ベネッセi-キャリアがシンポで、思考力の評価に基づく社大接続を提言
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2016.1214
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3行でわかるこの記事のポイント
●思考力は入学時の学力との相関が比較的低く、大学教育で鍛えられる
●企業は先鋭化する採用活動の中、それぞれの手法で思考力を評価
●思考力を測る新たなアセスメントの紹介も
大学と社会との接続について考える「まなぶとはたらくをつなぐシンポジウム2016 新卒採用の新しい基準~活躍する人材に共通する『思考力』」(主催:㈱ベネッセi-キャリア)が、12月6日に都内で開かれた。大学教育で育成された能力が企業の採用で適切に評価される理想的な接続のあり方を考えようと、大学と企業がそれぞれの実践を示し合いながら議論を深めた。
シンポの冒頭、ベネッセi-キャリア企画開発部の松本隆部長が、思考力に着目して大学教育と企業の採用を考える意義を説明した。多くの企業にヒアリングした結果、面接では評価が難しい態度・能力として思考力が浮かび上がったという。さらに、ある国立大学の1年生を対象にした調査で思考力(推論=事実をもとにして未知の事柄をおしはかり論じる力)は他の能力と比べ、教科学力上位者の弁別性が弱かったとの結果を紹介、思考力は大学教育を通して鍛えられると指摘した。
松本部長は「大学入学時点の教科学力やアルバイト、サークル活動で身に付けた力だけではなく、大学教育を通して鍛えられた能力も企業の採用において適切に評価してほしい。企業は自ら学び続ける姿勢を身に付けた学生を採用し、大学は教育力の向上に努め、高校生は教育力で大学を選ぶようになるというように高大社をつなぐ新たな評価指標が、思考力だと考えている」と述べた。
次に、大学と企業それぞれの実践報告がなされた。
関西学院大学総合政策学部の西野桂子教授は、世界市民の育成を掲げ、各学年の修了時に関門を設けながら4年間を通して学生を鍛える同学部の教育を紹介。
1年次には研究方法の基礎を習得する「基礎演習」を履修し、最後に「ファイナルレポート」を提出する。2年次には演習系科目等を通して専門分野にアプローチし、選考を経て所属ゼミを決定。3年次には調査活動やゼミでの議論を通して研究テーマと徹底的に向き合い、最後に「進級論文」を提出する。これらの集大成として4年次には卒業論文に取り組む。他学部の学生や高校生の参加者と共に研究成果を発表し合う「リサーチ・フェア」は時に、深夜に及ぶ準備を通して考え抜く経験を繰り返すという。
こうした教育の結果、2011年度の卒業生調査では、「ディベート能力が身についた」という自己評価は全学平均で3.5%だったのに対し、総合政策学部は50.0%と大きく上回った。
続いて㈱オリエンタルランド人事部の横山政司部長が、自社の新卒採用について紹介。学生の「素」をより明確に見極めるため、面接を減らして2回のグループディスカッションと終日のグループワークを導入したという。グループディスカッションは2つのテーマをそれぞれ異なる評価者の下で実施、2人の評価をすり合わせることによってより客観的に各学生の能力を捉えられるという。グループワークでは、行動面を中心に面接では見えない部分を評価する。
横山部長は、社会で求められる力を学生が実感する機会の提供に企業も関わり、主体性を引き出すべきだと指摘。1年生が企業の課題にグループで取り組み、発表する「Future Skills Project(注)」に参加していることに触れた。
多様な人材の獲得を目的に新卒一括採用を廃止したヤフー㈱の人財採用部の金谷俊樹部長は、採用活動における「待ちから攻めの姿勢へ」の転換を強調。「入社時18歳以上~応募時30歳以下」のポテンシャル層の通年受け入れや「入社時18歳以上」のキャリア採用を実施し、就業人口の減少の下、競争の激しいIT人材の獲得を図るという。選考方法も見直し、評価基準の明確化、数値化を徹底し、定性情報についてもキーワードの抽出を進めてデータに基づく採用ノウハウの可視化を行った結果、採用選考官の評価スキルの標準化、レベルの向上ができたという。
(注)Future Skills Project:企業人と大学人が問題を共有し、主体性と応用力をもった学生を育てる産学連携やアクティブ・ラーニング、PBLなどのカリキュラムを具体的に提示して展開する活動。
続いて講演した東京大学、慶應義塾大学の鈴木寛教授は「産学が協働し、激動の時代を乗り超えられる人材を育成しよう」と提言。
パネルディスカッションでは、大学と企業双方の視点から思考力の育成と評価について議論を深めた。オリエンタルランドでは「終日のグループワークが思考力を見る場になっている」と説明。ヤフーでは「圧迫面接にならないよう配慮しつつ、『なぜ?』と繰り返し問いかけ、自分がやり抜いたことを語ってもらって思考力を見ている」という。
西野教授は、思考力は優れているのに瞬発力が弱く、じっくり考えながら答えるタイプの学生が就職活動で苦戦するケースを紹介。企業側からは「われわれも、学生の本質を見抜く目を養う余地がまだある」との声が挙がった。
ファシリテーターを務めた松本部長は、パネラー3者の話には「やり抜く」「考え抜く」という共通のキーワードがあったと指摘。「大学が育てたい人材と企業が求める人材は同じ。両者の協働を通じて、大学教育で鍛えた力を企業の採用や育成において適切に測る手法を確立できる」と期待を寄せた。
最後に、ベネッセi-キャリアがこのほどリリースした思考力のアセスメント「GPS(Global Proficiency Skills Program)」が紹介された。大学向けの「GPS-Academic」は、育成も視野に入れ、正解が一つではない記述論述問題によって思考力をより深く測定する点が特長。企業向けの「GPS-Business」は、学校教育で鍛えられた思考力を測定し、採用時の評価と入社後の評価を比較分析することによって、採用の成否、育成の効果を可視化できるという。
*「GPS」についてのお問い合わせは下記まで。
東日本エリア 03-5320-1299
西日本エリア 06-6292-6145