種資格取得も、学生自身が「12の力」のいずれかを設定し、毎回の活動ごとに振り返りを書き込む。
 そして、進級時には1年間の振り返りとして、「12の力」それぞれについて各活動を横断的に振り返り、「共愛コモンルーブリック」に基づいて5段階の自己評価をしたうえで新たな目標を設定。教員は評価と目標の妥当性を面談で確認し、指導する。後藤さゆり副学長は、「授業での評価を単純に足し合わせた結果と、学生の汎用的能力の総体は一致しないし、汎用的能力の総体を評価するシステムは、他大学を含めまだ確立していないと考えている。そこで、本学は学生がそれぞれの目標に沿って自律的に学び、自らの成長を直接評価する形で学修成果を可視化し、教員はその評価の精度を高められるよう支援する形をとった」と説明する。

グラフ.png

 就職活動中の学生が、自分のポートフォリオの情報を抜粋して掲載した専用サイト(ショーケース)のURLを企業の採用担当者に提供し、学修成果を評価してもらう機能も2016年度から活用していく予定だ。

●地元産業界とのパートナーシップが強み

 卒業生調査は、2014年度末と2015年度末の2回実施した。初回は、約2000人にハガキを送ってウェブアンケートへの協力を依頼。インターンシップや留学、ゼミ等で身につけた力が仕事でどの程度役立っているか聞いたところ、165人から回答が得られた。
 2回目は、卒業生個人とその就職先、両方と接触するために991社の人事担当者に電話。卒業生との仲介を依頼すると同時に、担当者から卒業生の現状についての情報も入手した。卒業生185人から今後の協力の依頼を取り付け、大学での学修と仕事との関係について調査する予定だ。その結果を在学中の学修や活動の履歴と結びつけて分析することによって、教育プログラムの見直しを図る。各種データの分析は、学長を委員長として発足したばかりのIR推進委員会が担う。
 同大学はAPのほか、GGJ(グローバル人材育成推進事業)、COC、COC+等にも採択されている。それぞれが関連し合って展開され、地元企業との連携によるPBL等が定着している。学修成果指標の原案を産業界と連携してスムーズに確定したり、卒業生調査に多くの企業の協力が得られたりするのも、これらの事業を通じて地元産業界とのパートナーシップが確立できているためと言えそうだ。後藤副学長は、「地元企業と人材育成の目標を共有し、一緒に学生を育てるという意識や体制ができている点が本学の強み」と話す。
 これらの事業に相次いで採択される"ヒット率"について、同副学長は「いずれも、元々学内にあった課題意識が文科省の打ち出してくる事業にうまくはまったので、ゼロから構想する必要がなく、議論してきたことを申請書のフォーマットに落とし込むだけで済んだ」と話した。

* 北島・細田・星「看護系大学生の社会人基礎力の構成要素と属性による相違の検討」(大阪府立大学看護学部紀要17巻1号)の尺度を使用。