高等教育無償化の詳細検討続く~大学の要件確認は初年度限りの特例も
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2019.0220
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3行でわかるこの記事のポイント
●極力、多くの大学等を無償化の対象とし、受験生の選択肢を広げる
●在学生が支援対象になるための要件は「成績上位2分の1以内」など
●大学等は学生の学業成績確認のため成績評価指標の明確化が必須に
高等教育無償化のための法案「大学等における修学の支援に関する法律案」がこのほど国会に提出された。文部科学省は国会審議と並行して制度の細部の検討を急ぐ。タイトなスケジュールの下、より多くの大学等を無償化の対象にして受験生の選択肢を広げるため、初年度の対象大学等の要件確認については極力、丁寧に説明をしていきたい考えだ。
*文科省のウェブサイトの「無償化」ページはこちら
*これまでの無償化に関する記事と合わせてお読みください。
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どうなる?高等教育無償化<上> 支援の概要と支援対象者の要件
どうなる?高等教育無償化<下> 支援対象となる大学の要件
2020年度から始まる高等教育の無償化は給付型奨学金と授業料等減免のセットで、住民税非課税世帯、およびこれに準ずる世帯からの高等教育機関への進学を支援する制度。経済状況にかかる要件を満たしたうえで進学意欲が確認されれば、高校での成績が振るわなかったとしても、支援対象となる。
文科省は、給付型奨学金と授業料等減免を合わせた費用を最大で7600億円と試算している(支援対象となる低所得者世帯の高等教育進学率が全世帯平均の約8割まで上昇したと仮定した場合)。住民税非課税世帯の学生一人が受ける支援額は、自宅外の私立大学生等で年間約160万円になる。
無償化の対象となる大学、短大、高等専門学校、専門学校は、①実務経験のある教員による授業科目の配置、②外部人材の理事への複数任命、③厳格な成績管理の実施・公表、④財務・経営情報の開示の4項目すべてについて一定の要件を満たし、文科省や地方公共団体(公立大学等の場合)の確認を得る必要がある。これらの確認に当たっては、文科省や地方公共団体が問い合せに対応しながら手続きを進める。法案成立後、速やかに要件確認の申請受け付けを開始し、夏以降に対象校を公表したい考えだ。
大学等の要件確認の方法については初年度に限り、いくつかの特例が検討されている。
「実務経験のある教員による授業科目が卒業に必要となる単位数の1割以上」という要件については、2019年度のシラバスで該当科目について学生に明示・説明しているものを計上することが基本。ただし、シラバスへの記載が間に合わない場合は、シラバスとは別の資料(一覧表等)により、学生に対して補足説明をしている授業科目も計上できる。2019年度の教育課程で間に合わない場合、その理由と2020年度から要件を満たす方向性について説明することで可とする。
外部理事の複数登用についても、初年度に限っては、申請時点で要件を満たしていなくても、2020年4月1日までに要件を満たすことについて大学等の設置者の誓約書(候補者が決まっている場合は就任承諾書)があれば認めることにしている。
確認を受けた翌年度以降も、引き続き要件を満たしていることを確認するため、申請書を更新して文科省や地方公共団体に提出してもらう。対象校の発表を含め、これら年度ごとの新規申請・更新の手続きは初年度とほぼ同じスケジュールで行う予定だ。
大学等が機関要件を満たさなくなった場合、その大学の学生は支援の対象とならなくなるが、すでに在学し支援を受けている学生については、個人要件を満たしている限り、引き続き支援を受けられる。
法案の成立以降、日本学生支援機構(JASSO)は各高校等に給付型奨学金の募集案内を送付。2020年度の大学等進学を考えており、支援を希望する生徒は高校を通じてJASSOに申請する。高校は成績と意欲等を確認してJASSOに報告。申し込み時までの評定平均値が3.5以上であること、これに該当しない場合はレポートや面談によって学習意欲や進学目的が確認されたことが要件となる。JASSOはこれらの情報と本人から提出されるマイナンバーで経済状況も確認し、年末までには生徒に採否を通知する予定だ。
2019年度に既に大学等に在学している者については、秋頃にJASSOが大学等に給付型奨学金の募集案内を送付。年内をめどに大学経由でJASSOに申請してもらうスケジュールが想定されている。JASSOが経済状況を確認する一方、大学は年度末に学生の成績や学習意欲を確認し、JASSOに報告。前年度までの学習成績(GPA等の客観的指標)が上位2分の1以内であること、これに該当しない場合は前年度までの通算の修得単位数が「(卒業に必要な必修単位数/修行年限)×前年度までの在籍年数」以上かつ、学習意欲が認められることが要件となる。JASSOは2020年度に入ってから学生に採用を通知する見通し。
学習意欲があれば広く支援対象として採用する一方、大学等への入学後・在学中の学習状況については一定の要件を課し、毎年度末、大学等が学習状況をJASSOにオンラインで報告する。支援が打ち切られるのは①退学・停学の処分を受けた、② 修業年限で卒業できないことが確定した、③修得単位数が標準の5割以下、④出席率5割以下など、学習意欲が著しく低いと大学等が判断した、⑤GPA等が下位4分の1に属する場合が連続して2回―などの場合。
これらを判断するため、各大学は退学・停学の処分の基準、修業年限で卒業できないことの確定基準(進級要件の明確化)、年間に修得・実施すべき標準的な単位数・授業時数、GPA等の成績評価の客観的指標、休学・復学の手続き(休学期間は在学期間から除外するため)等について、明確な学内ルールを定めておく必要がある。
GPAを導入していない場合は、試験の素点の平均など、成績順位を示すものであれば指標として認める考えだ。GPAを使う場合も全大学共通の算出方法は指定せず、各大学が運用している方法で問題ない。
継続要件④の「学習意欲」は「大学等が判断」とあるように、何を指標にするかは大学ごとに決める。「出席率5割以下」は例示であり、これに代わるものとして課題提出の状況等、自学で管理・把握が可能な指標を定めることができる。ただし、修得単位数やGPAは既に他の指標として位置づけられているため、意欲の指標として使うことはできない。
なお、懲戒による退学処分の場合など、相応の理由がある場合には支援した額を学生から徴収することも検討されている。
文科省が想定している要件を見る限り、大学が高等教育無償化の対象リストに「入る」こと自体はさほどハードルが高くなく、多くの大学が対象として認められると予想される。しかし一方で、2年目以降も要件を満たし、対象リストに「残り続ける」ためには、修得単位数や成績、出欠状況、課題提出状況など、各種データの把握・管理と支援対象学生の成績・意欲のモニタリングといった教学マネジメントの努力が不可欠となる。申請に臨む大学は、2年目以降の継続まで視野に入れた準備を進めることが重要と言える。