海外向け研究ブランディング③有機的な活動を生む組織、体制づくり
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2020.0305
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3行でわかるこの記事のポイント
●タスクフォースを組んで戦略を立案、活動は各部署で行う
●成果が出るには数年を要するため、進捗管理とPDCAが要
●設定する目標は検証可能なものにし、マイルストーンも設定を
海外向け研究ブランディングを成功に導く「組織体制」「目標設定のしかた」について、海外市場でのブランディングに精通した進研アドの担当者が、その課題と具体的な解決策についてレポートする。
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*「海外向け研究ブランディング①『強みを持つ研究』×『国際的なニーズ』」はこちら
*「海外向け研究ブランディング②地上戦×空中戦の有機的な組み合わせ」はこちら
つついえみ●関西地区での大学支援を経て2018年より現職。THE世界大学ランキング分析や大学の魅力向上施策の企画立案など、多角的に改革支援を行っている。
〈講演活動〉 全国の大学での学内セミナー、FD講演多数。テーマは「ランキングマネジメントとブランディング」「教育力の可視化」「高校教員向けブランディング」など。
前回まで、海外向け研究ブランディングのポイントは、まず「強みを持つ」×「国際的なニーズが高い」研究について、「地上戦」×「空中戦」を組み合わせて展開することであるとお伝えしました。今回は、それを誰がどう取り組むかについて考えてみます。実は日本の大学の研究ブランディングは「担当部署」が一つの課題になっています。海外に目を向けるとシンガポール国立大学のように、大学全体の研究力を国外に発信する専門部署を設置している大学が多数存在します。しかし日本においては、それに相当する組織を持つ大学はほぼ見られません。
とはいえ、新たに専門部署を設置するのはハードルが高い。ではどうするか? 学内に点在している力を集め、海外向け研究ブランディングのタスクフォースを組んでみてはいかがでしょうか。つまり、執行部の教員をチェアマンとして、広報、研究推進、国際交流、IRなどの部署からメンバーを募り、データやエビデンスに基づいた議論ができるブランディングチームを組織するのです。執行部で大きな方針と目標を決め、具体的な戦略はチームで議論する。メンバーはその戦略を各部署に持ち帰り、具体的な項目に落とし込み、活動をスタートさせます。ブランディングチームは、それでおしまいではなく、定期的に会合を開き、「各部署におけるアクションの進捗確認」→「結果の共有」→「軌道修正」というPDCAサイクルを回します。
そもそも研究ブランディングは単年度で取り組むものでも、成果が出るものでもありません。3年、5年といった中期的な計画を立て、その中で1年間のサイクルを回し、少しずつ前進していくことが求められます。そのため、計画の進捗管理はブランディングチームの重要なタスクの一つと言えるでしょう
次に目標について考えていきます。海外向けのブランディングというと「世界ランキングで◯位以内」といった大きな目標設定になりがちですが、これでは数値目標として漠然としすぎていますし、そこに至るまでのプロセス設定と検証が困難です。マイルストーンとなる小さな目標を設定する必要があります。
マイルストーンは、それぞれの大学の中長期計画やグランドビジョンから導き出すのも一つの方法です。それらの計画の中から研究ブランディングにつながる要素を洗い出し、「具体的な数値で表したらどうなるか」を検討してみてください。目標は必ずしも定量的なものでなくても構いませんが、「この分野のこの内容で共同研究ができるようになること」「アジア圏以外からレピュテーションを獲得する」など、「達成できた/できない」を後から検証できる内容であるべきです。ランキングの順位は、あくまでこれらの取り組みの「結果」として考えるのがよいでしょう。
さて、これまで3回にわたって海外向け研究ブランディングのコツについてご紹介してきましたが、これだけが"唯一の正解"というわけではありません。自学が置かれている状況、持っているリソースによって効果的な方法は異なります。ただし、「自学の強みをきちんと把握すること」「具体的な目標を設定すること」「各部署がバラバラに取り組むのではなく、有機的に連携して活動すること」の3点は、どの大学にも共通する重要なポイントです。一部の教員や特定の部署に任せきりにするのではなく、大学全体の取り組みとして、ぜひチャレンジしてみませんか。