2016.0824

北陸大学-体験型学習を活用したAO入試で主体性、協働力を評価

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3行でわかるこの記事のポイント

●チーム単位でアクティビティの課題に取り組み、コンピテンシーを自己評価
●大学は、コンピテンシーの高さよりも適切な自己理解や目標設定の力を評価
●大学で修得すべき能力を理解させ、学びの意欲を高める育成型入試

北陸大学は2017年度に改組する経済経営学部で、学力の3要素の一部である主体性や協働力を評価するAO入試を始める。体験型学習プログラム「プロジェクト・アドベンチャー」を活用。チーム単位のアクティビティの中でこれらの力を発揮してもらい、自己評価を中心にした総合評価で学部との相性を確認し、出願資格を与える。


●6時間におよぶ活動で課題解決に取り組む

 運動の要素を盛り込んだプロジェクト・アドベンチャーはアメリカで開発された体験型学習プログラムで、チーム作りと個々の能力開発を目的に、グループ単位で様々な活動を行う。日本では全国各地の「少年自然の家」等を拠点としてプログラムが実施され、学校やスポーツクラブ、企業等の研修に活用されている。
 北陸大学経済経営学部の「コンピテンシー(行動特性)評価型」AO入試では、プロジェクト・アドベンチャーを取り入れた1日がかりの研修(セミナー)を通して主体性、協働力を中心とする行動特性を評価する。
 15人程度のチームに分けて「大きなシーソーを激しく揺らすことなく、全員が端から端まで移動する」といった課題を与え、どうすれば実現できるか話し合い、自分たちで役割分担を決めて取り組ませる。6時間におよぶ活動には、チームごとにプロジェクト・アドベンチャーの専門のファシリテーターが付き、教職員3人ほどが観察評価をする。

●ルーブリックに基づき3項目を自己評価

 活動終了後、グループごとに振り返りを行い、各自がルーブリックに基づいて個人の主体性、協働力、課題解決力について自己評価をする。主体性の中の「自己制御力」は「思い通りにならない時も感情的にならず対処できたか」、協働力は「メンバーをけなしたり軽視したりせず、敬意を持って接したか」など、3段階で評価させる。
 ファシリテーターと教職員もそれぞれ同じルーブリックを使って評価する。この入試の設計、実施を担う山本啓一学長補佐は、「あくまでも受験者の自己評価が主体で、われわれの観察評価はそこに加味し、補正する程度。大学側の観察による評価を主体にすると、受験者が自分を良く見せようと演技してしまう」と説明する。研修の前に、「この入試では各能力の評価が高いほどいいということではなく、自分をいかに客観的に評価でき、成長のための目標設定ができるかを見る」と説明し、実態とかけ離れた自己評価を防ぐ。
 自己評価と観察評価に基づいて受験者と個別に面談し、振り返りの姿勢、入学後の目標や意欲を確認。AO入試エントリー時に提出させる調査書で知識・技能もチェックし、総合評価によって出願資格を認定する。

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●ミスマッチを防ぐ接続型入試

 山本学長補佐はこのAO入試について「選抜ではなく育成に重きを置く」と説明する。大学で身に付けるべき力を理解し、自己評価の仕方を学び、そのような力を伸ばす学びへの意欲を高めることをねらいとするからだ。
 2017年度に経済経営学部に移行する現・未来創造学部国際マネジメント学科は、過半数がスポーツの実績による入学者で、主体性や協働力等のコンピテンシーに秀でた学生が多いという。新学部ではその強みを伸ばしつつ、それを土台として思考力・判断力・表現力、そして知識・技能も高めて社会に送り出すような教育手法を構想している。「スポーツに長けた受験生でなくても、この入試に興味を持ち出願する生徒であれば学部との親和性が高い。ミスマッチを防ぐ接続型入試と言える」と山本学長補佐。

●学部新設に先がけて教育改革を断行

 北陸大学は現在、薬学部と未来創造学部の2学部からなる。2017年度には医療保健学部を新設。さらに、未来創造学部の国際教養学科を改組して国際コミュニケーション学部を新設し、もう一つの国際マネジメント学科を現行カリキュラムのまま経済経営学部として昇格させ、4学部体制となる。
 国際マネジメント学科は学部への移行を前に、本年度からすでに教育の体制、手法、運用を大きく変えている。全教員が全学生に関わる体制で経済、経営、法、会計、IT の5分野の基礎力を修得させる。従来の初年次ゼミ(90分)を新たにキャリアデザイン科目(45分)とセット化。前者ではグループワークによる調査やプレゼンテーションで学びのリテラシーを育成し、後者では自分の経験に関する10分間のスピーチを通して自己表現力を鍛える。1コマの残り半分の45分間をゼミ担当全教員のミーティングにあて、目標や課題の共有など、コミュニケーションを深める。

●教育の評価を高め、スポーツ関係以外の入学者増をめざす

 次年度以降、経済経営学部でも、こうした手法や体制によって基礎的な知識・技能、主体性や協働力、表現力などを高めて企業のゼネラリストや公務員として送り出す構想を描く。そこで求められる適性、意欲を測るために導入するのがコンピテンシー(行動特性)評価型AO入試というわけだ。
 山本学長補佐は今春の北陸大学着任前に勤務していた九州国際大学で、プロジェクト・アドベンチャーを活用した新入生研修を導入し、定着させた実績を持つ。仲間づくりを促すプログラムが中退率の改善につながるとの期待が出発点になったという。同大学や九州地区の大学間連携活動での実践を通じて、体験学習における一人ひとりの行動の評価手法を研究し、北陸大学ではプロジェクト・アドベンチャーの入試での活用にこぎつけた。この入試による入学者は2年次以降、新入生のSAを務めてもらうなど、ロールモデルとしての活躍を期待している。
 山本学長補佐は「経済経営学部ではこの入試と連動させながら、真に社会で必要とされる力がつく教育を展開していく。教育力によって大学の評価を高め、将来的にはスポーツ関係以外の入学者の割合をもっと増やしたい」と意気込む。