2024.0408

今秋、4回目の全国学生調査試行版を実施-前回約10%だった回答率の向上が課題

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学独自調査の枠内に組み込む実施方法も選択可能に
●学習管理システム(LMS)を活用して学生に回答を促す大学も
●イギリスの学生調査からの示唆は「学生へのメリット提供が必要」

文部科学省は「全国学生調査」の4回目の試行版を2024年秋から実施すべく、準備を進めている。回を追って低下する回答率を上向かせるには、いかにして学生に「回答するメリット」を提供できるかがカギとなる。

有識者会議で配付された資料
*記事中の図表は文科省が公表した資料から引用


質問項目は大きく減らす方向

「全国学生調査」の試行版は2019年度が最初で、今回が4回目となる。文科省が示している実施の案は以下の通り。

対象は大学の2年生と4年生、および短大の2年生。202411月から20252月までの間で1か月間程度を目安に、各大学が実施時期を設定できる。
調査方法は従来の方式(下記の調査方法1)に加え、大学の独自調査の中で実施する方式(調査方法2)を設定、いずれかを選択できる。

〈調査方法1〉
文科省が実施するインターネット調査(指定のURLに学生が直接回答)に参加。

〈調査方法2
大学独自の学生調査の中に「全国学生調査」の質問項目を設定して実施。大学が調査結果を取りまとめ、文科省が指定するフォーマットで指定期日までにデータを提出する。

選択式の質問項目数は前回の45問から大きく減らし33問程度を予定。調査方法1は、大学独自の質問を設定できるようにする方向だ。 

不参加の理由は「学生の負担」と「独自調査の実施」

これまでの試行調査における4年制大学での回答率は、第1回(2019年度)27.3%→第2回(2021年度)11.8%→第3回(2022年度)10.6%と低下してきた。この調査では、集計・分析の対象にする有効回答者数の基準を学部の学生数に応じて決めている。この基準に合致した学部の割合も65.3% 36.7%→ 31.7%と低下している。

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参加大学の増加と回答率の向上を図るため、文科省は20239月から10月にかけて大学・短大にアンケートを実施した。

第4回試行調査に「参加」または「検討中」と答えた大学・短大は計68.6%だった。これらがすべて参加した場合、第3回の参加率62.3%を上回ることになる。

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第4回に「不参加」の理由は「学生の負担を考慮」(68.4)、「学校独自で同様の調査を実施している」(45.8%)が多かった。
「参加」と答えた大学・短大のうち、調査方法1の実施を選んだのは93.9%、調査方法26.1%

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調査方法1の選択理由は「学生への周知が容易」(71.5%)、「調査方法2だと回答送付作業が煩雑」(54.1%)が上位で、「調査方法2だとシステム設定が煩雑」(17.9 %)と続く。

調査結果の活用法について、「大学のホームページ等で情報公表」と答えたのは、大学1.8%・短大0.9%、「教学IRとしてデータ活用」は大学21.8%・短大16.1%だった。 

「調査結果の公表を促すにはインセンティブが必要」との声も

「大学独自調査の実施」、およびそれも含めさまざまな調査に回答する「学生の負担」は、この調査に参加しない理由として当初から挙げられてきた。その対応策として文科省が考えたのが調査方法2だが、これまでのところ、大学の参加促進にはつながっていないようだ。

3月中旬に開かれた「『全国学生調査』に関する有識者会議」で、文科省の担当者は「質問項目を早めに確定して調査方法2の実施内容をより明確にすることによって、参加大学を増やしたい」と話した。

学生による回答率の向上も課題だ。
回答率が高い大学では学生への周知方法として、学内ポータルやメールでの発信に加え、ゼミや説明会など学生が集まる場で教員から呼びかける、学習管理システム(LMS)に専用コースサイトを作って回答用 URL を通知し、アクセスしていない学生に回答を促すといった工夫をしたという。文科省はこれらを各大学に例示し、回答率向上を働きかけたい考えだ。

調査結果の活用について、委員からは「大学に情報公表を促すには何らかのインセンティブが必要ではないか」との意見も出た。文科省は「回答率10%台では公表せよとは言いにくく、まずは回答率を上げる策を考えたい」と答えた。 

イギリスの学生調査の結果データは、進学希望者や学生も活用

この日の会議では、参加大学の増加や回答率の向上の策を考えるための参考情報として、筑波大学の田中正弘准教授がイギリスの全国学生調査(National Student Survey: NSS)について紹介した。
田中准教授が説明したNSSの概要は次の通り。

大学への助成や助言を行う準政府機関「学生局」が毎年1回実施。ほぼ全大学が参加し、2023年の回答率は71.5%だった。
公的資金の配分を受ける大学にとって調査への参加は義務であり、提供される調査結果データを外部評価に活用する。回答率が一定の基準を上回った大学にのみデータが提供されることが、大学にとって回答率向上のインセンティブとなっている。

一方、学生組合も自学のデータを提供され、大学執行部に要求事項を出して交渉する際の根拠として活用するため、回答率向上に協力する。

NSSの結果は進学希望の生徒が自由に閲覧できる。各大学は自学のホームページで、閲覧者の関心が高い他のデータと組み合わせて公開している。
マンチェスター大学教育学部の場合、入試情報や1年後のリテンション率、卒業後の収入、 卒業15か月後の就労率など、「入り口」「出口」のデータと共にNSSの結果を公開している。

田中准教授は「自分たちが活用したいと思えるデータでなければ、学生は調査に協力してくれない。学生のための調査であるなら、学生や進学希望者が使いやすい形でデータを閲覧できるようにしたり、提供したりすべきだ」と述べた。