学生がインターンシップでデジタルを活用した大学教育プログラムを企画
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2021.0224
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3行でわかるこの記事のポイント
●ベネッセが学習プラットフォームを活用して完全オンラインで実施
●AI・DXの専門家がデザイン思考による企画の立て方を伝授
●オンデマンドの講座で知識やスキルを個々に獲得しながら課題に挑戦
ベネッセコーポレーションは2020年11月から約1か月間、大学の1、2年生を対象とするインターンシップを実施した。集合研修を含む全プログラムをオンラインで開講、参加者にはデジタル技術を活用した新しい大学教育プログラムの企画に取り組んでもらった。「完全オンラインの研修で学び、その特長を体感しながらデジタルを活用した教育プログラムを考える」というDX時代を先取りする内容となった。ベネッセは、学生の意欲を引き出すオンライン学習のノウハウを大学の教育支援にも積極的に還元していきたい考えだ。
ベネッセコーポレーションが1か月程度の期間、低学年向けにオンラインでインターンシップを実施するのは今回が初めて。「新時代に向けた『大学の学び』をプロデュースせよ~質の高い学びを全ての大学生に」というテーマの下、参加者はデジタル技術を活用し、大学教育の課題解決につなげる新たな教育プログラムの企画に取り組んだ。データを活用してチームでアイデアを形にするプロセスを通してDX時代の働き方や学び方、必要とされるスキルについて理解してもらおうというものだ。
集合研修はZoomで実施し、オンライン学習プラットフォーム「Udemy」のコンテンツも活用して全てオンラインで完結させた。コロナ禍の下でオンライン授業の試行錯誤を続け、質の維持・向上に苦心している大学に還元できる知見とノウハウを得ることもねらいの一つだ。
インターンシップにはグループディスカッションや面接を経て選ばれた59人が参加、そのうち約2割が理系の学生だった。
全4回の集合研修のうち、前半2回は講義によるインプットと、そこで学んだ知識やスキルを実践するグループワークとで構成。研修時間外の学習やミーティングも重ねながら課題に取り組んでもらい、集合研修3回目は企画概要について中間発表、4回目は開発したプロダクトを示しながら最終プレゼンという流れで進めた。
講義では、ベネッセの講師が自社で展開している高等教育関連事業やeラーニングの市場、就職市場などについて解説。課題に取り組んでもらうためのインプットとして、授業外学習時間を増やす必要性など、日本の高等教育の課題にも触れた。
メインの講師を務めたのは、Udemyの人気講師でAI等テクノロジー関連の講座を提供している箕輪旭氏。事前インプットとしてDXとデザイン思考に関するUdemyの2つの講座の視聴を課したうえでDX、デザイン思考による企画立案、事業構築の手法、プロダクトの開発について解説した。
同氏は、デジタル時代に必要なスキルとして「テクノロジーを使いこなす力」「イノベーションを発想する力」「イノベーションを形にする力」の3つを挙げた。今や、プログラミングのスキルがなくてもシステムを構築できるツールが多数登場していて、技術修得の重要性は低下していると指摘。ツールを使いこなして企画を立てる力、企画を具体化する力こそが必要だと話し、これらを修得することによって文系の学生もDX社会で活躍できることを伝えた。
箕輪氏はさらに、「イノベーションを発想する力」の要素として、新しいデータの活用法を考える「データドリブン」、ビジネスの持続可能性を高めるための「社会課題の解決」という発想、アイデアの発散と収束を繰り返して意外な結論を導く「デザイン思考」などの重要性にも触れた。
発案者が誰か伏せた状態で、その案を「批判する」→「解決策を考える」という役割ごとに自由に意見を出し合いアイデアを拡散させる「Round Robin」、具体化のためのフレームワークを使ってアイデアを収束させる「リーンキャンバス」等のコミュニケーション手法を紹介。仮想のホワイトボードツール「miro」を使ってアイデアの拡散を体験するグループワークが盛り上がり、オンラインで集う初対面の参加者同士の協働がスムーズに進んだ。
参加者からは「議論を活性化する手法やツールは有効だと感じた。大学でも使ってみたい」との声も。短いパートに区切りその都度、質疑応答の時間を設ける箕輪氏の双方向型講義は「疑問点を解消しながら次に進めて良かった」と好評だった。
課題に取り組むうえで自分に必要な知識やスキルを修得できるよう、参加者にはUdemyのアカウントを付与し、約5000の講座から自由に受講してもらった。仕事の生産性(Excel、パワーポイント、リモート会議術など)、コンセプチュアルスキル(デザイン思考、ロジカルシンキングなど)、ヒューマンスキル(リーダーシップ、コミュニケーションなど)、マーケティング、統計・分析、プロトタイプ開発、AI・機械学習などの各カテゴリから推奨講座のリストも提供した。
全参加者で延べ148講座、約725時間分の講座が視聴された。教職をめざしているという芸術系学部の女子学生はコミュニケーション術や生産性に関する講座をはじめ、画像判定や人工知能・機械学習、Pythonなど計70講座を受講、意欲的に学びながら課題に取り組んだ。
インターンシップの課題では、コーディング不要のツールを使い、興味がある学びをネット上のコミュニティで共有するアプリを開発したチームがあった。それを実際にリリースして2000人のユーザを獲得し、最終プレゼンではユーザの反応も紹介した。
参加者のアンケートでは次のような声が寄せられた。
・今の社会と結びつけたテーマでプロジェクトに取り組むことができ、実践的な学びを得ている実感があった。チームで議論を重ねながらプロダクトやプレゼンを作り上げるなど、アウトプットの貴重な経験ができた。
・オンラインであると感じさせない活動だった。大学では多くの理論を学べるが、得た知識を形にする活動は少ない。今回は知識を使って実際に自分で手を動かし、試行錯誤しながら形を作りブラッシュアップしていく活動ができた。
・チーム内で切磋琢磨して真剣に事業立案に取り組んだ。意見が発散され、収束していく過程は大変楽しい時間だった。
インターンシップを企画・運営したベネッセコーポレーション大学・社会人事業開発部の黒岩友樹氏は、完全オンラインによる研修と学生の反応を振り返り、「多様な他者と繋がる」「学びの領域の拡大」「個別最適化」という3つのデジタルの価値を指摘する。
「参加者に動機を聞いたところ『他大学の学生と一緒に学び合いたい』という答えが最も多く、多様性のある学修環境を求めていることがわかる。さまざまな大学、さまざまな専門分野の学生が一つのテーマで協働することによって、思いがけないアイデアが生まれる。これこそがDX時代に求められているイノベーションの種だ」。
オンデマンド型学習プラットフォームの活用による学生の意欲や満足度の向上も、あらためて確認した。「大学が自前で扱うのが難しいDXやデザイン思考など、最先端分野の講義を提供して学びの領域を広げることで学生が刺激を受け、アウトプットにも生き生きと取り組んでいた」(黒岩氏)。
PBLとデジタル学習の掛け合わせによって学生の主体性を引きだし、個別最適化した学びの提供が可能になることは、特に大きな発見だったという。「壁にぶつかるたびに、それを乗り越えるために必要な知識やスキルを修得していくことがPBLの意義だが、必要なスキルは人によって異なり多岐にわたる。多様なコンテンツを提供する学習プラットフォームによってPBLの成果が格段に高まる」。
これらデジタルの価値をふまえるとフルオンラインによる教育プログラムは、コロナが収束した後も教育の質向上の観点から大きな可能性を秘めていると言えよう。黒岩氏は「従来のコンテンツを単純にデジタルに置き換えるのではなく、デジタルならではの付加価値によって学修成果を最大化する教育プログラムをデザインし、大学に提案していきたい」と話す。
インターンシップについては、次年度は大学との連携も視野に入れ、ブラッシュアップした内容で実施する考えだ。
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