乗り切ろう!コロナ危機⑦ 高校調査から考える大学の対応<下>
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2020.0526
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3行でわかるこの記事のポイント
●最大の課題は授業のリカバリ
●リカバリのために行事の削減、夏休みの短縮を決定・検討
●「withコロナ」を前提に高校生に安心を届けるコミュニケーションを
ベネッセコーポレーションは、新型コロナウイルスの感染拡大によって臨時休業した高校の状況と休業明けの見通しを把握するため、教員を対象に調査を実施した。受験について不安を募らせる高校生、思うような支援ができず苦慮する教員の声を通して大学がすべきことを考えるため、調査結果を2回に分けて報告する。今回は休業明けの対応について取り上げる。
*「乗り切ろう!コロナ危機⑥ 高校調査から考える大学の対応<上>」
ベネッセが実施した調査の概要は以下の通り。4月下旬から約10日間のインターネット調査で543人の高校教員から回答を得た。
緊急事態宣言が全面解除されたことを受け今後、学校は再開に向けて動き出すと予想される。4月下旬から5月1日まで実施された今回の調査では、臨時休業明けに向けた指導方針・計画について、全体の約65%の高校が「これから検討」と回答。すでに策定済みと答えたのは、どの学年でも30%に満たなかった。休業中の課題の提示や学習状況の把握に追われ、先のことを検討する余裕がないと推測される。1年生については策定済みが23%と特に低かった。
「臨時休業明けに対応が最も必要な課題」を聞いたところ、やはり全体・学年別ともに「学習・授業進度遅れのリカバリ」が最多だった。次に多かったのは、3年生は「進路指導」(16%)、1年生は「メンタル面のフォロー」(19%)で、学年による課題の違いが表れた。
この設問で「その他」を選んだ教員のうち、11人が「これらすべての対応が必要」と回答。自由記述では「特に3年生にかかわる生徒・保護者・教員のすべてが、大学入試について大きな不安を抱えている」「特に3年生の精神的ダメージが大きい」など、新入試による受験を控え、通常通りの授業や進路指導を受けられない3年生の不安に言及している。
「1年生のケア」と答えた教員は「臨時休業が長期にわたるため、授業時数の確保を優先せざるをえない。新入生がスムーズに高校生活をスタートできるかどうかに、例年以上に配慮しなくては」と、高校生活の"助走期間"がないまま遅れた授業のリカバリを強いられる新入生を気遣う。
休業による授業や指導の遅れを取り戻す時間を確保するため、各高校はさまざまな対応を考えている。「学校行事の削減」を「決定した」または「検討中」と答えた高校は合わせて70.1%だった。「夏休みの短縮」を「決定・検討している」は65.2%で、2週間程度の短縮を検討している高校が多い。
他の「決定」または「検討中」の内容としては「平日補習の実施、拡充」が25.7%、「土日授業の追加」が24.5%。これらに加え「1日の授業時数を増やす」14.9%、「夏休みにオンライン配信授業を実施」12.9%なども考えられている。
行事の削減等によって授業進度の回復に努めても、例年通りまでもっていくのは厳しいだろう。それを見越し、テストや進路選択に関わるスケジュールを見直す高校もある。「定期テストを部分的に廃止する」ことを「決定」または「検討中」と答えた高校は56.7%あり、「定期テストの時期を遅らせる」も50.5%だった。「文理選択・コース選択の時期を遅らせる」高校も16.0%ある。
臨時休業で家庭学習の比重が上がり、休業期間によっては家庭学習の状況・成果を成績評価に反映することも検討課題になってくる。「家庭内での学習を評価に組み込む」ことを「決定」または「検討中」と答えた高校は40.9%だった。この割合は「定期テストの部分的廃止」を「決定」または「検討中」とした高校で56.8%と特に高く、定期考査に替えて家庭学習の状況を成績評価に反映しようとの意図が読み取れる。
臨時休業明けの生徒とのコミュニケーションや面談内容に関する質問には、「まずは丁寧に状況を把握し、学習・進路の情報提供をしていく」という声が目立った。具体的なコメントは次の通り。
・「進路指導通信を発行し、進路情報の提供に遅れが生じないように配慮する」「検討していた受験方式を変える生徒も出てくると考えられるため、気持ちの変化を丁寧に聞き取る」(3年生担当)
・「心身の健康状態を確認することを優先。家庭の状況把握に努め、保護者の仕事や家庭環境に変化がなかったかを把握する」(管理職)
・「一人ひとりと話をする時間を長くするように心がけたり、笑顔で和やかな感じで話をするように工夫をする。表情や言葉を普段以上に注意してみる」(クラス担任)
一方、「臨時休業明けの進路指導上の懸念点」としては次のような回答があった。
・「文理選択についてコミュニケーションが不足しており、判断材料が不足してしまっている」(1年生担当)
・夏休みのオープンキャンパスや職業体験などの進路選択の場が減少することで生徒が進路について考える機会が減る」(2年生担当)
・「進路希望の把握が十分にできていない」「大学入試や就職試験の時期や形式がどうなるのかが不透明で指導ができない」「学校推薦型選抜・総合型選抜希望の生徒は、部活動や英語外部試験の機会が失われ、予定していた出願プランの再検討が必要」(3年生担当)
・「オープンキャンパスや体験授業などに全く行けていないので、具体的な進路のイメージができていない」「情報が不足している」「指導の見通しが立たない」(以上、進路主任)
・「面談がほとんどできていないので、生徒の進路の決定や準備が遅れてしまうのではないか。模擬試験もままならず、学力把握も容易ではない」(クラス担任)
今回の調査結果から、高校教員が進路指導に困難を抱え、焦燥感を募らせていることが伝わってくる。さらに、生徒の心身の健康や家庭の経済状況や環境の変化にも目を配り、丁寧にケアしていこうとする姿勢がわかる。
こうした高校の状況を受けて大学が考えるべきことは何だろうか。まずは受験生の不安を軽減し、そのことを通して高校教員の負担を軽減することだろう。
このほど文部科学省から大学に出された2021年度入試の総合型選抜と学校推薦型選抜に関する通知では、臨時休業、および各種検定試験や大会等の中止によって受験生に不利益が生じないよう配慮を求めている。一方で、今後のコロナを巡る情勢が見通せない中で難しい判断を迫られる大学側にも配慮し、一定の条件の下、募集要項への記載内容の変更や「2年前告知」の内容の見直しを許容する考えも示した。
大学は今後、コロナ情勢の動きについていくつかのパターンを想定し、代替案も用意したうえで、入試内容を早めに公表して受験生に安心を与える必要がある。今回の通知では入試の実施時期は示されなかった。今後、各地で授業再開の動きが予想されるので、高校とコミュニケーションをとって実情と要望を把握し、文科省からの通知後速やかに入試の実施時期について発信することが大事だ。
今年度の受験生は、きちんと授業を受けられていないために「無事に合格できても大学の授業についていけるだろうか」という不安も抱えているはずだ。大学はその点にも配慮し、入学前教育や初年次教育を含む万全の教育体制で迎え、支援していくというメッセージを送ることが大事だろう。
今の状況で「コロナ収束後」を語ることは難しく、「withコロナ」という発想でさまざまな活動を計画し、進めていく必要がある。経済の長期的な低迷が危惧される中、今の高校1、2年生が受験する時のことも視野に入れ、大学による継続的な学生支援策について積極的に発信し、安心感と希望をもって大学をめざすよう勇気づけることが大学の果たすべき役割と言えるだろう。