2021.0406

大学生の振り返り調査<下> 専門的な学びへの導入となる支援を期待

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3行でわかるこの記事のポイント

●「学ぶ目的」「課題の多さ」「到達目標」等によるつまずきへの支援が不十分
●一般入試の入学生は相対的に「支援が不十分」と感じる割合が高い
●「高校の復習」「学びの導入」については早期の支援を希望

進研アドは、2019年度に大学・短大に入学した学生と2020年度に大学・短大に入学した学生を対象に、入学直後に感じた戸惑いやつまずき、入学前から初年次にかけての「高大接続期」における学習支援への期待について、今年2月に調査した。調査結果を紹介するシリーズ後半の今回は、大学の支援に対する期待について見ていく。一般入試での入学者に対する支援の必要性や、新入生が「専門的な学び」の導入となる支援を求めていることが明らかになった。

*関連記事
「大学生の振り返り調査<上> 大学での学び方で「戸惑い・つまずき」


 調査の概要は以下の通り。

●一般入試の入学生は「課題の多さ」「学ぶ内容への興味」に関する支援に不足感

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 前回は、⼊学直後の学⽣が⼤学の学びを「思い描いたものと違う」と受け止めていること、⼤学での学び⽅で⼾惑いやつまずきを感じ、コロナ禍によってその感じ⽅がより強くなっていたことなどを指摘した。では、戸惑いやつまずきを感じた学生は、大学の支援についてどう受け止め、どんな期待を持っているのだろうか。
 「戸惑い・つまずき」があったと回答した学生に、その内容ごとに大学の支援が十分だったかを尋ねたところ、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」という回答は「大学で学ぶ目的が分からなくなった」(42.3%)、「課題が多く、ついていけないと感じた」(38.3%)、「学習の到達目標がわかりにくく、どのように勉強すればよいか分からなかった」(34.0%)の順に多かった。
 さらに、これらの内容ごとに入試区分別で見たところ、一般入試による入学者は推薦入試・AO入試による入学者と比べて、「支援が十分だった」とは「あまり思わない」「全く思わない」の割合が高い傾向が見られた。特に、「課題が多く、ついていけないと感じた」(一般:47.6%、AO:25.0%、推薦:32.2%)、「大学で学ぶ内容に興味を持つことができなかった」(一般: 40.5%、AO:17.6%、推薦:26.9%)などについては、一般入試の入学生の方が支援について十分ではなかったと感じている。
 多くの大学において、入学前教育の対象を推薦入試やAO入試による早期合格者に限定し、一般入試合格者には実施していないことも影響していると考えられる。入学直後の「戸惑い・つまずき」は学びの充実感を下げる可能性があるため、一般入試による入学者にも何らかの支援を届ける必要があるだろう。

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●今年度の新入生は「専門的な学びへの導入」に関する支援への期待が特に高い

 入学後に「戸惑い・つまずき」を感じた学生を対象に、大学からどのような支援があればよかったかと尋ねたところ、「専門分野の内容を身近に感じられるようなガイダンスを実施して欲しかった」「勉強のしかたや学習計画の立て方を教えて欲しかった」という回答が多く、2020年度入学生についてはいずれも4割以上だった。

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 入学直後に「学びの内容が思い描いたものと違う」と感じる学生が多いことを前回、紹介したが、専門分野の内容について、高校までの学習や身近な課題と分断されているように捉え、それがつまずきにつながっていることも考えられる。
 専門分野が身近な課題解決にどうつながるのか、最初に学ぶ理論や基礎がどう積みあがって実践的な力に結び付くかといったことを理解したうえで、学習計画を立てられるよう支援する導入教育が必要とされていると言えそうだ。
 これらの支援内容ごとに実施を希望する時期について尋ねたところ、「専門分野の内容に関するガイダンス」「勉強のしかた、学習計画の立て方」「高校までの勉強を復習する機会」については、「入学まで」「入学後1か月以内」と早期を希望する声が合わせて7割以上に上った。高校の復習は、4割以上が「入学まで」を希望している。大学で学ぶにあたり、「学び方」は早期に知っておきたいというニーズがうかがえる。一方、「1年生後期以降」の割合が他の支援と比較して高かったのは「補講」(26.0%)「個別面談で相談する機会」(18.8%)「気軽に相談できる窓口」(14.4%)だった。

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●入学前教育の役立ち度は内容によって差がある

 多くの大学では高大接続期の支援として入学前教育を実施しているが、これを受講した学生に、取り組んだ内容ごとに入学後の学びへの役立ち度を回答してもらった。
 「とても役に立った」「まあ役に立った」の合計割合が高かった上位は「講義・オリエンテーション」(対面81.5%, オンライン74.4%)で、反対に「全く役に立たなかった」「あまり役に立たなかった」の合計割合が高かった上位は「課題図書」(48%)、「小論文・レポート」(41.3%) だった。前回紹介したように入学後の「戸惑い・つまずき」で最も多いのは「レポート課題への取り組み方が分からなかった」だった。入学前教育に組み込まれるレポート課題は自習形式で取り組み方の指導をしないことが多いため、結局、入学後につまずいてしまっている実態がうかがえる。

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 入学前教育に関する自由記述では、「取り組む目的や必要性を明示してほしい」という意見が多く寄せられ、課題の意図や役に立つポイントが学生にきちんと伝わっていなかったことも考えられる。
 詳しいデータの紹介は省略するが、これら入学前教育の内容ごとにどのように役に立ったか尋ねたところ、「講義・オリエンテーション」は「不安の軽減」や「大学での学びの理解」に役立ち、問題集をはじめとする学習課題は「大学での学びと高校までの学びのつながりの理解」や高校までの復習を通した「大学の学びに向けた準備」に役立つなど、傾向の違いが見られた。各施策の特性をふまえ、入学前教育から入学後の支援という一連の導入教育のステップを設計し、大学生活への適応を促していくことが求められる。
 今回の調査を通して、入学前から初年次にかけての「高大接続期」における導入教育の重要性や、学びの支援に対する学生の期待が明らかになった。2021年度の新入生はコロナ禍の影響で高校の授業の遅れによる学力不足、休校やオンライン授業への切り替えによる不十分な学習習慣、超安全志向の志望校選択、進路・大学研究の不足による不本意入学といった不安要素を抱えている可能性があり、今まで以上に丁寧な導入教育が必要だと考えられる。自学の施策が、大学での学びに期待を抱いて入学した学生に自身の成長を実感させ、意欲的に学び続けるための動機づけになっているかどうか、見直してみてはどうだろうか。

 調査ではこのほかに、学問系統別に見た「戸惑い・つまずき」と「期待する支援」の傾向の比較なども行っている。

➡「大学生から見た高大接続期の学習支援への期待 調査結果資料(2021年 2月)」のダウンロードはこちら