2023.0130

高校生と大学生が探究で協働し、大学での学びについて再考―上智大学

学生募集・高大接続

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校生対象のプログラムと大学の正規科目の一部を合同で実施
●論文作成をゴールとする高校生の探究に大学生が知見やスキルを提供
●「高校時代の『ワクワクすることの発見』が大学での学びを最大化」

上智大学が高大接続の取り組みを強化しつつある。法人傘下の企業が高校生を対象に探究プログラムを開講する一方、大学でも、探究のスキルとマインドを育てる科目を新設。2022年度は、プログラムを受講している高校生が大学の授業に参加し、学生と協働して探究を深める企画を始めた。「大学のプログラムをフル活用して自らの学びを主体的にデザインできるよう、入学前から育成する」という課題意識の下で展開される「探究を軸とした高大接続」とは―。


●東南アジアでのネットワークを生かし、スタディーツアーを企画

 高校生対象の探究プログラムは、学校法人上智学院傘下の海外教育事業会社「Sophia Global Education and Discovery Co., Ltd.(Sophia GED)」(バンコク)が運営している。2019年設立の同社は、上智大学の教育・研究活動を通して構築された東南アジアでのネットワークをベースに、実践型のスタディーツアーや留学プログラムを企画・運営。同大学のフィールドワーク型の正規科目や他大学の学生にも開放する留学プログラムのほか、高校生向けの教育プログラムも設けている。
 2020年度からは、高校生がテーマを決めて探究に取り組むオンライン学習プログラム「せかい探究部」を開講。6月から10か月間、大学教員らによるレクチャーや個別ゼミを受けながら論文を仕上げる有料のプログラムだ。

●国内外で高校生の探究支援に携わった教員がプログラムを設計

 「せかい探究部」は、Sophia GEDの教育プログラムディレクターで上智大学特任助教も務める新(あたらし)江梨佳氏が中心となって設計・運営し、講師も務める。同氏は北海道大学で生物学を専攻。青年海外協力隊の一員としてアフリカ・マラウイの高校で理数科教育の支援に携わり、科学探究クラブを開いた。その後、スーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定された私立高校で探究支援を担当した。
 これらの経験を通し、「ワクワクするテーマに出合うことによって、目を輝かせ、大きく成長する高校生を数多く見てきた」という同氏。教育に関する理論も修めようと東京大学大学院で学習科学などを学び、現在も博士課程に籍を置く。
 「高校生のうちに探究する喜びに出合い、主体的にテーマを決めて学べるようになれば、大学の豊富なリソースを使いこなし、4年間の学びを最大化できる。探究力は仕事や人生にも必ず役立つし、それを身に付けた人が増えれば社会も良くなる」。新氏は「せかい探究部」を企画した背景をそう説明する。だから、高校生をこのプログラムに誘うメッセージは「自分がワクワクできることに出合おう」だ。

●オンラインのレクチャーとゼミでテーマ設定から論文作成までを支援

 「せかい探究部」の開講期間は10か月で、オンラインで完結。月2回のグループレクチャーと月1回の個別ゼミを通して各自が東南アジアをはじめ世界のフィールドからテーマを決め、論文を書き上げるまでを支援する。

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  1回90分のグループレクチャーの講師は、新氏とSophia GED社長兼上智大学グローバル教育センター教授の廣里恭史氏が務める。廣里教授の「メコン塾」では、東南アジアを中心に国際社会の情勢を解説。ディスカッションを交えて受講生にさまざまな課題の発見を促し、探究テーマを決められるようリードする。新氏の「スキル塾」では調査・分析や発表、論文執筆など、探究のスキル修得を支援する。

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 両氏をはじめ大学教員や研究者が担当する個別ゼミは1回30分。1対1の面談形式による論文指導で、テーマ設定から進め方、内容について話し合う。高校の授業など、個々の受講生の都合に合わせて柔軟に日時を設定する。
 受講生はこれらの指導・支援を通して自分のテーマに取り組み、考えたことをオンラインワークシートに記入していく。
 ゲスト講師による特別セッションで世界観を広げる機会も提供。海外の専門家や関係者へのインタビューやアンケートといったオンライン調査もサポートする。
 過去2年間の論文テーマは、「ASEAN諸国におけるLCC就航の現状及び今後の就航の提案」「富裕層と貧困層の幸せの感じ⽅の相違―タイの経済格差を踏まえて―」「アジア圏の国ごとにおける『お笑い』の違い」など、多彩だ。

●高校生に直に情報を発信し、受講生を募集

 「せかい探究部」については高校への広報活動は行わず、大学のウェブサイト等を通じて高校生に直に発信、受講生を募る。新氏は「今のところ、高校単位よりも生徒個人のニーズにはまりやすいという感触を得ているから」と説明する。

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 主な対象は、大学進学がより現実的な関心事になる2・3年生だ。受験勉強と両立できるよう、「フルプラン」に加え、個別ゼミが3か月に1回など、柔軟に参加できる「ライトプラン」も設定している。
 受講料は9万円で、10か月間のうち最初の月は無料で体験したうえで正式にエントリーする。明確な定員は設けず、意欲ある生徒を可能な限り受け入れようというスタンスだ。初年度は試行プログラムに応募した18人でスタート。2年目は応募者が51人に増え、全員を受け入れた。3年目となる2022年度はキャパシティーを考慮しつつ、正式エントリーした75人を抽選で50人に絞った。多くが2年生だが、1年生やフルプログラムに参加する3年生もいる。

●プログラム修了者の受け皿となる科目で大学の学びにつなぐ

 一方、上智大学の基盤教育センターが2022年度に新設した全学共通科目「探究的な学びを創る」は秋学期に開講し、全14回の授業で構成。探究学習の考え方や、調査の基礎知識とスキル、プロジェクトの運営・参加のスキルを修得する。
 こちらも新氏が設計と授業を担当。「『せかい探究部』で探究の面白さを経験して成長し、本学に入学した学生がさらに探究を積み上げられる機会を提供したかった。修了生以外の学生にとっても、自分の学びを創る力を伸ばす機会にしてほしい」と同氏。さまざまな学部の1〜4年生が受講し、「せかい探究部」修了生のほか、高校で探究学習に熱中した学生、「高校には探究学習がなかったから、ぜひ大学で」という学生もいる。

●「一歩前進」をめざす協働で高校生と大学生、それぞれが成長

 新氏は「探究的な学びを創る」の設計において、授業の一部を「せかい探究部」と合同で実施する「探究コラボチャレンジ」を構想。11月から2か月間、計4回の授業に高校生が参加する。大学生と高校生をそれぞれ2、3人ずつ組み合わせたチームで、高校生が自分の探究について現状を共有。大学生の視点や知識・ネットワーク等のサポートを得ながら探究を深めるというものだ。

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 新氏は「高校生が6月からの半年間でそれぞれのテーマを深めた段階でのコラボであることがポイント」と説明。「自分の考えていることを、教員とは違う視点を持つ他者に対して言語化すること自体が学びになる。大学生にとっても、高校生とはいえ専門的な探究の内容は面白く、刺激を得られる」。互いにリスペクトを払いながら、大学生が調査方法についてアドバイスしたり、分析の視点を提供したりして「小さくても意義ある1ステップ」を生み出すことが期待されている。
 高校生にとっては、探究の1ステップ前進というメリットがある。大学生については、授業で学んだ探究の理論や調査スキルを他者の支援を通して実践し、定着させることに加え、ファシリテーションやリーダーシップといった社会的スキル向上のねらいがある。
 高校生と大学生に共通して期待されているのが、大学で学ぶ意義の問い直しだ。「高校生には先輩の視点やスキルに対する尊敬、憧れを通して自分の進学後をより具体的にイメージしてほしい。大学生は高校生の真剣な学びに触れることによって、自らが学ぶ目的を今一度考えてほしい」と新氏。これを実現すべく、コラボチャレンジは、全員による「自分にとっての大学での学び」の発表でしめくくられた。 

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●探究プログラムの楽しさが大学進学のモチベーションに

 上智大学総合人間科学部教育学科1年生の平田紫音さんは2021年度、高校3年生で「せかい探究部」を受講した。カトリック系の高校を対象とする学校推薦型選抜の受験準備を進める中でもプログラムの活動に熱中し、それが勉強のモチベーションになったという。「高校の勉強は暗記と試験の繰り返しでしたが、このプログラムを通して『学ぶって本当はこういうことなんだ』と知ることができ、進学が心から楽しみになりました」。
 平田さんは「せかい探究部」での探究テーマ「カンボジアとルワンダのICT教育の現状と課題」を発展させる形で、現在はカンボジアの学校教育を支援する学生団体で活動、春休みには2回目の現地訪問を予定している。コラボチャレンジでは自身の受講経験もふまえて高校生をファシリテートした。3年生になったらキャリア関連科目「Sophia GEDグローバルインターンシップ」を履修してコラボチャレンジの企画運営に携わるのを楽しみにするなど、今や新氏の心強いパートナー的存在だ。
 プログラム修了生でこれまで上智大学に入学したのは、平田さんを含め10人。2023年度も10人ほどが入学見込みだという。

●高大接続の取り組みの背景に「大学4年間は短い」という学長の持論

 上智大学は、入学予定者に自学での学びの理解と主体的な履修を促すことを目的とする独自の入学前教育を導入するなど、高大接続の取り組みに力を入れている。その原点にあるのは、曄道佳明学長がたびたび口にする「大学4年間は短い。大学のプログラムをフル活用するためには、入学前からどのようなプログラムが提供されているかを理解し、自らの学びを主体的にデザインしていくことが大事」という考え方だ。
 「せかい探究部」は、他大学に進学する受講生に対しても、大学での主体的な学びを実現する支援につながっている。「探究経験を重視する大学やグローバル教育に力を入れる大学に進んだ受講生からも、『自分にとってのワクワクを深められることがうれしい』と言われる」(新氏)。
 上智学院広報グループの菊池亜由美氏は「『せかい探究部』を学生募集につなげたり総合型選抜等と接続させたりする予定はない。ただ、東南アジアとのネットワークや授業、教員、学生といった本学ならではのリソースに触れるプログラムが大学の広報になっている面はある」と説明。「探究の機会を提供することによって大学での学びに対する高校生の意欲を高められることは、高大接続を大切なものだと考える本学の理念と重なり、喜びとなる」。