2025年に理工学部新設、新校舎で文理を超えた学び―追手門学院大学
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2023.0511
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3行でわかるこの記事のポイント
●総合大学としての進化に向かう「第二の開学」と位置づける
●新キャンパスに学生を集約し、学部の壁を超えた交流を促す
●学びの個別最適化を図る教育DXを推進
追手門学院大学(大阪府茨木市)は2025年、初の理系学部となる理工学部(仮称・構想中)を新設する。それに合わせて茨木安威キャンパスから茨木総持寺キャンパスに拠点を移し、全9学部の学生が文理を超えて学び合う環境を整える。文理を分けて捉える発想や、「時間をかけ汗水流して学ぶことこそが価値」といった固定観念にとらわれない新しい教育のあり方を問いたいと考える真銅正宏学長に、これまでの改組や教育DXも含む大学改革について聞いた。
*理工学部に関する説明は2023年4月時点の構想。
*文中、太字部分が真銅学長のコメント。
追手門学院大学の理工学部新設は、2022年から6年間の中期計画「第Ⅳ期中期経営戦略」で掲げる「文理を超えた総合大学の実現」を具体化するものだ。2025年、大阪・関西万博開催の盛り上がりに合わせる「悲願の理工学部新設」(真銅学長)を、総合大学としての進化に向かう「第二の開学」と位置付ける。
理工学部には理工学科を置き、数理科学、機械工学、電気・電子工学、情報工学の4つの専攻を設ける。オーソドックスな分野構成でものづくりの基盤となる力を養う一方、デジタルやサステナビリティといった現代的な要素も加える。数理科学専攻では、学部を問わずリテラシーが求められるようになったデータサイエンスを扱い、他学部との連携を視野に入れる。
入学定員は4専攻合わせて160~200人程度を予定。1年次は、2019年に新設され、新校舎(Ⅱ期棟)の建設が進む茨木総持寺キャンパス、2年次以降は茨木安威キャンパスで学ぶ。
理・工・農分野の学部設置を促す文部科学省の支援事業に申請する予定だ。「心地よい社会のためのものづくり」というコンセプトの下、今後、学部の設計が本格化する。
2023年度入試まで11年連続で志願者を増やしている同大学にとっても、文系の大学というイメージが強い中で新たに理系の志望者を集めるのは容易ではないだろう。「それでも、本学にとって未開拓のマーケットだからこそ大きな可能性がある。大阪という立地もアドバンテージになる」。
追手門学院大学はここ数年、次々と改組や学部新設を行い、「文理を超えた学び」の地ならしをしてきた。2019年、経営学部に情報システム専攻を新設。2021年には心理学部にAIについて学ぶ人工知能・認知科学専攻を設けた。翌2022年は国際教養学部の改組により国際学部と文学部を新設し、文学部には建築士の資格を取得できる美学・建築文化専攻を設けた。法学部を設置した2023年現在、人文・社会科学系の8学部体制となっている。
文系学部の拡充と理系分野導入の延長線上に、理工学部新設も位置付けられている。法学部設置前に約8000人だった学生数は、理工学部が完成年度を迎える2028年度には1万人程度まで増える見通しだ。
同大学は、めざす方向性について「文理を超えた学び」と表現する。文系と理系に分かれていることを前提とした「融合」や「横断」ではなく、文理を分けて考える発想自体を超越しようとの理念が込められている。その実現をめざすプロセスとして、まず「理系学部」をつくったうえで、既成の文理の枠組みを超えていこうというわけだ。
理工学部の設置以降も、後述するような文系と理系の交流を促して文系学部での理系的学びを拡充し、総体として「文理を超えた学び」を実現したい考えだ。「例えば、文学作品をデータ分析するスキルを修得するため、文学部の初年次にデータサイエンスを必修にすることも考えられる。そのような学びが文系か理系かと論じることは、もはやナンセンスだ」。
文理を超えた学びによって追手門学院大学が育成したいのは、イノベーションを創出できる人材だ。「異質なもの同士がぶつかり合い、スパークすることによって新しい価値が生まれ、社会は発展してきた。学部ごとに固定化されたカリキュラムに従うだけの『必然の学び』から、授業の内外で異分野の者同士が出会う『偶然の学び』へと変えることによってイノベーションが生まれるはずだ」。
「私は専門の国文学を通して、偶然こそが面白さを生み出すことを学んだ。文学作品では現実にはあり得ないような偶然が描かれるからこそ、読み手に笑いや感動を与える。大学の学びにおいても異分野との偶然の出会いをたくさん仕掛けていく」
こうしたねらいの下、2025年の理工学部の誕生と同時に、学部同士の学び合い、教え合いを提供する新校舎が稼働する。心理学部(2〜4年次)と心理学研究科を除く既存の学部・大学院を、JRと阪急の駅から徒歩圏内にある総持寺キャンパスに集約し、事務局機能もそこに移す。心理、理工学部の1年生、および他の7学部の全学年が総持寺キャンパスに集う。
地上6階建て、南北250mの新校舎のコンセプトは「文理を超えたハイブリッドキャンパス」。教室やゼミ室と教員の研究室を同じフロアに配し、広い廊下にも椅子や机を置いて授業以外での学びや交流を促す。教員と学生の議論、学部を越えた学生同士の学び合いが日常的な光景になるイメージを描いている。「それぞれの専門の囲いから学生を解き放って、理系と文系を分けて考える頭の中から変えていきたい」。
ただし、「必然の学び」もおろそかにはしない。学部ごとの学び自体はオーソドックスな内容になっている。「専門分野のスタンダードな基礎をしっかり学んで『自分の言語』を身につけなければ、他の分野の人とのコミュニケーションはできない。文学部、法学部をつくった時は外部の方から『何で今ごろ?』と言われたが、総合大学には欠かせない分野であり、法学部の教育はあえてスタンダードな内容にした。理工学部もオーソドックスな専攻にする。どの学部も低学年でそれぞれの土台をしっかり築けば、高学年でその土台を生かして他の分野と自在につながれるはずだ」。
一方で、4年間でできることには限界があるとも考えている。「大学教育だけでイノベーションを創出できる人材を育てるのは至難の業だ」。そこで、追手門学院大学は生涯学び続けるための主体性と学び方を修得させるための教育DXに取り組んでいる。
デジタルの活用によって学修者本位の教育の実現を図る「OIDAI DX推進計画」は、2021年、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に選定された。
計画のベースとなるのは2018年から運用している学習ポートフォリオ「追大e-Navi」で、個々の学生のGPAや検定試験のスコアなどを蓄積している。2021年には学習時間やテストの得点率、授業のディスカッションにおける発言時間といった学習データを自動収集するLMS「KnowledgeDeliver」を導入。これらで管理するデータをもとに、それぞれが自分の学び方とその成果を確認しながら学び方を改善できる。データに基づく授業内容や指導法の見直しにもつなげる。
「OIDAI DX推進計画」では、将来的には学生の進路に関するデータも取り込み、AIによるTAシステムを構築する予定だ。学生が希望する進路を実現するために履修すべき科目、取得すると有利な資格や検定等のレベル、取り組むべき活動などをAIが助言する。めざすのは、個別最適化した学びによって成果を最大化する学修者本位の教育だ。
「本学の使命は、生涯にわたって有効な『学ぶ力』を修得して社会を牽引する人材を送り出すことだ。『なるべく多くの時間を割いて歯を食いしばって勉強してこそ成果が上がる』という教育神話を、テクノロジーの活用によって覆したい。学びは本来、苦行ではないはずだ。効率的に、ただし真剣に学んで目標を達成できる方がいいに決まっている。節約できた時間と労力を使って勉強以外のことにも取り組んで人間の幅を広げてほしい」。
「追手門学院大学では、それぞれの専門分野の基礎をしっかり学ばせつつ、分野間の学び合いの機会を創出して文理の境を超えた発想力の種を学生の中に撒いていく。そうすれば卒業後10年、20年にわたって成長を続け、活躍できると信じている」。
真銅学長は、材料工学の専門家から聞いたという「クモの巣に着想を得た鉄のワイヤー」の話、心理学と工学技術の連携によって生まれた「車を上から見下ろす方式のバックモニター」の話など、異分野の専門性の出合いによるイノベーションの例を次々と、目を輝かせて語る。自身は生粋の「文系人間」でありながら、テクノロジーに興味を持って軽々と越境し、面白がるマインドが教育に対する信念を支えているようだ。
「法学部の学生は法律の世界だけにひたり、理工学部の学生はものづくりだけを学んで卒業していく、そんな4年間ではあまりにもつまらないし、もったいない」。
大学のウェブサイトに「言伝(ことづて)」と題するページを持ち、学生に対して不定期で学長メッセージを発信する。コロナ禍がこれほど長く社会を覆うとは誰も予想しなかった2020年4月、キャンパスに来られなくなった学生を励ますためにスタート。当初は週1回更新し、「オンラインで仮想図書館に出かけよう」「ものの見方の角度を変えよう」と、学生を学びへと鼓舞し続けた。最近も、偶然が生み出す可能性や文理の区別を超えて学ぶことの大切さ、そして教育DXなど、大学改革にかける思いを平易な言葉で語りかけている。
学長のメッセージをシャワーのように浴びる追手門学院大学の学生たちが、ハイブリッドキャンパスでの学び合いを通して新たな価値を生み出していくさまに注目したい。