2017.1120

今後の志望動向は?-安全志向が続き、2020年度入試がそのピークに

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3行でわかるこの記事のポイント

●2018年度は入定厳格化の完成年度、2020年度は現行入試の最終年度
●確実な合格に向け、「志望校追加」を指導する高校も
●模試志望者・入試志願者の増加が予想される中、志望度を上げる働きかけを

各大学で推薦入試の実施・合格発表が進み、いよいよ2018年度入試が本格化した。2017年度入試では多くの大学が合格者を絞り込み、高校側には「厳しい入試」という印象が強く刻まれた。これが今回の入試にも影響を及ぼすのは必至だ。「超安全志向」になるであろう2020年度入試までを視野に入れて受験生の動きを予想し、大学はどう対応すべきか、模試データもふまえて考える。


●9月模試の志望校記入者の中で学力上位層が増加

 2017年度入試は多くの大学に「志願者増」「歩留まり向上」「入学者の学力レベル向上」という好結果を残した。入学定員管理厳格化の下で大学が合格者を絞り込み、受験生にとっては「第一志望校に手が届きにくい」「出願先を増やさないと安心できない」「入試終盤までチャレンジしないといけない」厳しい入試となった。
 2018年度入試でも合格者が絞り込まれ、受験生が出願先を増やす傾向は続くと予想される。2016年度以降、段階的に進められてきた入学定員管理厳格化の完成年度となり、大規模大学(収容定員8000人以上)の場合、私学助成が不交付となる定員充足率は1.14倍からさらに切り下げられて1.1倍になる。
 ベネッセ・駿台模試9月回の志望状況を見ると、受験者数の対前年指数が100.5とわずかに上昇した一方、私立大学の志願者総数の指数は97.7と下降。この時点では志望校を多く書く傾向はまだ見られない。
 ただし、個別大学の志望者の成績上位者(合格可能性60%以上)の数からは、受験生の「強気になりにくい」心理が読み取れる。下図は、多くの大学に共通して見られる傾向を示している。

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 2016年度の9月模試に比べるとボリュームゾーンの志望者が減る一方、成績上位者は増えている。これは、大学による合格者絞り込みに不安を感じる受験生が、本来の志望より下位の大学を志望校として記入しているためだと推測される。
 模試の志望動向に詳しい進研アド基盤戦略室商品基盤部の仁科佑一グループリーダーは、「今春の入試をふまえて高校では今後、志望校を増やすよう指導すると思われる。最終的な志願者数は今春を上回るのではないか」と見る。「心理的な余裕を持って第一志望校に挑戦できるよう、『チャレンジ校(第一志望)・実力相応校・安全校』の中でも安全校を増やす傾向になるだろう」と予測する。
 受験生の安全志向は2018年度以降の入試でも続くだろう。特に入試が大きく変わる2021年度の前年、現在の高1生が受検する2020年度入試は、難関大学志望者や第一志望校へのこだわりが強い生徒を除き、「絶対に浪人できない」「確実に現役合格したい」という「超安全志向」になると予想される。

●上位大学にひけをとらない魅力のアピールを

 実際の高校関係者の声を紹介する。

*関東の私立多様校の進路指導担当者
中堅大学より上を志望する生徒は第一志望を維持しつつ、実力相応校、安全校で志望校を増やす傾向がある。これまでなら地元国立大学志望者が併願することはほとんどなかった私立の単科大学を併願先として書くケースも見られる。

*東日本の私立高校の教頭
今の1年生は間違いなく安全志向が強くなるだろう。推薦入試やAO入試による受験も増えるのではないか。

*都立高校の進路指導担当者
これまで勤務した高校での経験もふまえると、今の3年生には併願校、特に実力相応校と安全校を増やすよう指導することになるだろう。1年生については、進路ガイダンスや保護者会で入試が変わることを周知し、極力、現役合格できるようにと話している。3年生と同様、併願校を増やすなどの対策を指導していく。

 仁科チームリーダーは「2018年度から2020年度の入試にかけての安全志向で、中堅大学にとっては少し高めの学力層の志望者が増えるチャンスが生まれる。特に今の1年生については、模試で初めて志望校を書く2年生の7月からオープンキャンパスピークの8月頃をにらみ、大学名を知ってもらうための施策が重要になる」と話す。 
 今の3年生の模試を含め、上位層の志望者が増えても手放しで喜ぶわけにはいかない。「浪人したくないから」とランクを落として出願し、中退リスクの高い不本意入学者が増える事態を防ぐうえでも、模試の志望校記入の段階からのアプローチが重要になる。例えば、少人数授業による実践的な英語教育や先端的な研究分野をアピールし、偏差値上位大学にひけをとらない入学後の成長をイメージさせ、志望度を高めることが求められる。
 自学が第一志望ではない受験生を受け入れる場合であっても、「この大学に入学して良かった」と受け止めてもらい、意欲的に学ぶ学生を育てるプロセスは、受験生の時のコミュニケーションから始まっているのだ。


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