2017.0515

東京23区での定員増は不可―「地方大学振興」有識者会議が中間報告へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●総定員の枠内での学部・学科の新増設は認める
●サテライトキャンパスの地方への設置も提言
●地方大学の活性化への効果には疑問の声も

内閣官房が所管する「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」(座長:坂根正弘コマツ相談役)はこのほど、東京23区内での大学の定員増を認めないよう求める中間報告の案をまとめた。学部・学科の新増設も総定員の枠内で対応すべきだと明記された。同会議は7月以降、具体的な制度の見直しについて検討して12月に最終報告をまとめ、文部科学省などが制度整備の作業に移る見通しだ。これまでの会議では大学関係者の委員を中心に、一貫して「定員規制は大学経営の自律性を縛り、大学改革を阻害する」「東京で規制しても地方大学の振興にはつながらない」という反対意見も展開されたが、地方自治体や産業界の主張を取り込む形で着地した。

中間報告案はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-05-11-siryou1.pdf
その他の会議資料はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-05-11.html


●大学関係者の委員から「慎重論が一括して排除された」との指摘も

 中間報告は、近く山本幸三地方創生担当大臣に提出される。5月11日に開かれた「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の第6回会合で示された報告案には、次のような趣旨の提言が盛り込まれた。

<地方大学の振興>
・自治体首長のリーダーシップの下で産官学連携を推進し、地場産業の振興とそれを担う人材育成を行う
・地方大学による地元貢献には改革推進のためのガバナンス強化が前提となる

<東京における大学の新増設の抑制>
・東京23区では大学の定員増を認めない
・総定員の枠内で対応するのであれば、既存の学部・学科の改廃を認める
・私学助成等の配分において、定員削減を行う場合の増額、社会のニーズをふまえた学部・学科の見直しを行わない場合の減額なども検討する

<東京の大学の地方移転の促進>
・東京の大学のサテライトキャンパスや研究所の地方への設置を促進する
・サテライトキャンパス等の移転は大学進学者収容力の低い県を優先し、地元大学の学部・学科との競合が起きないようにする

 これまでの会議では、工場等制限法施行前後のデータを基に「都市で規制をかけても地方大学の入学者増にはつながらない」といった意見、地方からの若者の流出は就職も大きな要因であるとして「定員規制ではなく、地方での産業振興や雇用促進における大学の貢献を考えるべき」といった意見もたびたび出された。鎌田薫早稲田大学総長は中間報告案について、「一律規制に対するこれまでの慎重論が一括して排除されたことになってしまう」との強い懸念を表明した。また、地方大学を代表して委員に加わった黒田壽二金沢工業大学総長はこれまでの会議で、東京の大学のサテライトキャンパスを地方に設置することには反対だと明言してきた。

●「まずは産業振興」だが、具体化の検討は「東京での規制」が先行

 有識者会議の事務局は、「東京で定員を規制すれば地方が活性化すると(委員らが)考えているわけではない。地元に残りたい若者のために産官学連携によって魅力ある地方を作るということが先決で、それから18歳人口の減少をふまえて収容力200%の東京で定員を抑えるという順番になる」と説明する。しかし、先に取り組むべきという産業振興、雇用創出の具体化については、委員らも認めるように議論が深まっておらず、規制の制度化についての検討の方が先行する形になる。
 中間報告案で東京の大学について示された「社会のニーズをふまえた学部・学科の見直しを行わない場合」の「交付金等の配分の検討」とは、改革に消極的な大学に対する私学助成等の減額を意味する。そこからは、私学助成の予算の伸びが期待できない中、経営努力をせず財政が悪化している大学等に撤退を促す意図がうかがえる。こうした撤退論については他の有識者会議等でも言及されてきたが、今回、地方大学の振興をテーマとする会議で、東京の大学に限定する形で「改革しない場合のペナルティ」が提起されることについては適否が問われそうだ。
 有識者会議は、東京23区での定員規制については例外を認めない方針で、「多くの委員の念頭にあるのは法改正や新たな立法だ」(事務局)という。ただ、地域を限定して大学の権利を縛る施策が他の制度との関係において実現可能なのか、実際に効果が期待できるのかという観点から検討する必要があり、文科省は私学助成による誘導等、代替案についても可能性を探ることにしている。

*同有識者会議におけるこれまでの議論の経緯はこちら

「地方大学振興」有識者会議で座長が「東京での新増設抑制を」との私案
/univ/2017/04/post-22.html

「地方大学振興」有識者会議で私大団体連合会が新増設規制に懸念を表明
/univ/2017/03/chihososei02-03.html

東京での新増設抑制の是非を検討する有識者会議が初会合
/univ/2017/02/chihososei.html