2022.0404

ガバナンス改革の有識者会議が報告書―評議員会の一部権限を強化

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3行でわかるこの記事のポイント

●2021年末の「学校法人ガバナンス改革会議」の案を大幅に修正
●評議員会に重要事項の決議権と理事の解任請求権を付与
●理事と評議員の兼務禁止については「改革会議」の方針を維持

学校法人のガバナンス改革について検討していた文部科学省の有識者会議が、このほど報告書をまとめた。理事会に権限が集中している現状を改善するため、理事の解任請求権など、評議員会の権限を一定程度、強化することが柱。2021年12月に別の有識者会議が打ち出した「評議員会を最高監督・議決機関に」という案は大幅に修正された。文部科学省は報告書を基に私立学校法の改正案をまとめ、今国会への提出をめざす。
*報告書はこちら
学校法人の評議員会を学外者のみにし、決定権を付与-有識者会議が提案(2021年11月25日Between情報サイト)


●各私学団体の代表が学校法人の視点から議論

 学校法人のガバナンスのあり方については、弁護士や公認会計士、企業のガバナンスに詳しい大学教員らで構成する「学校法人ガバナンス改革会議」(座長:日本公認会計士協会相談役・増田宏一氏、以下「改革会議」)が、評議員会の権限を大幅に強化して「最高監督・議決機関」にするという改革案を2021年12月にまとめた。
 これに対し、大学関係者が「現場に大きな混乱を招く」と強く反発。翌1月、大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の下に「学校法人制度改革特別委員会」(主査:福原紀彦中央大学前学長、以下「特別委」)が設置され、再度、議論し直すという異例の経過をたどった。特別委には幼稚園から大学までの各私学団体の代表が参加。改革会議が示した案を参考にしながらも、学校法人の視点から独自の見直し案をまとめるという前提で議論を重ねた。

●中期計画を評議員会の決議事項にすることは見送り

 特別委の報告書では「理事会は意思決定機関で評議員会は諮問機関」という従来の役割分担を維持する方針を打ち出した。ただし、大学を運営する法人については、合併・解散など、法人の存続に関わる重要事項の決定には評議員会の決議が必要とした。中期計画もその対象にすべきとの意見が出され、議論を続けたが、今回の法改正に盛り込むことは見送られた。
 特別委では、重要事項について評議員会と理事会の意見が分かれた時の対応についても話し合われた。「理事会の決定を優先させるべき」との声も出たが、理事会の優位性を認めることになる提案には賛同が集まらなかった。結局、報告書では「両者の決議をもって学校法人の意思決定とする」とされ、話し合いによって結論を出すなどの解決法を寄附行為で定めることになった。

●教職員による評議員兼務は定数に上限を設けたうえで認める

 議題の柱となった評議員の選任についても、改革会議の案から大きな軌道修正が図られた。改革会議が理事会による評議員の選任を認めないとしたのに対し、今回の報告書では、評議員会を選任機関として明確に規定したうえで、一定の上限を設けて理事会による選任も認めることにした。
 理事による評議員兼務については、改革会議の案と同様、禁止とした。加盟校に小規模校が多い日本私立大学協会や日本私立短期大学協会は「地方や小規模の法人では理事や評議員のなり手が限られ、兼務でないと定数を確保できない」と主張し、兼職禁止に反対。これについては、評議員の定数の下限引き下げによって人材確保の負担が軽減されるとの考え方で決着した。
 「理事を兼ねる評議員がいなくなることによって、評議員会で法人の運営に関わる議題について審議するのが難しくなる」という意見に対しては、「理事がオブザーバーとして評議員会に出席し、必要な説明をすれば問題はない」とされた。
 改革会議は教職員による評議員の兼務も禁止し、評議員会から学内関係者を排除する方針を打ち出したが、特別委は、定数に上限を設けたうえで教職員も評議員になれることにした。理事の近親者や卒業生についても、属性に応じた上限割合を設けることになった。

●理事解任請求が放置された場合は評議員会による訴訟も可能に

 改革会議の案では理事の選任・解任の権限は評議員会が持つとされたが、特別委は評議員会等を選任機関として寄附行為で明確にしたうえで、評議員会による意見聴取を条件に評議員会以外による選任も可能にした。ガバナンス強化のため、外部理事の数を現在の1人以上から引き上げることも報告書に盛り込まれた。
 一方、理事の解任についても、理事会の暴走を抑えるための案が示された。その一つが、客観的な解任事由を法律で規定することだ。評議員会の権限を強化すべく、法令違反など、問題のある理事について評議員会が理事会などに解任請求し、それが放置された場合には評議員会が訴訟を起こせるようにする。
 特別委の報告では多くの項目が改革会議の案より緩やかになる一方、改革会議案になかったものも盛り込まれた。理事による特別背任罪や贈収賄罪に関する規定の新設だ。

「多くを寄附行為で定めている現状は社会の理解を得られない」

 現在、各法人の寄附行為に委ねられている理事の選任・解任や評議員の決議事項を法律で規定することについて、私学団体からは「現行通り、寄附行為で定めるやり方で問題ない」との異論も多く出た。
 これに対し、公認会計士や弁護士等の委員からは「私学法には『寄附行為の定めるところにより』というマジックワードが多すぎ、そのことが一部の人への権限集中を許している」「多額の税金が投入されている大学に対する社会の理解を得るためには、役員人事等について法律で明確に定めることは、もはや避けて通れない」との指摘が相次いだ。
 特別委では、今回の報告に基づく法改正を「ハードロー」と表現。法整備に加えて、ガバナンス・コードの見直しをはじめとする「ソフトロー」による大学の自主的なガバナンス改革の必要性も指摘した。
 文科省の担当者は今国会への法案提出をめざしているが、施行時期の目途については「法案の具体的内容と合わせて検討中」としている。
 今回の制度改正は学校法人の運営のあり方を抜本的に変える、これまでにない大きなものとなる。各法人は「各機関の『建設的な協働と相互けん制』という実効性あるガバナンス構造を確立することによって、社会の信頼を得る」という制度改正の趣旨をふまえ、対応に向けた具体的な検討を速やかに開始する必要がある。