2019.0514

私大連が定員管理について「学部単位から大学単位へ」等の意見を提出

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3行でわかるこの記事のポイント

●「入試改革で入定厳格化による混乱に拍車」との問題意識
●文理融合等、柔軟な教育プログラムの構築を前提にした検討を提案
●競争的資金申請時の定員超過率要件の撤廃も要求

日本私立大学連盟(私大連)は2019年3月、定員管理の在り方の見直しを求める意見書を文部科学省に提出した。入学定員管理厳格化によって大学と高校現場、双方に混乱が広がり、「大学入学希望者に経済的かつ心理的な負担を与えることとなっている」(私大連事務局)現状に一石を投じた格好だ。2018年11月の中央教育審議会「グランドデザイン答申」で打ち出された「学部、研究科等の組織の枠を越えた学位プログラム」など、柔軟な教育プログラムの推進を前提にした「合理的な施策」として、「入学定員から収容定員へ」「学部単位から大学単位へ」という方向での定員管理の見直しを提案。私大連の問題意識について、事務局に話を聞いた。
*私大連の意見書はこちら


●入定厳格化の通達時には現在の事態を予見する意見書を提出

 2019年3月に出された私大連の意見書は次のような趣旨の3項目で構成されている。
①設置認可や競争的資金等の事業で入学定員超過率が申請要件になっているが、これは事業の趣旨と関係のない基準なので撤廃すべき。
②さまざまな高等教育政策において入学定員ではなく収容定員に着目した基準に転換するなど、新しい発想による改善が図られるべき。
③「学部単位の入学定員」ではなく「大学単位の収容定員」、または単年度ではなく複数年度の平均値での管理など、現実的で柔軟な仕組みが必要。

 この意見書の発端となる問題提起は、高大接続について議論する私大連内の教育研究委員会からなされた。背景には、2016年度入試からの入学定員管理厳格化によって各大学が合格者数の絞り込み、数回の追加合格発表などを余儀なくされて定員管理が難しくなり、大学と高校の双方に混乱が起きているとの認識がある。
 2015年6月に入定厳格化の方針が示された時、私大連は文科省に対し「大学が数次にわたる合格者決定を行う事態が発生し、合格者の最終決定に至る期間が長期化する」「入学希望者は不安定な状態に置かれ、多大な心理的・経済的負担が生じる」との懸念を示す意見書を提出。他大学の追加合格の影響で入学辞退者が続出した大学が収入計画を見直さざるを得なくなるという問題にも触れた。
 今回、教育研究委員会の議論では、2021年度入試からの入試改革によって志願率や受験率、歩留まり率などの予測がさらに難しくなり、混乱に拍車がかかるという見方で一致。文科省に対し、入学定員管理の緩和措置を求めるべきとの考えに至った。

●入定厳格化の地方創生効果の検証も求める

 学長や理事長で構成される常務理事会ではこの提案を受け、入試改革にとどまらない幅広い観点から議論。グランドデザイン答申で示された「多様で柔軟な教育プログラム」という方向性に賛同する立場から、「文理横断」「学部、研究科等の組織の枠を越えた学位プログラム」など、時代変化に対応した教育システムや教育内容を迅速に構築するには大学設置基準の改正が不可欠であり、より合理的な定員管理の施策が求められるという内容の意見書をまとめた。
 意見書の背景として、私大連の事務局は「教育・研究の高度化による高等教育全体の発展を考えると、入試改革の過渡期における暫定的な規制緩和ではなく抜本的な見直しを求めるべきだという結論になった」と説明。「入定厳格化がその目的の一つとされている地方創生にどの程度効果を発揮しているのか、その検証も求めたい」と話す。

●「4年間での卒業を前提にした入学定員による管理は合理性に欠ける」

 定員管理に関する今回の意見書を構成する前出の①では、学部等の新設や定員増を申請する場合、過去4年間の入学定員充足率の平均値に上限が設けられ、それが「大学の世界展開力強化事業」「卓越大学院プログラム」等の競争的資金の申請要件にもなっていることを疑問視。事業の趣旨とは関係ない基準であり、国公立大学に比べて入学者数のコントロールが難しい私立大学にとって公正な競争とは言えない条件になっているとの認識もある。
 「『学部新設や競争的資金の獲得はルールを守っていることが前提』という文科省の考え方は理解できるが、意図せず『1人超えてしまった』ということが起こり得る入学定員を要件に使うのが適切なのか。そもそも、私大の学部新設等を国が規制することは学問の自由の観点から謙抑的であるべきというのが以前の意見書でも提示した我々の考えだ」。
 意見書の前述②では、入学定員に着目した現在の定員管理の在り方について「入学したすべての学生が4年間で順調に卒業するという前提で設定されたものとも言え、教育の質保証において合理性に欠ける」と指摘。事務局は「休学によるボランティア活動や留学など、幅広い体験を推奨して学生の成長を促すには、『収容定員=入学定員×4』という機械的な数ではなく、柔軟な設定を考えるべき」。「入学定員が100人なら入口は130人に広げ、厳格な成績管理によって卒業時点で100人に絞るという考え方もあっていいとの声も聞かれる」と話す。
 一方で、学納金が私立大学の経営基盤になっている以上、中退による収入減を想定し、定員をある程度上回る入学者を受け入れざるを得ないという立場も意見書で説明している。
 意見書の前述③では、2020年度以降の入試改革による一層の混乱を回避するため、「現実の必要性に応じた柔軟性」として「単年度ではなく複数年度の平均値での管理」を求めている。歩留まり率を読み誤って定員を超過した場合、次年度に入学定員を減らすといった対応を可能にする仕組みなどが想定されている。また、学部等の枠を超えた教育プログラム構築を念頭に「学部単位の入学定員ではなく大学単位の収容定員」による管理も提案している。

●大学の積極的な関与による議論が求められている

 現在の定員管理の在り方については文科省も問題意識を持っている。中教審の事務局を担当する高等教育政策室長は以前、Between情報サイトの取材に対し「定員を守っていれば良しとするのは文科省にとっても大学にとってもある意味、楽なことだが、真の質保証とは何かという難しい課題を避けてきたのではないかという反省もある」と説明。今後、定員管理を柔軟にする可能性を示唆したうえで、「経営的観点ではなく教育的観点から定員を考えるというマインドが大学の中に定着」していくことを前提に、将来的な定員の廃止もあり得ると述べている。
 私大連の事務局は「私立大学もアクティブラーニングなど、新しい教育手法に適した環境を重視するようになり、できるだけ多く学生をとりたいとは考えていない」と話し、文科省との間に接点が見いだせる。ICT機器等の活用によって教育手法が変化し、教育の質の要素として「学生の成長実感」が重視される中、入学定員・収容定員の設定と管理にはどんな意味づけをすべきなのか。大学が積極的に関わりながら議論し、新しい考え方を整理することが求められている。