2月3日現在の私大一般選抜志願者指数は98.2、大規模校志向が復活
学生募集・高大接続
2023.0306
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●背景にコロナ禍の収束傾向、競争緩和
●大学、受験生とも年内入試へのシフトがさらに進行
●私学助成不交付基準の変更も中小規模校の学生確保に影響か
2月3日時点の集計によると、私立大学の2023年度入試における一般選抜・大学入学共通テスト利用方式の総志願者数は対前年指数98.2で、最終的に4年連続で志願者減になる見通しだ。データからは、コロナ禍の収束傾向や競争緩和に伴う都市部大規模校の人気復活、年内入試への一層のシフトがうかがえる。
*記事中、2023年度入試の私立大学志願者に関する数値は、進研アドと連携している豊島継男事務所が2月3日までにまとめたデータをもとにしている(集計校数は183校で2022年度に集計した最終志願者数の68.0%に相当)。各数値は今後、変動する可能性がある。
*記事中の対前年指数は特に断りがない限り、豊島継男事務所がまとめた前年同時期のデータとの比較。
2月3日現在、私立大学の一般選抜(大学入学共通テスト利用方式を含む)の総志願者数は218万5615人で、対前年指数は98.2 。18歳人口の指数は97.8となっている。
一般選抜は141万3398人(指数96.8)、共通テスト利用方式は77万2217人(指数100.9)。
東京(指数100.2)以外、すべてのエリアで前年割れしている。近畿は全国平均並みの98.4だが、東海は94.4と減少幅が大きい。
この時点の集計対象は、各地区の大規模校と東京・東海・近畿地区の中規模校が中心。今後、年内入試へのシフトが特に顕著な中小規模校のデータ、出願者の減少が見込まれる3月入試のデータが加わると、対前年指数はさらに下がると予想され、4年連続の志願者減での着地がほぼ確実な情勢だ。
集計大学183校の68.3%にあたる125校で志願者が減り(前年同時期は60.2%)、特に中小規模校での減少が目立つ。志願者数の規模別に、志願者が増えた大学と減った大学の数、および全体の指数を下表に示した。2022年度は大規模校のみ増え、中小規模校は減少が顕著だったが、2023年度は大規模校も減少した大学の方が多く、全体の指数はほぼ前年並みとなっている。
近畿地区では「関関同立」「産近甲龍」のいわゆる「関西8大学」の対前年指数102.3に対し、それ以外の大学は85.8で、大規模校への集中がわかる。
一般選抜で大規模校に志願者が集中する要因としては、
①コロナ禍の収束傾向に伴って都市部の大規模校志向が復活している
②前年度までの入試において私立大学全体で志願者数減、合格者数増となり競争が緩和しているため、難易度の高い大規模校にチャレンジする動きが加速している
などが挙げられる。都市部の大規模校志向で地元にとどまらなくなったこと、競争緩和によって併願校数を押さえることなどによって、中小規模校の志願者が減少。大規模校でも年内入試へのシフトが進み、そこで合格を決めた受験生が一般選抜に出願しないことも、中小規模校の志願者減につながっているとみられる。
また、2023年度から、私学助成の不交付基準が入学定員超過率から収容定員超過率に変わるため、大規模校では中退者の数を上乗せする形で合格者を増やす可能性がある。これによって併願先の入学辞退者が増え、中小規模校は歩留まりにおいても厳しい状況が予想される。
豊島継男事務所が1月13日現在まとめた年内入試の志願者数(集計対象は私立大学全体の25.2%に当たる147校)は、総合型選抜が4万9225人で対前年指数114.7、学校推薦型選抜が24万9388人で指数102.4、両選抜を合わせた指数は104.3となっている。
この時点で合格者数も公表している100校についての集計では、合格者数の対前年指数は総合型選抜114.8、学校推薦型選抜106.9、合計で107.8。年内入試で合格を決めたい受験生、年内入試で入学者を確保したい大学、それぞれの意向がさらに強くなっていることがうかがえる。
学部系統別の志願動向を見ていく。
2月3日時点の対前年指数は文系98.1、理系98.4、融合系(環境、情報、教員養成・教育、芸術・デザイン、スポーツ、総合科学)98.7で、これらの間に大きな差はない。
「法・政治系統」は指数92.3で、減少数(1万4133人)は全系統の中で最多。前年度の最終的な指数が107.4の大幅増だったため、敬遠されたようだ。その一部が、この時点で4年ぶりの増加となっている「経済・経営・商学系統」(指数102.3)、5年ぶりに増加した「総合政策・政策科学系統」(105.3)に流れたと推測される。
「国際・外国語系統」は指数97.5で4年連続の志願者減だが、減少幅はこの間で最も小さい。コロナ禍による人気低迷からの回復となるか、この後、および次年度以降の受験生の動きが注目される。
「理学系統」は指数100.1の微増。
一方、「理工・工学系統」は指数98.1で、前年度、大幅増だったため強気の出願ができなかったと推測される。ただし、この系統には国立大学との併願者が多いため3月入試でもある程度の出願が見込まれ、最終的な志願者の実数は全系統の中で最多となる可能性が高い。
「農・生命科学系統」は指数106.2で大幅増。前年度、大幅増となった「理学系統」「理工・工学系統」を第1志望にする層の併願を集めたと推測される。
前年度、8年ぶりに志願者が増えた「薬学系統」は再び減少し、指数94.9となっている。
年内入試へのシフト、大規模校への積極的出願、競争緩和といった2023年度入試の傾向をふまえ、中小規模校は2024年度以降の学生募集にどう臨めばいいだろうか。
現行課程での最後の入試となる2024年度入試では受験生の安全志向が再び高まり、年内入試の出願校を増やすと予想される。しかし、中小規模校では一般選抜の志願者増は考えにくく、不本意入学者の増加を防ぐため、志望度の高い層をいかに集めるかがポイントになる。
年内入試へのシフトをふまえた低学年広報の重要性を考えると、新2年生を対象とする施策にも並行して取り組む必要がある。新課程入試1期生となるこの学年は、一般選抜で上位校に積極的にチャレンジする動きが予想される。その際の併願先になるためには、新課程入試の変更点をわかりやすく伝える情報発信が欠かせない。一方、新課程での一般選抜を敬遠して年内入試で合格を決めたいと考える生徒も例年以上に増えると予想され、ここでの打ち手も重要だ。
「選択軸が異なる一般選抜受験層と総合型選抜受験層」「主に学校の進路指導で情報を得る受動層と、個別最適化された情報の中から自分の興味・関心に合うものを取捨選択する能動層」など、タイプに応じた受験行動を知っておき、それぞれにアプローチできる施策を考える必要がある。
かつてのように志願者が増えていくことはないという前提の下、明確な志望理由を語れる志望者、アドミッション・ポリシーに基づく出題の意図を理解して入試に挑む志望者を、一人でも多く「育てていく」ための施策が求められている。