全国学生調査の第2回試行-2年生と4年生を対象にコロナの影響も把握
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2021.0309
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3行でわかるこの記事のポイント
●参加希望の大学・短大で実施、改善のため希望しない理由も確認
●各大学の判断で自主的に結果を公表し、アピールすることも可能
●全大学対象の本格実施では大学ごとの結果に加え、取り組み内容も公表
文部科学省による「全国学生調査」の第2回試行実施の概要が固まりつつある。初回との違いは「短大の参加」「対象学年が3年生から2年生と最終学年に」「英語表記を加える」「各大学の自主的な結果公表を認める」など。新型コロナウィルス感染拡大による影響や課題について把握するための設問も今後、追加される。
*有識者会議の資料はこちら
*全国学生調査の有識者会議-「独自調査とのセットで教育改善が可能に」
*文科省の学生調査―「外国語力修得に大学教育が役立っている」は30%
全国学生調査は2019年度に初の試行実施がなされた。翌年に予定されていた2回目の試行実施は新型コロナウィルス感染拡大をふまえて見送られ、2021年度に延期された。この間、「全国学生調査に関する有識者会議」(座長:河田悌一・大学資産共同運用機構理事長)が、今後の試行実施とその後の本格実施について検討。このほど、第2回試行調査の実施概要と質問項目の案をまとめた。
第2回試行調査は2021年11月から1か月間、短大も新たな対象に加えてウェブ上で実施。夏頃に文科省が行う事前確認で参加の意向を示した大学・短大が対象となる。参加を希望しない大学にはその理由を聞いて課題を明らかにし、本格実施には全大学が参加できるよう改善を図る考えだ。
前回の調査対象は3年生だったが、「教育成果を把握するなら最終学年で実施すべき」との意見が多かったことをふまえ、今回は2年生と最終学年(短大は最終学年のみ)を対象にする。今回は、外国人留学生からも多くの回答が得られるよう英語による調査も加える。
前回は選択式36問と自由記述2問だったが、10分以内に回答できる数を念頭に、選択式を50問程度に増やす。コロナ禍を受けて学生の状況がどう変化し、大学にどのような対応を求めているか把握できるよう、実施までに具体的な質問項目を検討することになっている。
今回も匿名で答えてもらう方式にした。回答者の属性ごとに分析しなければ改善にはつなげられないとの意見も多く出たが、文科省による個人の情報の収集には問題があること、前回、「個人を特定されないため回答しやすかった」との声があり自由記述で多くの回答が得られたことなどから、記名方式は見送った。匿名であっても調査の継続的実施によって学部単位での経年比較などができるため、改善のための活用は可能だと判断した。
文科省は大学・学部単位の結果の公表は行わず、全体集計に加え、回答数等が一定の基準に達した学部について設置者別、学部規模別、学部分野別などの集計結果を公表する。参加大学には回答を一覧化したものと学部ごとの集計結果を提供し、各大学が自学の判断でそれを公表することも認める。自学の特色や強みのアピールに活用する大学も出てきそうだ。
有識者会議は今後、試行調査を何回実施し、いつから本格実施に移行するかは明示していない。本格実施で調査対象とする学年や集計対象とする基準などは試行調査の結果をふまえて今後、検討される。本格実施では大学・学部単位で調査結果を公表する方針だが、数値の羅列にとどめず、結果の見方とあわせて各大学の取り組みを示すなど、ランキングではなく「各大学の強み・特色の発信につながるよう工夫する」としている。
各大学による独自調査も含む類似の調査に複数回答える学生の負担を軽減するため、本格実施に移行する段階で各大学や大学 IR コンソーシアム等の調査実施団体と調整を行い、既存の調査と質問項目を置き換えて実施してもらうことを検討するという。文科省の学生調査に大学独自の質問項目を設けられるようにすることについても、第3回の試行調査までに検討される。
質問項目については前回、回答者から「抽象的な質問が多い」「『役に立っていると思うか』という質問では答えにくい」といった意見が挙がったため、同じ趣旨の質問でもたずね方を含めて見直した。
第2回試行調査の質問項目案はこちら。
それぞれ4~5程度の選択肢から選ぶ「問1 大学に入ってから受けた授業等の内容」「問2 大学に入ってからの経験」「問3 大学教育を通じて身に付いた知識・能力」「問4 大学での学び全体を振り返ったときの実感・意識」「問5 授業期間中の平均的な生活時間」のほか、自由記述2問で構成。これに、コロナ禍に関連した質問が追加される。
問1には今回新たに「学ぶ意欲がわく授業内容だったか」「予習・復習などの自主学習について授業やシラバスで指示があったか」などの質問を追加。問2では、前回と同じ「3か月以上の海外留学・海外研修」に加え、「3か月未満の海外留学・海外研修」の経験についても聞く。問4は新規の大問で、大学が掲げるディプロマ・ポリシーを理解しているかという趣旨の問いのほか、「大学での学びによって成長を実感しているか」「卒業後に社会で活躍(貢献)する具体的なイメージを持てているか」といったことをきく方向だ。問5では前回と同様、授業、授業外学習、サークル活動、アルバイト、スマートフォンの使用などに費やす時間が1週間でどれくらいか質問する。
初回の試行調査では公表データの集計対象とする基準について、学部単位で「有効回答者数が 30 以上かつ有効回答率が10%以上」または「有効回答率が 50%以上」としたところ、参加大学の約2割(95 大学)、参加学部の約3割(586 学部)が基準に達しなかった。今回はデータの代表性を確保できる基準として、対象学部・学年の学生数ごとに有効回答者数を区分し、「60人以上 80人未満なら有効回答者数30以上」「80人以上200人未満なら40人以上」「200人以上600人未満なら50人以上」「600人以上なら60人以上」、または「60人未満なら有効回答率50%以上」と設定している。これを初回の実施結果に適用すると、基準に達しない学部が44%(745 学部)に上るため、「回答率向上は必須」としている。
2月中旬に開かれた有識者会議の会合では、アメリカの学生調査に詳しい委員から「日本の学生は真面目なので、図書館で授業と関係のない本を読んだりラーニングコモンズでクラスメートと話し合ったりすることを学習だとは考えない。これが、授業外学習時間について海外の学生と差が出る一因になっている。この調査では設問に注記をつけるなどして、学生に『それらも学習なのだ』という気づきを促すものにすべきだ」と述べた。
その他、「回答率を上げるため、学生の意見が政策に反映されるというメッセージなど、回答するメリットを感じてもらえる発信をすべきだ」「回答する2年生には1年生の時の授業がオンライン中心だったという学生も多く、4年生の回答と比較することによってさまざまなことがわかるはずだ」といった声も。この調査で膨大なデータが得られることについて、「将来的には自学のデータだけでなく、比較分析のため、大学名を特定できない形で他大学のデータも提供を受けられるようにしてほしい」といった要望が出た。