2019.0625

グランドデザインと大学の課題② 高校や社会とのつながりの中で考える 「人材育成」

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校・大学・社会が1つの流れとなり人材を育てる時代
●高校とは入試改革、社会とは雇用の変化対応で連携を
●教育の質向上とその成果発信で教育力をブランド化

少子高齢化社会において大学に期待される「人材育成」のありようとは何か。『Between』編集長が「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」を読み解き、大学の改革と課題について、考える。
*この記事のPDFはこちら
*「グランドデザインと大学の課題①」はこちら

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(株)進研アド Between編集長
  中村浩二
なかむらこうじ●1990年(株)福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。高校事業部にて高校の教育改革支援に携わった後、(株)進研アド九州支社勤務を経て2017年より現職。大学基準協会短期大学評価委員会委員。
〈講演活動〉
大学基準協会主催短期大学シンポジウム、千葉県大学・短期大学入試広報連絡会、九州地区私立大学入試・広報連絡協議会ほか、大学・高校向けの入試改革、大学改革についての講演多数。


●高校・大学・社会が1つの流れの中で人材を育てる時代へ

 人口減少時代の中で大学が生き残るためには、"人材育成"と"地域貢献"の機能強化が欠かせません。このうち"人材育成"については、「高校」「大学」「社会」が1つの流れの中で取り組むべきものです。ひと言で言うと、三者が連携して成長プロセスを共有しながら、若者を育てていくイメージです【図表】。大学は、高校が育成した学生の能力を引き続き伸ばし、世の中の変化にも対応できるよう成長させ、社会に送り出すことが求められます。

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 このように人材育成は、大学の中だけにとどまらず、高校とどうつながるか、社会ニーズと自学の教育をどうつなげるかなど、「つなぐ」という観点が欠かせません。

高校とは入試改革、社会とは雇用の変化対応で連携を

 高校から大学へのつながりを強化するうえでは、大学側からの情報発信が重要です。多くの高校教員は「教科学力のほかに、どのような資質、能力を伸ばすべきなのか」「自分たちが育てた生徒を、大学はどのように受け止めているのか」という疑問を抱いています。大学側が、高校の教育に何を期待しているのかをしっかり伝えていくことが大切でしょう。それには、高校教員の関心がもっとも高い入試を通じて、自学の教育のあり方を伝えていくべきです。
 現在進行中の入試改革において、「"主体性等"の評価をどうするか」「記述式を導入すべきか」など、頭を悩ませている大学も多いと思いますが、入試はその大学の人材育成の方針が反映されるもの。短期的な募集だけでなく、長期的な展望をもって教育の特色が伝わる入試を設計すべきです。
 次に、大学と社会とのつながりを考える場合、雇用の変化を捉える必要があります。日本では今まで、年功序列や終身雇用を前提としたメンバーシップ型採用がほとんどでした。今後はこれに加えてジョブ型採用(専門スキルを重視した採用)の導入が進むと考えられます。これにより、採用のタイミングは新卒一括採用から通年採用へ、学生の意識は「就社」から「就職」へと変わっていくはずです。こうした変化を受けて、学生が身に付けた力を可視化することの重要性が、さらに増すことでしょう。

教育の質向上とその成果発信で教育力をブランド化

 最後に、人材育成の機能強化のためのポイントを3つ挙げます。
 1つ目は学修成果の可視化による「教育の質向上」です。よく問題となるのは、「何を可視化すべきか」という点ですが、それよりも重要なのは、可視化した結果を教育改善に結びつける「しくみの構築」です。DPに基づき、可視化すべき力を定め、それを評価して学生の学修行動と教育を改善・向上させるサイクルを確立させましょう。
 2つ目は学修成果を基にした「教育の質保証」です。人材育成は、各大学の建学の精神、ミッションに裏付けられた汎用的能力を育成すべきものなので、大学全体で考えなくてはいけません。さらに、一人ひとりの教員が大学全体の人材育成に関する教育プログラムを理解し、その中で自分がどのような役割を担うのか、理解、意識する必要があるでしょう。
 3つ目は、学修成果をデザインし、「広報・ブランド化」することです。取り組みとその成果が高校に伝わらなければ、自学に合った学生は入学してきません。また、社会に伝わらなければ、学生と企業とのミスマッチにもつながりかねません。広報活動を通して、自学の教育ブランドを浸透させていきましょう。