専任教員の兼務による学部連係教育が可能に―"AI×専門性"など想定
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2020.0513
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3行でわかるこの記事のポイント
●グランドデザイン答申に基づき学位プログラム設置について制度化
●収容定員は連係する学部の収容定員の内数で設定
●届出の手続きをより簡素化
既存の教員を柔軟に活用して「AI×各専門分野」等の学際的教育を機動的に立ち上げたい―。大学のこうした改革意欲に応える「学部・研究科等の組織の枠を超えた学位プログラム」設置の新制度が2019年にスタートした。一人の教員が従来の学部と別の組織の専任教員を兼務できるという制度改正が柱。2020年度は千葉大学大学院がこれを活用した学位プログラムを新設、次年度以降は私立大学にも広がりそうだ。
*図は文科省の資料より
「学部・研究科等の組織の枠を超えた学位プログラム」は2018年に出た中央教育審議会の「グランドデザイン答申」の提言を受けて制度化され、2019年8月に大学、大学院、短大それぞれの各設置基準が改正・施行された。産業界で人材ニーズが高いとされるAIと経済学、工学、医学などをかけ合わせる学際分野での活用が想定されている。
従来の制度では「学生の所属する組織」「教員が所属する組織」「提供される学位プログラム」が1対1対1で対応することを原則とし、大学では多くの場合、これが「学部」として位置づけられている。ある学部の専任教員は他学部の専任教員を兼ねることができず、両学部の専門性をかけ合わせて社会ニーズに対応した学際的な教育を機動的に立ち上げることが困難だった。
「グランドデザイン答申」では、学術研究と産業社会の両方で分野を越えた専門知の組み合せが必要とされているとして、従来の学部・研究科等の組織の枠を越えた幅広い分野からなる文理横断的なカリキュラムの必要性を指摘。「大学が自らの判断で機動性を発揮し、学内の資源を活用して学部横断的な教育に積極的に取り組むことができるよう『学部、研究科等の組織の枠を越えた学位プログラム』を新たな類型として設置可能とする」と提言した。
今回の制度改正によって大学(学部)の場合、学内の複数の学部から専任教員を出し合い、本来の所属学部と両方の専任教員を兼ねる形で新たな学位プログラムを設置できるようになった。
大学が分野横断的な学位プログラムを新設する場合、連係する複数の既存学部から成る「学部等連係課程実施基本組織」を置く必要がある。これは制度上の名称で、新しい学位プログラムを提供する「学部」に相当する組織だ。学部の連係組織であることが伝わりやすいよう、各大学では「〇〇学群」「〇〇学類」等の名称にすることが考えられる。ここでは「A学群の新設」という想定で説明する。
A学群の専任教員は類似する学部等と同じ数を配置する必要があるが、教育研究に支障を生じないことを条件に各連係学部から兼務として出すことができる。連係学部がそれぞれ専任教員数の基準を満たしていればA学群の基準も満たすとみなされる。「教育研究に支障を生じない」ということを客観的に保証するため、兼務する教員について本来の所属学部とA学群それぞれにおける従事比率(エフォート)を管理することなどが求められる。
施設・設備等も各連係学部のものを活用でき、新たに取得する必要がない。収容定員は各学部の収容定員の内数として設定。学生の学籍管理は、A学群で行う、連係学部ごとに行う、両者が共同で行うなど、各大学の判断に任される。入試、成績評価、学位に関する審査等を担う教授会に相当する教学管理体制の整備も重要とされている。
各連係学部の収容定員については、A学群に回す分を含む内訳をあらかじめ明示して受験生の混乱を招かないようにする必要がある。また、A学群の学生は従来の「学部等」とは異なる組織に所属することになるため、文科省は大学に「所属意識を醸成するための取り組みが期待される」と通知している。
アドミッション・ポリシーをはじめとする3つのポリシーは学位プログラム単位で定めることになっているため、A学群独自に規定することになる。
学部等の新設と同様、大学が授与する学位の分野が変わらない場合は届出の対象となる。設置基準を満たした既存組織を活用するため、柔軟でスピーディな設置が可能となるよう届出の手続きも簡素化される。開設の2カ月前にあたる1月末まで届出が可能で、教員個人調書などいくつかの書類は提出が不要となる。
「学部・研究科等の組織の枠を超えた学位プログラム」の先行事例として千葉大学大学院は2020年度、「総合国際学位プログラム」を新設した。人文社会科学、自然科学、生命科学の各領域を学際的に学ぶ「研究科」に相当する組織で、大学院人文公共学府(人文科学専攻、公共社会科学専攻)の定員を活用している。
私立大学でもこの制度を活用した学位プログラムを検討しているところがあり、2021年度以降は「学内兼務の専任教員」が登場しそうだ。