文科省の学生調査―「外国語力修得に大学教育が役立っている」は30%
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2020.0728
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3行でわかるこの記事のポイント
●教育改善のための活用が調査の目的
●回答率などの基準を満たした420大学、10万2000人の回答を集計
●「授業で課題が出される」は90%超、「コメント付きで返される」は43%
文科省は先ごろ、初の「全国学生調査」の結果を発表した。学修者本位の教育への転換の基礎データとするために実施され、外国語運用能力や統計数理の知識・技能の修得における大学教育の役立ち感が相対的に低い結果となった。今回は試行調査で学部規模別、学部分野別等での発表となったが、2年後からの本調査では大学ごとの結果を発表する予定だ。
*図表は文科省の発表資料から
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文科省による学生調査の試行案―対象は3年次、学部単位で結果を公表
文科省の学生調査に515大学が参加、11月25日スタート
文科省による学生調査は、2018年11月に中央教育審議会がまとめた「グランドデザイン答申」の提言に基づいて実施された。学生の目線を通した学びの実態を把握・公表し、「社会に対して大学の教育力を可視化する」「大学が他大学との比較を通して教育改善を図る」「政策立案のためのデータを得る」ことなどがねらい。大学で受けた授業の状況、大学での経験とその有用さ、1週間の生活時間、知識や能力の修得に大学教育が役に立っているか等を聞いた。
初年度は試行調査として、参加を希望した515大学(全体の67.4%)の3年生約40万7000人を対象に2019年11~12月、インターネットで実施された。
学部単位で「有効回答者数が30以上かつ有効回答率10%以上」または「有効回答率50%以上」の基準を満たした420大学の結果を集計。有効回答者数は約10万2000人だった。大学規模(3年生または4年生の在籍者数)が大きいほど回答率が低くなる傾向が顕著で、250人未満の大学の回答率44%に対し1000人以上の大学は21%だった。
回答の中身を見ていく。
大学で受けた授業の状況について聞いた設問では、「グループワークやディスカッションの機会があった」「教員から意見を求められたり、質疑応答の機会があった」はいずれも「(よく+ある程度)あった」が71%で、一方通行の講義形式からの改善が進んでいる状況がうかがえる。
「小テストやレポートなどの課題が出された」は「(よく+ある程度)あった」が93%に上る一方で、「適切なコメントが付されて課題などが返却された」は43%と半分以下だった。調査結果が報告された7月中旬の中央教育審議会大学分科会では、委員から「低学年のうちに多くの課題を出してフィードバックしないと学修時間が増えず、自律的な学修者が育たない。言い過ぎかもしれないが、フィードバックしないくらいなら課題を出さない方がいい」という厳しい指摘が聞かれた。
大学での経験とその有用さについて聞いた設問では、「図書館やアクティブラーニングスペースを活用した学習」「研究室やゼミでの少人数教育」で「非常に有用+有用」がそれぞれ73%、69%と高かった。
「5日以上のインターンシップ」と「3か月以上の海外留学」は「経験していない」がそれぞれ70%、89%を占め、有用性の確認が難しい結果となった。
授業期間中の平均的な1週間の生活時間に関する設問では、「授業以外の学習」は平均4時間で「0時間」も20%に上った。他の項目の平均は「部活動・サークル活動」が3時間、「アルバイト・定職」が11時間、「学習以外でのスマートフォンの使用」が13 時間。「部活動・サークル活動」は「0時間」の学生も56%いた。アルバイトに追われる一方でスマホに費やす時間も長く、授業以外の勉強やサークル活動にあてる時間が削られている状況がうかがえる。
知識や能力の修得における大学教育の役立ち感に関する設問では、「専門分野に関する知識・理解」は「とても役に立っている+役に立っている」が87%と高かった。「幅広い知識、ものの見方」も83%に上る。対して「外国語を使う力」は30%、「統計数理の知識・技能」は45%で他の項目に比べて大学教育の役立ち感が低かった。文系・理系にかかわらずデータサイエンスのリテラシーが必要になるとされる中、大学はより活用度の高い知識や技能を修得させることが課題となる。
学生調査を数多く手がけてきた進研アド教育企画部の嶋はる美部長は、今回の調査について「全国の大学生の学習実態を把握できる貴重なデータだ」と評価。一方で、回答した学生から「抽象的な質問が多い」「『役に立っていると思いますか』という質問では回答しにくい」という指摘があり文科省が「今後、質問項目の改善・追加等を検討する」としていることについて、「役に立っているかどうかは大学教育の評価において重要な観点だが、回答者の答えやすさを考えると知りたいことをそのまま質問するのではなく、複数の質問を組み合わせることによって結論を導き出す形が望ましい。質問の数を一定程度に抑えつつ、全体をどう設計して質問文で表現するかが調査のポイントになる」と述べる。
今回の調査結果は設置者別、学部規模別、学部分野別等で集計して公表された。教育の改善に活用できるよう、参加大学にはその大学の学生の回答データが提供された。大学からは「教授会や教学委員会等で周知する」「FD・SD 研修会に反映する」「IR 部門で分析」といった活用方法が挙がっているという。
2020年度に予定されていた2回目の試行調査は、新型コロナウィルスの感染状況を受けて次年度に延期される。2022年度からは大学単位の結果の公表を視野に入れた本調査に移行する予定だ。