2021.1125

学校法人の評議員会を学外者のみにし、決定権を付与-有識者会議が提案

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3行でわかるこの記事のポイント

●「最高監督・議決機関」として理事の選任・解任の権限も
●理事による評議員の兼務は禁止
●私大は猛反発、制度改正の着地点は不透明

私立大学のガバナンス改革について検討している文部科学省の有識者会議の提案内容が、大学関係者の間で波紋を呼んでいる。運営に関する決定権を理事会から評議員会に移し、理事ら大学関係者は評議員との兼務を認めないという内容だ。私大団体が反対の意見書を出すなど反発を強める一方、文科省内にも提案に対して慎重な見方があり、実際の制度改正の着地点は不透明な情勢だ。


●社会福祉法人や財団法人、株主総会などをモデルに検討

 文部科学省の「学校法人ガバナンス改革会議」(座長:日本公認会計士協会・増田宏一相談役)は、2021年6月に閣議決定された「骨太の方針」で、学校法人について「抜本的なガバナンス改革」が求められたのを受け、設置された。年内に結論を出すことになっていて、文科省は次年度の通常国会に私立学校法の改正案を提出する方向だ。
 11月19日、10回目の会合で示された「報告書骨子案」では、評議員会を「最高監督・議決機関」とし、現役の理事や教職員は評議員になることを認めないとされた。現行制度の下では理事会の諮問機関である評議員会に決定権を移し、理事を選任・解任する権限を付与。理事による評議員兼務の禁止をはじめ、評議員会には学内関係者を加えない。理事会の運営をけん制し、健全化するための権限を評議員会に集中させるという考え方だ。
 こうしたガバナンス改正を求める背景として骨子案では、「学校法人に関する不祥事事案が続発」と説明。公益法人としての税制優遇によって「国民から隠れた補助金を享受する学校法人」には、社会福祉法人や公益社団・財団法人をモデルにした制度改革が必要との考えを示している。有識者会議は弁護士や公認会計士、企業のガバナンスに詳しい大学教員らで構成され、株主総会を参考にした評議員会見直しの意見も出ている。

●「寄附行為」は「定款」に名称変更

 理事会と評議員会の関係については、過去に設置された有識者会議でも「意見を求める側の理事が、意見を述べる評議員を兼務するのは社会一般の常識から見てもおかしい」といった指摘が出ていたが、抜本的な見直しには至らなかった。これまでは、理事会のけん制役として監事の権限強化が図られてきたが、現状で十分な効果が出ていないとみなされ、評議員制度に手をつけることになった。
 骨子案では、評議員会の議決を要する事項として「理事、監事、会計監査人の選任・解任」「中期計画」「事業計画」「予算・決算」などを例示。理事会・理事による評議員の選任・解任を認めず、評議員を選ぶ委員会を設置して選定理由とプロセスを公開するよう求めている。理事や教職員はその職を離れて5年以上たたないと評議員になれない。評議員の任期については、理事の監督という役割をふまえて「理事の任期よりも長いもの(倍以上)とする」案が示された。
 学校法人の規則を定めた「寄附行為」という名称は「一般の人から見てわかりにくい」との理由で、企業等と同じ「定款」に変更することも提案されている。

●私大連は「学外者の一定割合以上確保」のルール化を提案

 日本私立大学連盟は10月、「学校法人ガバナンス改革会議」の検討内容に反対する意見書を出した。学外者だけで構成する評議員会が教育・研究に関わる経営判断を下すことは困難であり、結果的に教育・研究の質の低下を招く可能性があると指摘。「学外者を一定割合以上確保する」「割合について一律の規定はしない」との対案を示した。
 さらに、評議員会への権限の集中によって迅速な意思決定ができなくなるとの懸念を示し、評議員会の議決事項は一律に規定せず、各学校法人の自律性に委ねるべきだとしている。
 今回の改革案については文科省内からも「そのまま制度に落とし込んだ場合に現場で受け入れられ、十分に機能するか、真の大学改革につながるのか、慎重に検討する必要がある」との声が聞かれる。評議員制度の見直し以外に選択肢はなく、理事との兼務禁止は必要との点では有識者会議と一致しているが、学内関係者を排除し、権限を集中させることについては、私立大学の運営の多様性、自律性の観点から懐疑的な見方がある。
 同省は12月3日の最終会合で報告書の提出を受けた後、パブリックコメント等を通して大学関係者の意見を聞くことにしている。