2021.0707

ベネッセ入試結果調査③総合型選抜の志願者数は国公立、私立とも増加

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3行でわかるこの記事のポイント

●国立21校、公立57校で学校推薦型・総合型の募集人員が3割超え
●私立の学校推薦型は志願者数減の一方で合格者数は前年並み
●次年度以降は探究学習評価型の総合型選抜の設計などがカギに

ベネッセコーポレーションは全国の大学と高校の協力の下、2021年度入試の結果をまとめた。そのデータに基づいて入試を振り返る3回シリーズの最後は、年内入試の動向を取り上げる。さらに、次年度以降の一般選抜、年内入試で学生を安定的に確保するための課題について考える。

*各データは、特にことわりがない限りベネッセの調査によるもので、大学の公表数値を基にしたデータは5月中旬までに収集・確認できた情報を反映している。
*各データはベネッセの分類・集計によるもので、各大学が公表している数値とは異なる場合がある。

ベネッセ入試結果調査①18歳人口と既卒生の減少で競争緩和に向かう
ベネッセ入試結果調査②私大合格者数は4年間で最多となり総じて易化


●2020年度入試での年内入試入学者比率は国公立20%、私立57%

 入試改革に伴い年内入試では、従来以上に早期の実施を抑制するスケジュールになり、合格発表については学校推薦型選抜が11月1日以降、総合型選抜は12月1日以降と決められた。これにより、年内入試で不合格になった場合に一般選抜の受験準備に切り替えるのは難しくなった。
 また、2021年度入試では新型コロナウイルス感染拡大の影響で各種の大会や検定が中止や延期になったり、総合型選抜の出願が本来のスケジュールより2週間遅くなったりと、入試改革初年度から大学も受験生もイレギュラー対応を迫られた。
 学校推薦型選抜・総合型選抜等による入学者の割合を全体の3割程度にするという国立大学協会の方針の下、国立大学では一般選抜の募集人員を総合型選抜等に移す動きが進んでいる。公立大学でも同様の傾向がある。国公立大学全体で見ると2017年度頃から学校推薦型選抜・総合型選抜による入学者が急増し、2020年度は全入学者の19.8%を占めた。

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 2021年度入試では、国立大学21校、公立大学57校でこれらの入試方式の募集人員が30%を超えた。募集人員が多い国公立大学は下表の通り。最も多い東北大学では筆記試験か大学入学共通テストを必須とする学力型総合型選抜の拡大が続いている。

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 私立大学の学校推薦型選抜・総合型選抜による入学者比率の拡大は2008年度から2016年度まで落ち着きをみせていたが、2017年度入試から再び増加し、2020年度は約57%だった。

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●共通テスト受験が必須の指定校推薦も 

 下のグラフでは国公立大学と私立大学それぞれの学校推薦型選抜、総合型選抜の志願者数等の推移について、2019年度を100とした指数で示している。
 2021年度、国公立大学の学校推薦型選抜は募集人員、合格者数とも対前年指数99で前年並みだった一方、志願者数は指数95と減少。総合型選抜は募集人員、志願者数、合格者数のいずれも増加した。
 私立大学では学校推薦型選抜を総合型選抜に変更する大学が多く、前者の募集人員、志願者数が減少。一方で合格者数は対前年指数100で前年並みとなった。総合型選抜は募集人員、志願者数、合格者数のいずれも大きく増加。私立大学の学校推薦型選抜と総合型選抜を合算すると、志願者数が前年並みだったのに対して合格者数は指数116と大きく増加している。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって入試状況が見通せない中、各大学は年内入試で早めに入学者を確保しようと考えたことがうかがえる。

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 2022年度入試では、龍谷大学が指定校推薦で大学入学共通テストの受験を必須にする。「入学までの学習継続と入学準備の一環」であり、共通テストの成績は合否に影響しないと説明している。今後、同様の動きが広がることも考えられる。

●次年度も出願件数は元の水準に戻らない?

 進研アド・データサービス開発部の仁科佑一グループリーダーは、2021年度入試の注目ポイントとして「私立大学の一般選抜易化」と「年内入試の比重拡大」を挙げる。
 私立大学の一般選抜の実質倍率は前年度の3.4倍から2.8倍に低下。合格者平均偏差値が低下し、各偏差値帯で合格率が上昇している。この傾向は難関大学や大規模大学でも見られる。仁科リーダーは「次年度入試では実志願者数はやや回復するかもしれないが、総出願件数が大きく増えることはないのでは」と予想する。「入試難易度が上昇していた時には1大学への複数出願がリスクヘッジになったが、易化した状況では出願校数は増やしたとしても、学内併願はメリットが薄く合理的な受験戦略とは言えない。従って総出願件数は元の水準に戻らないと見ている。大学にとっては、延べ志願者数の増加をめざすこと以上に、併願校の一つとして確実に選ばれる(推奨される)ための情報提供が必要だ」と指摘する。
 一方、私立大学の年内入試については、国公立大学との競争も激化する中で入学者確保を考える必要がある。仁科リーダーは「年内入試を『安易な選択』として生徒に勧めたがらない高校教員も多い中、探究学習の成果を評価する総合型選抜で高校の教育改革に応える、入学前教育実施で育成重視の姿勢を示す、入学後の成長について高校に情報提供するなど、高校教員との信頼関係構築がますます重要になる」と話す。