2019.0531

グランドデザインと大学の課題① 大学の持続可能性を高める 「人材育成」と「地域貢献」 の機能強化

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●グランドデザイン答申が示す大学の持続可能性
●ポイントは「質保証」「地域連携」「規模の適正化」
●地域の大学進学者数を基に「規模の適正化」の議論を

少子高齢化が進む日本社会において、求められ、生き残るために大学は今、何をすべきか。『Between』編集長が「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」から、大学の持続可能性を高めるための課題について、考える。
*この記事のPDFはこちら

nakamura.jpg

(株)進研アド Between編集長
  中村浩二
なかむらこうじ●1990年(株)福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。高校事業部にて高校の教育改革支援に携わった後、(株)進研アド九州支社勤務を経て2017年より現職。大学基準協会短期大学評価委員会委員。
〈講演活動〉
大学基準協会主催短期大学シンポジウム、千葉県大学・短期大学入試広報連絡会、九州地区私立大学入試・広報連絡協議会ほか、大学・高校向けの入試改革、大学改革についての講演多数。


グランドデザイン答申が示す大学の持続可能性

 2018年11月に中央教育審議会から出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」。これは人口が減少し、先々の社会の姿が予測不可能な時代における、将来も持続可能な大学のあり方を描いたものだと言えます。その内容は「めざすべき姿」「組織変革の促進」「教学改革の推進」「経営改革の支援」「課題の提示」の5項目に分けられます。

gaiyo.jpg

 「めざすべき姿」では、高等教育を「学修者本位の教育」に転換することが強く求められています。これからの時代には、社会の変化に対応しつつ社会を積極的に支え、よりよくしていく人材が必要です。その育成には教育の質的転換が欠かせないからです。加えて、社会における大学の位置付けを「知と人材の集積拠点」へと発展させ、「新たな社会・経済システム等の提案」を行い、地方創生で中心的な役割を果たすことが期待されています。
 「組織変革の促進」では大学に、多様性と柔軟性を持った組織への変革を求めています。そのためにはまず、これまでの"当たり前"を思い切って見直すことも必要でしょう。「教学改革の推進」と「経営改革の支援」は、「めざすべき姿」の実現に向けての方策をまとめたものです。「課題の提示」では、各学校種特有の課題に加え、社会の理解と支援を得る必要性などが述べられています。

ポイントは「質保証」「地域連携」「規模の適正化」

 グランドデザインをふまえると、「人材育成」と「地域貢献」における機能強化が大学の持続可能性を高めるキーだと言えます。ポイントは、「教育の質保証」「地域連携」「規模の適正化」の3つです。ポイントの1つ目、教育の質保証については、①全学的な教学マネジメントの確立、②学修成果の可視化と情報公表の促進、③教育の質保証システムの確立、が具体策として示されています。
 ①と②については、教学マネジメント特別委員会で議論し、指針案と省令改正案を2019年度中に提示する予定です。③については、2019年度内に質保証システム部会で設置基準や認証評価の見直しを進める予定です。他にも、学生が在学中に身に付けた能力や付加価値の見える化を目的とした学生調査の試行が2019年度に予定されています。まずは、これらの動向をまめに学内で共有し、後手に回らないように対応していきましょう。
 ポイントの2つ目は、地域連携です。地域の若者が地域の高等教育にアクセスできる状態を確保することは、国の最重要課題である「地方創生」にとって欠かせないものです。しかし、その状態を維持し続けるには、地域の関係者が連携して地域の将来像を地域の若者に魅力的に語り、「地域で学び、生きていく」ことの価値を伝える必要があるでしょう。もとより、多くの地方大学がその地域で生き残るには、地元の高校生から選ばれることが不可欠です。
 地域の将来像は一大学だけで決められるものではありません。その検討の会議体として活用したいのが、グランドデザインで示された「地域連携プラットフォーム(仮称)」です。今、大学に求められているのは、地域の各ステークホルダーと共に持続可能な将来像を描き、その実現をめざす、地域連携の実質化なのです。
 ポイントの3つ目は規模の適正化です。グランドデザインではこの問題について、教育の質保証、社会人や留学生の受け入れ、地域の大学進学者数の将来推計などを考慮しながら、各大学で答えを出すことを求めています。今こそ、データを基に議論することが、戦略的かつ効果的な施策につながることでしょう。