2022.0516

四国の5国立大学が科目を共有し合う連携教職課程開設へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●「教学上の特例措置」が適用される連携推進法人に認定
●「美術」「家庭」の専門性の高い教員を育て、不足する「情報」の教員も供給
●多様なニーズに応える幅広い学びで全国から教員志望者を集める

四国の国立5大学は、2023年度の「美術」「家庭」「情報」3教科の連携教職課程設置に向けて課程認定を申請中だ。科目を共有し合うことによって、自学単独では難しい幅広い学びを学生に提供する。相互補完にとどまらず、新たな価値を生み出す連携でエリア全域の教員養成機能を高め、全国から教員志望者を集めたいと意気込む。人口減少期における教員養成モデルとして注目される「四国地域大学ネットワーク機構」の取り組みについて、同機構の代表理事を務める佐古秀一・鳴門教育大学学長に聞いた。


●県境を越えた地域ブロック全域での連携推進法人認定

 四国の国立大学全5校(徳島大学、鳴門教育大学、香川大学、愛媛大学、高知大学)が2021年3月に設立した一般社団法人「四国地域大学ネットワーク機構(以下、「四国地域大学機構」)は2022年3月、文部科学省から「大学等連携推進法人」(以下、「連携推進法人」)の認定を受けた。

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 徳島県では、国立大学における教員養成は主に鳴門教育大学が担うため徳島大学には教育学部がないが、総合科学部や理工学部などに教職課程を設置している。一方、香川、愛媛、高知の3大学には教育学部がある。こうしたバックグラウンドの下、四国地域大学機構は教員養成においてそれぞれの強みを持ち寄る形で連携のメリットを創出し、「教員養成は四国から」と言われるエリアの強みを打ち出したい考えだ。
 連携推進法人は2021年に創設された制度で、この法人に認定されると大学設置基準上の規制を緩和する「教学上の特例措置」が適用される。設置形態にかかわらず複数の大学が参加して法人を創設。互いのリソースを共有することによって教育・研究の特色化や運営の効率化を図る。四国地域大学機構は、2021年度に山梨大学と山梨県立大学が設立した「大学アライアンスやまなし」に続く連携推進法人で、都道府県を越えた地域ブロック全域での認定としては初のケースとなる。

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他大学の開設科目を「自ら開設」とみなす連携法人制度、スタートへ(「Between情報サイト」記事)
大学アライアンスやまなし(『Between』記事)

●実技系の教員養成はどの大学もぎりぎりの体制で運営

 四国地域大学機構は連携推進法人に対する「教学上の特例措置」を活用し、2023年度から「美術(中・高一種)」「家庭(中・高一種)」「情報(高一種)」の3教科の連携教職課程を開設する。他大学が開設する教職科目を、自学の科目と同様に卒業要件の単位として認定できる。教科ごとに、以下の通り連携の組み合わせが異なる。

〇美術(中・高1種) 徳島大学、鳴門教育大学、香川大学
〇家庭(中・高1種) 鳴門教育大学、香川大学、高知大学
〇情報(高1種) 鳴門教育大学、香川大学、愛媛大学、高知大学

 「美術」と「家庭」における連携は、履修の選択肢を広げて専門性を深めることがねらい。「情報」における連携では、高校での「情報」必修化によって喫緊の課題となっている教員の養成に取り組む。
 まず、「美術」と「家庭」について説明しよう。一般的に、教員養成系学部でこれら実技系のコースを選ぶ学生は少なく、例年5人前後の大学がほとんどだという。そのため、これらの教科では、配置する教員も少なめで、教えられる分野には自ずと限界が生じる。
 「美術」を例にとると、鳴門教育大学でも「美術(高校)」の教科専門担当教員は3人のみ。それぞれの専門分野が例えば「絵画」「デザイン」「美術理論」だった場合、彫刻を学びたいという学生のニーズに十分応えるのは難しい。しかし、連携教職課程であれば、彫刻を専門とする他大学の教員の授業を受けられ、自学の単位として認定される。別の大学の映像関係の授業を受けることも可能だ。一般的な教育学部の美術コースに比べて学びの幅が広がり、美術教員としての専門性を深められる。
 このように、連携教職課程は科目の共有による幅広い学びをねらいとするため、規制緩和の一方で、学生は連携先の科目を計8単位以上履修しなければいけないという「縛り」もある。

高校現場に「情報」の教員を数多く供給

 次に、「情報」について説明する。現在、5大学のうち、教育学部で「情報」の免許を出しているのは鳴門教育大学のみ。工学系等の学部で免許を出す大学もあるが、教員としての知識や能力を十分に担保するため、教育学部で「情報」の教員を養成する意義は大きい。そこで、連携によって、他の3大学でも教育学部に「情報」の教員養成課程を設けることにした。
 「美術」「家庭」と異なり、「情報」を専門とするコースを設けるのではなく、他教科の中学1種免許のオプションとして「情報」の免許も取得させる。自学のみで「情報」の教職課程を完結できている鳴門教育大学も、地域ブロック全体での教員養成機能の強化の観点から連携に加わった。
 このように、連携教職課程によって、5大学それぞれがより質の高い「美術」と「家庭」の教員を育てること、高校現場に「情報」の教員を数多く供給することに取り組む。 

●「2040年、四国の国立大学の定員充足率70%」の推計に危機感

 5大学はもともと連携に積極的だった。文科省の支援を受けた「四国5大学連携による知のプラットフォーム形成事業」で、2012 年度から「四国地区国立大学アドミッションセンター」を設置し、AO入試の共同実施などに取り組んだ。2018年からは単位互換による教職大学院間の連携もスタート。2019年には、鳴門教育大学・香川大学・愛媛大学が自県の教育委員会と共同で実施する教職研修で連携し合う「四国地域教職アライアンスセンター」を開設。複数大学が連携する広域センターは全国初だという。
 こうした連携を重ねる中、数年前、ある大学での美術の教員の退職をきっかけに「教職科目を共有できたらお互いにメリットが大きい」という話が出た。鳴門教育大学の佐古学長は「本学がそのことを考える背景には、四国の人口が2010年からの30年間で102万人(26%)減少し、四国の国立大学の定員充足率が70%まで落ち込むという国の推計に対する強い危機感があった。恐らく、他の大学も同様のことが念頭にあったのでは」と振り返る。
 「教員養成分野は少子化の影響を特に強く受ける。大学が強みを持ち寄って地域全体で魅力を高めないと、共倒れになりかねない」(佐古学長)という危機感から、連携の道を探った。教員養成における連携としては、宇都宮大学と群馬大学のように共同教育学部をつくるという選択肢もあった。しかし、四国の5大学は、それぞれ独自のポリシーの下で独立した教育学部として存続させ、単独で教員免許を出す体制を維持したいと考えた。それを実現するための制度を文科省に要望したことが、連携教職課程制度創設の後押しとなった。

●連携を生かし特色ある授業科目を新設

 連携推進法人制度ができ、5大学は認定をめざして四国地域大学機構を設立。連携教職課程の実現に向けて、それぞれの学内調整を進めた。
 ハードルの一つが大学間の物理的距離だ。「情報」はオンデマンド型を含むオンライン授業で多くの科目をカバーできる見通しだが、「美術」と「家庭」は対面でなければ指導が難しい科目も多い。教員には、連携先の大学に出向いて授業をする負担を受け入れてもらう必要がある。陶芸のように大掛かりな施設を使う科目では学生の方が移動する。佐古学長は「他大学の教員や学生とリアルに交流する授業は成長を促す貴重な機会なので、大事にしたい。一方、ICTの活用に積極的な美術の教員もいるので、いずれは先進的な教授法が導入されるだろう」と期待を寄せる。
 鳴門教育大学の場合、必ずしも他大学との連携に積極的な教員ばかりではなかったようだ。「自前で良い授業を提供できるのに、なぜ学生にわざわざ他大学の授業を受けさせる必要があるのか」という声も出た。他大学でも、同様の意見があった。
 当時、副学長だった佐古学長らは「学生の選択肢を広げ、より質の高い教員を育てるために必要な連携だ」と粘り強く説明。一旦、理解と共感が得られると、教員からはむしろ意欲的な提案がなされた。美術コースでは各大学の既存の科目を提供し合うだけではなく、連携して特色ある科目を新設することに。高校生の間でも知名度が高いアーティストを講師に招き、最先端の表現を教える「先端芸術表現理論」などが構想されている。

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●他の教科での連携教職課程開設は未定

 四国地域大学機構は、全国の高校生に「教員をめざすなら四国の大学へ」とアピールしていきたい考えだ。「今後、少子化が進めば、地元のどの大学でも美術や家庭科の教員免許が取れない県が出てくるだろう。四国の大学ならさまざまな教科の教員免許が取れ、多彩な科目、他にはない特色ある科目で専門性を深められる。その強みを生かして、首都圏や関西を含む全国から教員志望者を集めて『教員養成は四国から』と言われるようにしたい」(佐古学長)。
 連携教職課程を他の教科に拡大する考えがあるか聞くと、「今の時点で特に話は出ていない。個人的には、3教科で実施してメリットの大きさを実感できたら広げてもいいと思う」と話す。
 一般的に大学間連携は、運営の効率化策としても期待されるが、四国地域大学機構は学びの幅を広げることを共通の目的とし、連携を効率化につなげるかどうかは各大学の判断に任されている。
 今回紹介したのは国立大学の事例だが、選択と集中のための連携が不可避とされる地方大学、少子化に対応する新たな体制構築が求められる教員養成系学部など、設置形態に関係なく、さまざまな課題に対して示唆を与える取り組みと言えそうだ。