2022.1110

平均値にとらわれず、学生個々の特性に応じた指導で主体性を引き出す

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3行でわかるこの記事のポイント

●「主体的」と「受動的」が1人の学生の中にも共存
●主体性の涵養には「学ぶ意味」の理解が効果的
●正課教育が汎用力の伸長につながることの認知が重要

企業が採用において最も強く期待する資質は「主体性」であることが、産業界が実施した調査で明らかになった。では、どうすれば大学で主体性を育てることができるのか。主体性を涵養することは、学生の将来にどのような影響を与えるのか。ベネッセ文教総研の村山和生主任研究員が、2つの調査結果をもとに考察する。


●アクティブ・ラーニングに積極的な一方、単位が取りやすい授業を好む学生

 産業界が、大学の卒業者に備えておいてほしいと考える資質はどのようなものか。図1は日本経済団体連合会(経団連)が2021年8月から10月にかけて実施したアンケートの結果で、「採用の観点から、大卒者に特に期待する資質」のトップは「主体性」だ。

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「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」
調査主体:一般社団法人 日本経済団体連合会
調査期間:2021年8月4日~10月1日
調査方法:メールによる調査票送付、回収
回答企業数:381社
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/004.html

 それでは、今の大学生には主体性が身に付いているのか。ベネッセ教育総合研究所が2008年から継続的に実施し、2022年7月に第4回の結果を発表した「大学生の学習・生活実態調査」のデータから確認したい。

「第4回 大学生の学習・生活実態調査」
調査主体:ベネッセ教育総合研究所
調査時期:2021年12月
調査方法:インターネット調査
回答数:全国の大学1~4年生4124人
https://berd.benesse.jp/koutou/research/detail1.php?id=5772

 まず、学修時間を見てみよう。図2は、1週間の中で大学生がどのようなことにどの程度、時間を使っているかの経年変化を示したものだ。

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 「大学の授業などへの出席」の時間が大幅に減少しているが、無論、これはコロナ禍の影響が大きい。ただし、実はこの減少傾向はそれ以前からあり、コロナ禍でそれが加速したと見ることができる。一方、「授業の予復習や課題」の時間は増えている。ただし、これもコロナ禍によるオンライン授業の拡大に伴い、授業ごとの課題の量が増加した影響だろう。「大学の授業以外の自主的な学習」の時間に変化がないことを勘案すれば、学生が主体的に学修に時間をかけているとは言い難い。
 それでは、学修態度に変化はあるのか。授業に対する取り組み状況の経年変化を示した図3では、総じて肯定的な回答が増えていることがわかる。

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 特に、「グループワークやディスカッションでは、異なる意見や立場に配慮する」や「グループワークやディスカッションで自分の意見を言う」といったアクティブ・ラーニング型の授業への積極的な参加姿勢を示す回答が大幅に増えている。同時に、「自分の意思で継続的に学習する」「計画を立てて学習する」「授業の復習をする」など、授業に主体的に臨む姿勢を示す回答の増加も目立つ。これらのことから、大学の授業に主体的に参画しようとする学生が増えていると推測される。
 ただし、大学教育に対する考え方についての設問では、逆に受動的・依存的な回答が増えている。例えば、図4では、「あまり興味がなくても、単位を楽に取れる授業がよい」「大学での学習の方法は、大学の授業で指導をうけるのがよい」といった回答は第1回調査から一貫して増え続け、今回の調査までに6割前後に上っている。

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 これらの結果から考えられるのは、学内に「主体的な学生」と「受動的な学生」が共存し、それぞれの傾向が年々強まっているということではないか。さらには、「大学が提供する授業でのみ積極的に学ぶ」といった、1人の学生の中で主体性と受動性が共存しているケースも考えられる。
 このような「主体性と受動性の二極分化」ともいえる状況においては、大学が学生の主体性を把握する際に注意が必要となる。調査結果等を分析する際に、「全体傾向」や「平均値」だけに着目すると、実態とは乖離した分析に陥りかねない。学修時間、学修態度、学修に対する考え方などを、一人ひとりについて正確に把握することが大事だ。その結果に基づいて個別にサポートすることによって、学修行動の改善が可能になると考える。

●「能動的な学び方」が「学び続ける姿勢」につながる

 それでは、「とにかく個別に、手厚い指導をすればよいのか」というと、必ずしもそうとは言えないようだ。ここで、別の調査に着目したい。ベネッセ教育総合研究所・パーソル総合研究所・中原淳(立教大学教授)で構成する「ハタチからの『学びと幸せ』探究ラボ」が2021年11月に実施した「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」では、大学時代に身につけた資質・能力が、どのような「学びのスタイル」によってもたらされたのかを分析している。

「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」
調査主体:パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳
調査期間:2021年11月5日~11月8日
調査方法:インターネット調査
回答数: 25~35 歳の就労者 2000人(有期雇用を除く)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/hatachikara/data-01.html

 図5は学びのスタイルと資質・能力の関係性を図示し、影響の大きさを矢印の太さで表している。

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 「指導の手厚さ」からは、どの資質・能力にも矢印が出ていない。これは、単なる手厚い指導だけでは資質・能力に好影響を及ぼさないことを示唆している。
 逆に、多くの資質・能力に強い影響を与えているのは「領域を超えたカリキュラム」「ラーニング・クラフティング」「能動的な学び方」だ。つまり、学生自身が「領域を超えたカリキュラム」を意識的に選択し、その中で「自分の考えを深め、学びと社会や将来をつなげるなど、学びの意味づけをして(=ラーニング・クラフティング)」「能動的な学び方」を実践することが、さまざまな資質・能力の涵養には効果的であると解釈できる。
 では、そのような資質・能力は、大学生活のどのような活動の中で培われるのか。図6は「大学時代に力を入れた活動」ごとに、身についた資質・能力に対する影響度を星印の数で示したものだが、最も大きな効果があったのは「大学の授業」だ。「卒業論文や卒業研究」「課題解決型の学習、フィールドワーク」なども有効といえる。

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 一方、「アルバイト」や「インターンシップ」による効果はほとんどないようだ。さらに、大学の授業などで身に付けた学ぶ姿勢は、社会に出てからも有効である こともわかった。調査に回答した若手社会人のうち、「働く幸せを感じながら、社会でも活躍している層」の特徴を分析した結果が図7だが、「幸せな活躍層」は、「学びや学習に前向きに取り組んでいる」とする回答が全体平均の倍近くに上り、社内勉強会や資格取得など、業務以外の学習にもより積極的に取り組んでいる様子が見て取れる。

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 大学で身につけた学ぶ姿勢が社会人になってからの学びの土台となり、それが「幸せな活躍」の原動力にもなっていると考えられる。
 これらのことをふまえ、大学が学生に対し、正課教育が資質・能力の形成や将来的な活躍につながることをあらためて理解させるよう提案したい。就職活動も視野に入れた「資質・能力の向上」というと、学生はとかくアルバイトやインターンシップばかりに注力しがちだが、正課教育が自身の成長や活躍に直結していることを具体的なデータで示されれば、「大学で学ぶ意味」を再確認できるのではないか。この調査結果に限らず、各大学には独自の調査等に基づく「自学の教育が卒業後も役立っていること」を示す定量・定性データが存在するはずだ。それを学生にわかりやすい形で開示すれば、「学びの意味づけ」が容易で「能動的な学び方」、さらには主体性の涵養にもつながるだろう。 

●オンライン授業の効果的な活用の検討を

 コロナ禍によって大学の授業の在り方や学生の学びは、大きく変化している。学生側の変化は、全体的な傾向ではなく、「主体的な学生(主体的な学び方)」と「受動的な学生(受動的な学び方)」がそれぞれその傾向を強くしながら、学内や個人の中で共存している状況だ。それに対応するためには、学生個々の状況を把握し、学ぶ意味を明確にさせて主体的な学びを促すような、個に応じた授業設計が求められる。
 その際に留意すべき点を「第4回 大学生の学習・生活実態調査」から確認しておこう。図8は現在(2021年時点)と理想の授業形態の割合を聞いた結果だが、「理想」で最多の回答は「対面授業とオンライン授業が半分ずつくらい」だ。

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 個に応じた授業設計においては、すべてを対面授業に戻すことを前提とするのではなく、コロナ禍を通してメリット・デメリットが見極められつつあるオンライン授業をうまく活用する方が、学生に受け入れられやすそうだ。大学において「どのような学修指導を行うか」を検討する際には、教える内容や学生個々の特性も考慮し、対面・オンラインをどう組み合わせるのが最も効果的かという観点が必要な時代になったと言える 。

村山和生(むらやま・かずお)
ベネッセコーポレーションにて、ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室シニアコンサルタント、『VIEW21大学版(現在は『Between』に統合)』編集長、一般財団法人大学IR総研副事務局長(兼務)などを歴任。2021年からベネッセ文教総研の主任研究員として、高等教育領域を中心に「学修成果の可視化」「IR」等について調査、研究、および情報発信している。

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