2022.0314

青山学院大学がキャリアデザインも支援する女性向けITリカレント教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●文科省の委託事業として3カ月間実施、27人が修了
●オンライン動画学習サービスも活用し、希望職種ごとに個別最適化
●キャリアコンサルタントによる継続的な面談を実施

青山学院大学社会情報学部は2021年10月から3カ月間、女性対象のITリカレント教育プログラム「ADPISA-F」を開講した。IT業界への就職・転職支援というねらいの下、オンライン授業を中心に設計。ライフイベントを想定したキャリアデザインの支援も特色の一つで、修了時には受講者の9割が「他の人に勧めたい」と評価した。ADPISA-Fの概要、2年目のリカレントプログラム構築におけるブラッシュアップのポイントについて聞いた。


●ハローワークや自治体、企業等と連携

 青山学院大学社会情報学部の「ADPISA-F」は、文部科学省の2020年度補正予算による「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」(以下、「リカレント教育推進事業」)の採択プログラムだ。同事業は、コロナ禍の影響で失業したり不安定な雇用環境に置かれたりしている人の就職、転職を支援することがねらいで、採択された大学等に対してハローワークや自治体、企業等との連携を求めている。文科省の委託で開講されるため、テキスト代等のみの負担で受講できる。
 社会情報学部は2019年にIT分野の履修証明プログラム「ADPISA(Aoyama Development Program for Information System Architect=青山・情報システムアーキテクト育成プログラム)」を開設。その実績を土台に、IT分野未経験の女性が求人の多いこの分野で就職するためのより基礎的なプログラムとしてADPISA-Fを設計、リカレント教育推進事業では求職者支援のaコースで採択された。一方、性別を問わずIT関連業務経験者対象のプログラムとして、ADPISAを短期集中型にアレンジした「ADPISA2021」は職業実践力育成のbコースで採択されている。 

●「ソフト開発×女性のキャリア支援」のプロが設計に参加

 青山学院大学が今回の申請にあたって女性向けのプログラムを開発したのは、コロナ禍の下で女性の方がより不安定な就労環境を強いられているためだという。もう一つの背景として、青山学院の歴史が1874年の女子小学校創立から出発していることもある。

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 女性にターゲットを絞ったADPISA-Fは単なるIT知識の修得にとどまらず、出産、育児、介護などのライフイベントを想定した生涯にわたるキャリをアデザインし、自律的に学び続ける力を修得させることも重視している。そのため、女性のキャリア支援のプロである山口理栄氏をADPISA-Fプロジェクト教授として迎え、プログラムの設計段階から関わってもらった。ADPISA-Fのスーパーバイザーを務める同氏はメーカーでソフトウェア開発に携わり、2回の育児休業を経て部長職を務めた。現在は会社を設立し、「育休後コンサルタント®」として仕事と育児の両立の当事者や、その上司である管理職を対象に研修などを手がけている。
 プログラム内容を充実させ、品質を確保するため、社会情報学部のキャンパスがある地元・神奈川県や相模原市の雇用担当部局、IT関連企業や業界団体などを加えて事業実施委員会を設置、プログラム内容や就職支援について現場の視点から助言や評価を受けた。

●希望職種に合わせて教員が既存の学習動画コンテンツを編成

 ADPISA-Fは3カ月間、平日の朝から夕方まで全250時間の授業を受けるプログラムだ。
①キャリアデザインのための「女性向けライフデザイン科目群」(必修:18時間)
②ITの面白さに触れる「IT実践力強化科目群」(必修:50時間)
③ITの基礎的な知識とスキルを修得する「IT基礎科目群」(必修:91時間)
④希望職種に関連する知識とスキルを修得する「IT職種対応科目群」(選択必修:91時間)
の4つの科目群で構成される。

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 ①は授業に加え、3人のキャリアコンサルタントが受講者を10人ずつ担当し、3回の面談を通してキャリアデザインや就職についてアドバイスする。
 ②は自分でプログラミングした模様をミシンに設定して刺繍するなど、楽しく学びながらITに対する心理的なハードルを下げる内容だ。
 ③はネットワーク、データベース、プログラミングなど、IT職種に必須の知識・スキルを扱い、最新の業界トレンドも解説。授業はITに関する社員研修を専門とする企業に委託した。
 ④はオンライン動画学習サービス「Udemy Business」を活用。ウェブデザイナー、プログラマ、システムエンジニア、クラウドサーバー管理者の中から受講者に希望する職種を選んでもらい、個別のニーズもふまえ、コンテンツを組み合わせて教員が一人ひとりに最適な受講プログラムを作った。

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 「IT基礎科目群」「IT職種対応科目群」の授業で企業と連携する時も、ADPISA-Fのねらいに合致するよう企業からの提案内容に教員が細かな修正を加えるなど、一貫して大学側が主導した。職種のミスマッチを防ぐため、「IT基礎科目群」の授業がすべて完了した段階で複数の業界関係者を招いて話を聞き、受講者に理解を深めてもらった。

●オンデマンドの動画をリアルタイムで一斉視聴

 授業の大部分はオンラインで実施された。10月から1月までの開講期間はコロナの感染状況が比較的落ち着いていたため、「IT実践力強化科目群」の2科目計44時間は当初の予定通り対面授業で実施。それ以外のすべての科目はZoomによるリアルタイムでのオンライン授業だったが、これも当初に決めた通りだった。
 「IT職種対応科目群」で活用したUdemyはオンデマンド型のプログラムだが、ADPISA-Fでは全員がオンライン上で集合し、受講生ごとに指定されたコンテンツを一斉に視聴する方式にした。これは、従来型の講義形式が想定されている厚生労働省の職業訓練受講給付金対象プログラムの認定を受けるための「苦肉の策」(山口教授)だったという。
 しかし、受講者からは意外にもこの手法が歓迎された。「『自分の都合に合わせて自由に受ける仕組みだったら、最後まで挫折せず受講できたかわからない』という声が結構多かった」と山口教授。一斉受講の時間内は企業対象のIT研修を専門とする教員がZoom上で待機し、その場で個別の質問に答える体制にしたことも、リアルタイム型に対するポジティブな評価につながったようだ。

●受講者募集にSNSをフル活用 

 2021年8月の受講者募集時には、大学のウェブサイトでの告知はもちろん、GoogleやFacebookにバナー広告を出し、Zoomで開催した説明会の動画をYouTubeで発信するなど、SNSをフル活用した。
 30人の定員に対し142人が応募。職務経歴書と志望理由書に基づいて受講の必要度や学ぶ力を確認して選考した。その後、辞退者が出たため最終的な受講者は27人となり、無職が17人でフリーランスや非正規雇用が数人ずついた。年代別では30代が最多の11人で40代、50代と続く。対面授業があることを予告したうえで福島県、岡山県からも受講者を受け入れた。
 修了時のアンケートではプログラムについて「大変役立つ」が8割、「他の人に勧めたい」は9割と高評価を得た。
 受講者は3月末までUdemyを自由に視聴できるため、多くがIT関連の資格取得をめざして勉強を続けているという。この間に2人がITパスポート、1人がAWSクラウドプラクティショナーの検定に合格。これと並行して大学側が協力企業と連携して開く就職説明会に参加し、就職活動をしている。

●2年目の募集では学内のリカレント教育体制整備が求められる

 文科省は2021年度補正予算でも、対象分野をある程度明確にした「DX等成長分野における就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」を実施、3月中に募集を始める予定だ。青山学院大学は今回も申請する予定で、対象を女性に限定するか否かを含めて検討を進めている。ADPISA-Fの総括をふまえ、見直すべきポイントは明確になっている。
 その一つがハイブリッド型での実施。対面授業を実施する場合もオンラインでの参加が可能になるよう設計し、対面授業に参加できなくなった受講者に柔軟に対応できるようにする予定だ。
 2年目のリカレント教育推進事業では、そのプログラムで取得できる資格やITスキル標準(ITSS)等、客観的なレベルを示すよう求められている。これを念頭に、資格取得支援をさらに強化する。山口教授は「リスキルやキャリアチェンジでIT分野に入ってくる人を企業が採用する時は、資格でレベル感を把握することがわかった。Udemyを積極的に活用してそこに対応したい」と話す。
 学内にリカレント教育の専任部署を作り、体制を整備することもリカレント教育推進事業の新たな要請だ。「今回は受講料を徴収してもいいとされており、リカレント教育を大学の事業として独り立ちさせてほしいという文科省の意図がうかがえる。社会人は置かれている状況やニーズが多様で、そこにきめ細かく対応していくのは容易ではない。それでも大学の新たなミッションであるリカレント教育にしっかり向き合い、ブラッシュアップしていきたい」(山口教授)。


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