内部質保証のエビデンスとして全学年でアセスメント実施―大阪経済大学
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2020.0316
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3行でわかるこの記事のポイント
●アセスメントとキャリア教育の連携で汎用的能力を育成・可視化
●新設の教学IR部門がデータを収集・分析し、教育支援と学習支援での活用へ
●学年ごとに確実な受検を促すための工夫も
大阪経済大学は16年間にわたってアセスメントで入学者の汎用的能力を測定し、キャリア教育との連携によって教育・学習支援に生かしてきた。従来、1年生に限定していた受検者を2020年度には全学年に拡大し、継続的な測定を教育改革につなげる。学修成果の可視化の実行部隊として新設された教学IR部門を中心に内部質保証に取り組む。
大阪経済大学は「ゼミの大経大」として知られ、ゼミ研究発表会である「ZEMI-1グランプリ」は2019年度で10回目となった。学際的な発表内容の土台となる基礎教育をキャリア教育が担っているともいえる。
アセスメントテストの導入は就職氷河期だった2004年度にさかのぼる。学生が自分の能力や適性を客観的に把握し、社会的・職業的自立ができるよう支援することがねらいだった。当時、ベネッセコーポレーションが提供していた「自己発見レポート」を導入、同社の支援を受けてキャリア教育(1年次対象の「キャリアデザイン」)も同時にスタートさせた。
アセスメントがやりっ放しにならないよう受検率の向上とフィードバックを重視し、学生の学びやキャリア意識につなげるよう努めてきた。1年生全員(約1700人)に入学前に自宅でアセスメントを受検させる独自の方式を採用し、入学直後、初回の「キャリアデザイン」の授業で結果について解説。自分の強みと弱みを把握して成長のための学習計画を立てたうえでキャリア関連科目の履修を促し、主体的な学びにつなげる。このようなアセスメントの活用と履修体系が「ゼミの大経大」という評価の重要なファクターになっている。
入学関係書類の一つとしてアセスメントの回答用紙を提出させることによって毎年、100%近い受検率を維持。「キャリアデザイン」を履修していない少数の学生にも結果を確実にフィードバックできるよう、課外の説明会も実施してきた。
大阪経済大学のキャリア教育では、社会的・職業的自立に向けて「大学で学修するための学び方」を学ぶ。専門ゼミの準備としても位置付けられ、汎用的能力、スタディスキルの修得をめざす。1年次の「キャリアデザイン」「コミュニケーションスキル」、2年次の「プレゼンテーション入門」「論理的思考力入門」のほか、インターンシップや企業との連携によるPBLなど、実践的科目もある。
アセスメントで学生の変化を捉え、キャリア教育の開発にもつなげてきた。この間に「自己発見レポート」は「大学生基礎力レポート」に替わり、2019年度からは「GPS-Academic」と、ベネッセi-キャリアのアセスメントを活用してきた。2009年度からアセスメントに関わってきた教育・研究支援・社会連携部の黒正(こくしょう)洋史部長は「これらのアセスメントには共通の質問項目があって継続的な比較ができたこと、初年次教育であるキャリア科目と連携しているので教育・学習支援につなげやすいことが選択の決め手になった」と説明。GPSがCBT化されたことによって事務処理が大きく軽減され、学生へのスピーディなフィードバックが可能になったことにも触れた。
同大学では、これまでにキャリア教育担当教員を採用するなどしてキャリア教育の開発を推進。当初から進路支援部など、就職支援に関わる部門がキャリア教育とアセスメントを担当して教職協働で進めてきたが、これらに対する教員の理解がなかなか広がらないという問題意識があった。他大学と同様、「キャリア教育=就職支援=教員の担当外」という意識があり、アセスメント結果のデータの活用はあまり進んでいない。
そうした背景もあり、2019年度には教育・学習支援センター(Support Center for Teaching and Learning=SCTL)を設置。入学前教育やキャリア教育まで含む総合的な教学改善のエンジンとなるIR部門だ。アセスメント結果はじめ教学関連データを収集・調査・分析し、学長執行部に対しては教育改善の情報提供、学部・教員に対しては分析結果の提供やFDの実施等を通じた教育支援を行う。ライティングやプレゼンテーション資料の作成など、学生に対する直接的な学習支援も担う。
教務担当の学長補佐がセンター長を兼務して教務部との連携を強化。副センター長には教学マネジメントの実践経験が豊富な専門家を招聘し、2020年度に着任する予定だ。実務を担当する職員3人との教職協働で教学マネジメントを推進する。
黒正部長は「私学助成における教育の質重視、教学マネジメントの指針策定といった近年の高等教育行政によって、教員の間でも教学改善の意識が高まってきた」と説明。2023年に予定する認証評価受審も良い意味での圧力となり、教育成果の可視化、内部質保証体制の確立に取り組まなければという学内の機運が徐々に高まっているという。
IRにおけるエビデンスデータとして学生の成長を定点観測するため、2020年度からはアセスメントの対象を全学年に広げる。1年次は従来通り入学前に実施。2年次は専門ゼミの所属希望調査と合わせて春学期に実施し、3年次は秋学期にゼミと連携して受検率の向上をめざす。結果を確実に学生にフィードバックできるよう、入学者オリエンテーションでの説明や動画配信、さらにキャリア教育担当教員やSCTL職員による面談も検討している。
大阪経済大学は2032年の創立100周年に向けた新たなビジョンとして『生き続ける学びが創発する場』を掲げている。黒正部長は「予測困難な時代を生き抜くには、生涯にわたって自らの学びをデザインできるようになることが大切。学生一人ひとりの学びが相互に作用し合って新たな価値が生まれ、多様な価値観が生きる学びの場をめざしている」と説明。「学生を知る一つの方法としてアセスメントを活用するために、教職協働が欠かせない。データに基づく教学改善を着実に進め、情報公開にも積極的に取り組みたい」と話す。