少人数教育への満足度がTHE世界大学ランキング日本版の躍進に―津田塾大学
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2020.0518
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3行でわかるこの記事のポイント
●女子大では総合3位、「教育充実度」と「教育成果」の両分野でトップ
●ゼミが「提供する環境」や「修得させる力」が学生調査の設問とマッチ
●語学研修やインターンシップなど、学外学修の成果も学生や企業が支持
津田塾大学は「THE世界大学ランキング日本版2020」の総合順位が前年の57位タイから44位にランクアップした。上位グループの中で10以上順位を上げてのベスト50入りは躍進と言える。教育力重視のランキングにおけるプレゼンス向上の背景には、1年次からの少人数ゼミや学外学修を通じて育成される主体性や行動力、論理的思考力、課題解決力に対する学生の満足度や企業の評価の高さがあるようだ。学外学修センター長を務める大島美穂総合政策学部教授へのインタビューでは、大学の創設者が新紙幣に起用される「5000円札効果」による学生の意識変容など、興味深い話も聞くことができた。
*「THE世界大学ランキング日本版2020」-東北大学が初のトップに
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「THE世界大学ランキング日本版」44位の津田塾大学は、4分野のうち「教育充実度」(2019年度20位タイ→2020年度15位タイ)、「教育成果」(74位タイ→50位タイ)、国際性(71位→49位タイ)の3つで順位を上げた。女子大だけで見ると、総合順位は国立のお茶の水女子大学(25位)、公立の福岡女子大学(40位)に次いで第3位。「教育充実度」と「教育成果」はトップで、教員と学生、学生同士の深いつながりを通じて身に付く協働する力や批判的思考力が学生や企業から強い支持を得ていることが示された。
ランキング結果に関する大島美穂教授の話は以下の通り。
今回のランキングでは、学生調査や高校教員の評判調査がある「教育充実度」、企業人事の評判調査がある「教育成果」でスコアが伸びたことが励みになる。「論理的に考える力を養う」「多角的な視点で問題を見る」「自らの言葉で表現する」「高い専門性と幅広い教養を身に付ける」という大学創設以来の教育理念が実を結び、入り口、中身、出口の各関係者から共感と評価を得ていると受け止めている。「国際性」も留学の送り出しや外国人教員の採用など、力を入れてきたことが結果に表れ、それが教育充実度等のスコアにもつながっていると思う。
「教育充実度」における学生調査の結果について私たちが注目しているのは第一に、創立以来120年の伝統である少人数教育と教員の熱心さに対する満足度の高さ、そしてもう一つは新しい潮流と言える「津田塾文化に対する自信と誇りの発信」だ。
少人数教育と教員の熱心さは1年次から必修のゼミによって継承されている。ゼミや学科ごとの懇親会が数多く開催されるなど、教員と学生の関係づくりを重視。1年ゼミに加え語学の授業でも少人数教育が重視されている。語学は、文系なら週に4〜6回授業がある。入学直後から安心できる居場所ができるわけだ。多くの学生は、日常生活の悩みごとについても教員に気軽に相談できるようになっている。
調べて発表すること、自分の意見を言うこと、互いの成長を応援し合うことが大好きという本学の学生共通の特長もゼミを通して形成される。毎回、課題が出るので負担は大きいが、仲間と力を合わせて必死に勉強して乗り越える。授業中は廊下に学生の姿はなく、昼休みも図書館やラーニングコモンズで課題に取り組むなど、真面目を絵に描いたようなキャンパスの雰囲気に学外からの訪問者は一様に驚く。学生は常に自分の考えを持ち、教員に対しても授業の進め方について臆することなく提案するし、教員もそれに耳を傾けるリベラルな文化が根付いている。
これらが、学生調査の「学内で教員と交流する機会」「協同学習の機会」「クリティカル・シンキングのスキルの支援」「授業のやりがい」といった各設問で高いポイントを得た要因ではないか。2017年度、千駄ヶ谷キャンパスに総合政策学部を新設した時は「良い意味での地味な雰囲気が一変するのでは」という声もあったが、杞憂に終わった。
一方で学生は、大学の文化に適応し、「津田スピリット」とも呼ぶべきアイデンティティを持ちながらも、それを公言して津田塾生だと名乗るのをためらう傾向があった。真面目さ、地味さが今の社会ではかっこ悪く、恥ずかしく見えると考えていたのだ。
それを変えたのが、本学の創設者・津田梅子の新紙幣起用による「5000円札効果」だ。津田塾の伝統の礎を築いた津田梅子があらためて脚光を浴び、時代のシンボルになることが学生に「真面目さはかっこいい。他人に大学のことを自慢して薦めたい」という自信をもたらしたと推測している。今回の学生調査の協力者募集では1カ月間で50人を目標にしていたが、1週間で去年を大きく上回る200人からの応募があった。その勢いに驚いたが、これが学生の意識変化を端的に物語っている。
「教育成果」では、企業人事の評判調査で高スコアを獲得できたと考えている。本学の卒業生について人事担当者からはよく、「入社直後から問題を発見し、改善案を出してくれることが多い。それが他の社員の刺激にもなっている」と聞く。これも、1年次からの少人数ゼミで議論し、自分の言葉で意見を伝える訓練を積み重ねた成果だと思う。
もう一つ、企業から評価される力につながっているのが、ギャップターム期間を活用して参加する海外でのサマースクールや語学研修、国内外でのボランティア活動やインターンシップ、ビジネスコンペなど、自律的な学外学修だ。インターンシップに関しては、一定の要件を満たせば単位も認定する(学芸学部は随意科目として認定)。
2017年度から4ターム制を導入し、必修科目がない第2タームと夏期休暇をつなげた約2か月半のギャップタームを活用して学外学修に出ることを推奨している。こうした使い方ができる実質的な4ターム制を導入している例は、首都圏では国際基督教大学の他はまだ少なく、本学の特色となっている。
学外学修は日本最初の女子留学生として国外で学んだ津田梅子の精神を継承する制度で、キャンパスの外で学び、社会の出来事、世界の課題を自らに引き付けて考え、行動する力を養うことがねらい。私がセンター長を務める学外学修センターは、受け入れ先の開拓や情報提供、活動参加に向けた指導などで学生を支援している。このプログラムを通して身に付く視野の広さや行動力、課題解決力が卒業後、各職場で評価されているのだろう。
「国際性」の項目の中で「日本人学生の留学比率」のスコアが大きく伸びた要因の一つは、先に述べた学外学修制度による短期留学者の増加だ。協定校との間の交換留学でも派遣希望者が増える一方、先方からは女子大への留学が敬遠されがちで、送り出しと受け入れのバランスの是正が課題になっている。
2019年度から始めた日本語学校訪問にさらに力を入れ、出願者を増やしていきたい。5月に予定していたアメリカでの大学説明会では今回のランキングデータを活用して国際性をアピールする予定であったが、新型コロナの影響で訪問を中止した。代替策としてYouTubeへの動画掲載などで広報しつつ、この状況下における日本への留学希望者のニーズを確認し、外国人学生比率を上げていきたい。
PDCAサイクルを回し、適切な改革を適時に行うために本学でもさまざまなデータを蓄積し、分析しているが、自前で集められるデータには限界がある。ランキングをはじめとする客観的なデータを積極的に活用し、今後も学生に誇りを感じてもらえるよう教育のブラッシュアップに努める。
世界的な知名度があるTHEのランキング結果を広報にも積極的に活用していく。国内広報においては、大学案内や大学説明会で本学の強みを説明する際のエビデンスとして、また、海外広報でも国際性をアピールして外国人学生の獲得につなげ、国際性をさらに高めるという好循環を作っていきたい。