2020.0714

「THEアワードアジア」最終選考に向け日本の大学6校が1次審査を突破

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3行でわかるこの記事のポイント

●改革のカテゴリごとに応募、社会へのインパクトを重視して選考される
●日本の大学に目立つ「建学の精神に基づく改革」「長期的な取り組みの発展形」
●大賞は11月に決定する予定

イギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」はこのほど、「THE アワードアジア2020」の最終選考に残った大学を発表した。従来の大学ランキングと異なり卓越した改革の取り組みについて大学自らの応募を中心とするアワードで、10カテゴリ各8校、計80校の中に日本から7カテゴリ6大学が含まれている。建学の精神に基づく改革、長期的な取り組みで築いてきた特色を発展させる改革が評価されたことは、日本の多くの大学に示唆を与えてくれそうだ。

*THEによる発表はこちら
*「THE アワードアジア」の詳しい紹介はこちら


●東京理科大学と沖縄科学技術大学院大学は2つのカテゴリで最終選考へ

 従来の大学ランキングが学生数や被引用論文数など、所定のデータに基づく外形的基準によってランクづけするのに対し、「THE アワードアジア」では取り組み内容そのものに着目、それが社会に与えるインパクトの大きさを重視する。「著名な大学も、スポットライトが当たりにくい大学も」という理念の下、カテゴリごとにベストプラクティスを選ぶ。
 「リーダーシップとマネジメント」「国際戦略」「教育・学習戦略」など10のカテゴリがあり、「地域・社会に対するインパクト」「データポイントメリットアワード」は審査員が選定、それ以外の8カテゴリは大学が自学の取り組みをいずれかに応募する。その意義や成果をどのようなエビデンスで示すかも自学で決めることができる。
 2020年度はアジア各国・地域から250の大学が応募。今回発表されたのは最終選考に残った80大学で、大賞は11月に決定する。日本からは「国際戦略:昭和女子大学(東京都)」「学生募集活動:東京理科大学(東京都)、沖縄科学技術大学院大学(沖縄県)」「教育・学習戦略:藤田医科大学(愛知県)」「地域・社会に対するインパクト:東京大学(東京都)」「テクノロジーによる革新:東京理科大学」「組織の活性化:梅光学院大学(山口県)」「学生支援:沖縄科学技術大学院大学」の計6校(東京理科大学と沖縄科学技術大学院大学はそれぞれ2つのカテゴリで残り、延べ8校)が残っている。
 「芸術の振興」「データポイントメリットアワード」「リーダーシップとマネジメント」の3カテゴリについては、日本から最終選考に残った大学はない。
 日本から10カテゴリ中7つで最終選考に残り、1つのカテゴリに2大学が残っていたり、2つのカテゴリで残っている大学が2校あったりと、多様性と改革への積極的な姿勢を世界にアピールする形になった。最終選考の結果が注目される。
 最終選考に残った中から4校の応募内容を紹介する。

■昭和女子大学:「国際戦略」カテゴリ
-テンプル大学との同居で「スーパーグローバルキャンパス」を推進 

 2019年にテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)が昭和女子大学内に移転、日米の大学が同居するキャンパスという国内初の環境を生かした「スーパーグローバルキャンパス」の取り組みが進んでいる。TUJとの単位互換制度やダブルディグリー・プログラム、共同プロジェクト、シンポジウム、相互に教員を招く授業など、アカデミックな連携を推進している。学生間でも「日本語サロン」「英語サロン」を開くなどの交流が活発化している。
 同大学は1988年、米国ボストンに日本の大学として初めてとなる海外キャンパス「昭和ボストン」を設置。2006年には世田谷キャンパスにイギリス義務教育課程の学校「ブリティッシュ・スクール・イン・トウキョウ昭和」を開校するなど、グローバル人材の育成に先進的に取り組んできた。「昭和ボストン」はこれまでに1万4000人を超える学生が在籍。原則、全員留学とする学科があるほか、他の全学科の学生にも留学機会を設け、世界の協定校への送り出しに力を入れている。
 TUJとの連携による「スーパーグローバルキャンパス」は、同大学のグローバル人材育成における新たなステージとして進められている。

■東京理科大学:
①「学生募集活動」カテゴリ
-建学の精神に基づき、幅広い層を対象とする募集活動を展開

 「理学の普及」という建学の精神に、「SDG4(質の高い教育をみんなに)」「SDG5(ジェンダー平等を実現しよう)」といった現代の国際社会の目標を反映させた学生募集活動を展開している。
 東京で唯一、夜間に理学を学べる理学部第二部で社会人の学び直しニーズに焦点を当てた広報活動を推進。夜間部だけのオープンキャンパスを開催、社会人学生を対象に、5~6年在学しても学費を4年間で卒業する場合とほぼ同額に抑え、無理のない時間割を組むことができる「長期履修制度」も導入している。この制度は国内の理系学部の学士課程ではほとんど例がないという。
 小中高校生向けに科学体験講座やプログラミング講座を多数、実施。数学者でもある秋山仁特任副学長をトップとする「数学体験館」や「科学体験館」で科学の面白さに触れ、後に同大学を受験する生徒も多いという。女性の研究者を増やすため、女性研究者や女子学生をロールモデルとして提示したり、女子生徒対象の実験教室を開催したりする活動も展開している。
 理系大学の伝統的な募集ターゲットである男子高校生以外を対象にしたこれらのアプローチにより、2019年度入試では初めて志願者が6万人を超えるという成果が出ている。

②「テクノロジーによる革新」カテゴリ
-公募研究情報を提供するシステムで研究助成金獲得額が増加

 教育と研究の両面でイノベーションに取り組んでいる。
 教育においては、学修成果を可視化し、学生自身に学修のPDCAサイクルを構築させて主体的な学びを促す仕組みとして2015年、LMS(Learning Management System) 内に学修ポートフォリオシステムと授業収録配信システムを整備。学生は、学修ポートフォリオシステムを使って自分の学修内容と成果の確認、振り返りを行う。必要な知識やスキルを修得するために授業配信システムを活用して自律的に学修を進める。学修成果の可視化によって教員に教育方法の改善を促すことも可能になった。
 研究面では国際競争力向上のための「Virtual Research Environment (VRE)」を整備した。「グローバルな研究コラボレーション環境の構築」「ITにおけるグローバルベストプラクティスの取り込み」というコンセプトの下、研究活動に必要な情報を統合。公募研究の情報を教員にリアルタイムで提供し、研究助成金の獲得額が大きく伸びた。
 VREで公募研究への応募状況や外部研究費の獲得状況、各研究プロジェクトの進捗状況、特許の出願状況などを把握し、セクションごとの活動や強みを捉え、より実効性の高い研究戦略を構築するなど、全学的な研究マネジメントも推進している。

■藤田医科大学:「教育・学習戦略」カテゴリ
-専門職連携を実践する「アセンブリ教育」で地域活性化にも貢献

 建学の理念「独創一理」に基づき、大学創立直後の1970年から医療の専門職連携を柱とする「アセンブリ教育」を推進してきた。
 1年次はコミュニケーション能力を養い、2年次にチーム単位で学内外でのプロジェクト活動を実施。3年次には県内の他大学の教員・学生も加えたチーム基盤型学習で、患者中心の考え方を身につけるための議論や発表を行う。4年次には自学の大学病院などの臨床現場にチーム単位で参加。これらの成果として、卒業生が多数活躍する大学病院は医療機関の第三者評価を行う国際的機関「JCI(Joint Commission International)」の認定を取得した。
 「アセンブリ教育」の実践的な活動が「豊明モデル」と呼ばれる地域包括ケアシステムだ。高齢の居住者が多く、コミュニティとしての存続が危ぶまれていた地元の豊明団地に学生と教員が入居。自治体等と連携し、居住者と共に地域課題の解決に取り組んできた。介護保険事業者として学校法人が提供する在宅医療・介護や訪問看護・リハビリテーションに加え、「ふじたまちかど保健室」での健康相談活動などによって団地の入居率は9割を超え、多世代コミュニティの活性化が進んでいる。
 2019年には学内に「地域包括ケア人材教育支援センター」を開設。地域包括ケアを担う自治体職員の育成にも取り組んでいる。

■梅光学院大学:「組織の活性化」カテゴリ
-新校舎で「学びの場の拡張」「教職協働による学生の育成」を実践

 学長が掲げる「学生の成長支援」「教職協働」という理念の下、「学びを変える、働き方を変える、場が人を成長させる」というコンセプトを具体化する形で2019年春にオープンした新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」がキャンパスの活性化につながっている。
 新校舎の特色は①教室と廊下の区別を極力なくした、人が交錯するオープンな空間の形成、②Wi-Fiの全館完備と多くの床や壁へのホワイトボード設置による学びの場の拡張、③廊下や階段も教室として活用、④教職協働による学生の育成―の4つ。受け身の教育を前提に設計されてきた従来の校舎と異なり、学生と教職員、学生同士の「見る・見られる」関係からほど良い緊張感が生まれ、学生が積極的な学修姿勢に変わってきたという。
 日本初とされる「教職協働のフリーアドレス制」を導入。オフィスと共同研究室を兼ねるオープンスペースで教職員がいつでもコミュニケーションできる。
 学内アンケートでは教員の67.7%、職員の96.7%が「働きやすくなった」と回答。職員からは「教員や学生との距離が近くなった」との声が上がっている。授業でのプレゼンテーションやグループワークの質が向上したとの評価も。学生からは「教職員や他の学生との交流の質的充実」「ICT活用度の向上」が評価されている。
*梅光学院大学の新校舎「The Learning Station CROSSLIGHT」に関する記事はこちら