2019.0716

ベネッセ入試結果調査② 首都圏の上位私大は難化傾向が一段落

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●中堅私大は志願者増・難易度上昇が継続
●慎重な合格出しは変わらず、後期試験や繰り上げ合格で調整
●大学は次年度も続く安全志向・併願校拡大への対応を

ベネッセコーポレーションの調査に基づく2019年度入試結果シリーズの2回目は、首都圏の私立大学についてより詳しい志願動向と難易度の変動について解説する。さらに、次年度入試の志願動向と高校での進路指導について予測し、大学がどう対応すべきか考えてみる。

*各データはベネッセの分類・集計によるもので、各大学が公表している数値とは異なる場合がある。
*大学の公表数値を基にしたデータは5月中旬までにベネッセが収集・確認できた情報を基にしている。
*ベネッセ入試結果調査①はこちら


●上位私大は敬遠され志願者減、受け皿となった中堅私大では増加

 前回も示した通り、2019年度入試における私立大学の志願者数(一般方式とセンター利用方式の合計)は375万人で対前年指数106と引き続き増加した。一方、合格者数は89万人で対前年指数103だった。

shidaiippan.png

 受験生が前年度までの入試の難化に危機感を強めて併願校を増やした結果、志願者数が増加。一方の大学側は、私学助成が不交付となる入学定員超過率基準の段階的強化が一段落したのを受け、合格者数を増やす傾向となった。 
 下の2つのグラフは、首都圏の私立大学の主な大学群ごとに、一般方式とセンター方式を合わせた志願者数(上)と合格者数(下)の推移を示している。

daigakugunshigan.png

daigakugungokaku.png

 早慶上理(早稲田・慶應・上智・東京理科)、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)は前年度までの志願者増・難易度上昇によって敬遠され、志願者数が減った。合格者数は早慶上理が前年並み、MARCHは5大学すべてで増えた。
 一方、日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)、大東亜帝国(大東文化・東海・亜細亜・帝京・国士館)では上位大学群の敬遠や上位大学群との併願で今年度も志願者数が増えた。合格者数は日東駒専がほぼ前年並み、大東亜帝国で微増だった。
 成成明武(成蹊・成城・明治学院・武蔵)は志願者数、合格者数ともほぼ前年並みだった。

●上位大学では難易度が緩和された学部も

 いくつかの大学を例に、難易度の変化を見ていく。
 早慶上理、MARCHの各大学では全体として難易度の目立った変動はなく、一部では競争の緩和も見られる。
 青山学院大学では志願者数が増加した総合文化学部でやや難化したが、それ以外の学部では大きな難易変動は見られなかった。
 立教大学では、志願者数が減少または前年並みの学部が多い中、合格者数は法学部・異文化コミュニケーション学部以外で増加し、近年の難化がやや落ち着いた。出願の目安となる「合格率が40%を超える偏差値」を2018年度→2019年度で比べると、社会学部は72→70、観光学部は68→66など、一部で緩和された。
 一方、日東駒専の中では東洋・駒澤・専修で難易度の上昇が見られた。
 駒澤大学は全体的に志願者数が増加する一方、合格者数は多くの学部で絞り込まれ、実質倍率が上昇。法学部・経済学部で難化傾向が続き、合格率40%に必要な偏差値は2018年度と比べどちらも50台後半→60台前半と上昇した。
 専修大学では学科新設があった経営学部、志願者数が減少した人間科学部以外で実質倍率が上昇。志願者数が大幅に増加した法学部は合格率40%に必要な偏差値が2018年度と比べ50台後半→60台前半と上昇した。

●上位校の追加合格で辞退者が増え、志願者増でも定員割れするケース

 「難化する一般入試を避け、年内入試で早めに合格を決めたい」という受験生の心理、「併願校数拡大で歩留まりが読みにくい一般入試ではなく、年内入試で早めに入学者を確保しておきたい」という大学の思惑が重なり、指定校推薦や内部進学等による入学者数が増加するケースも見られた。その分、一般入試の合格者数が減らされ、受かりにくい状況が生まれた。
 私学助成が不交付となる入学定員超過率基準の段階的強化は一旦、終了したが、大学では入学者数が基準を超えないよう、慎重に合格を出す傾向が続いた。前期試験では合格者数を絞り込んで後期試験で調整する、正規合格者数を減らして補欠・追加合格で調整するといった対応が取られた。
 いくつかの大学の補欠・追加合格者数を示した下表の中で、前年度より3500人多い4420人を繰り上げ合格にした東洋大学が目を引く。正規合格者数を前年から1000人以上減らし、補欠合格候補者からの繰り上げ率は46%になった。

hoketsu.png

 上位校が追加合格を出す→その併願校で辞退者が出て追加合格を出す→その併願校で辞退者が出て...という連鎖の結果、追加合格を出せない入試最終盤になって辞退者が続出し、志願者が多かったにもかかわらず最終的には定員割れが確定するという大学もあったようだ。

●難易度の幅を広げた併願校選びで候補になるための発信を

 ここまでの情報をふまえると、2019年度の私立大学入試は次のように総括できる。
・上位大学では安全志向の受験生の敬遠により志願者数がやや減少し、難化傾向が落ち着いた。
・中堅大学では受験生が難易度の幅を広げて志望校を増やした結果、志願者数が増加し、難化傾向が見られた。
 なお、前回解説した通り、国公立大学の志願者数は前年並み。難易度にも大きな変動は見られなかった。
 現行入試制度の最後となる次年度入試では受験生の安全志向・現役志向がさらに強まり、国公立、私立とも大学群ごとの出願行動や難易度の変動は今年度の傾向から大きく変わることはないと予想される。
 2019年度の3年生が2年生1月に受けた進研模試でのMARCHの志望状況を見ると、ボリュームゾーンである偏差値50~59で志望者数が大きく減り、従来はより上位の大学を志望してきた偏差値70以上の志望者が増えた。一方、東洋・駒澤・専修の志望者数は偏差値60以上で増加。上位大学を敬遠し、合格の可能性がより高い大学群にシフトする傾向がうかがえる。

2nenmoshi.png

 受験生の安全志向が強まる中、高校の進路指導は次のような傾向になると予想される。

・国公立大学の高い第一志望を貫き通させる。
・私立大学についても高い第一志望を維持させつつ、現時点で合格可能性がかなり低い場合は「推薦・AO入試も選択肢にする」「難易度の幅を広げた併願を考える」「地方国公立大学との併願も選択肢にする」など、検討の視野を広げるよう指導する。
・「難易度のレベルを落としたくない」「地方大学には行けない・行きたくない」という生徒には、浪人して新たな入試制度で再チャレンジすることも考えさせる。

 こうした状況の下、私立大学にとっては、上位大学志願層の併願候補に入るための入試情報を発信しつつ、志望順位は高くなくてもある程度、納得して出願してもらえるよう教育の魅力を訴求する発信が重要となる。それでも一定の不本意入学者が出てくることは避けられないという前提で、中退を防ぐための意欲向上の施策も考えておく必要がある。