聖路加国際大学が大卒3年次編入コース新設で看護人材の多様化を図る
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2016.1121
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3行でわかるこの記事のポイント
●大卒編入生と一般学生との合同教育の限界を認識
●専門科目の統合等により文系卒でも2年間で卒業できるカリキュラムに
●メディカルスクールも視野に、医療人材の高度化をめざす
聖路加国際大学は2017年度、大卒者対象の3年次編入コースを新設する。看護教育のパイオニアを自任する同大学にとって、「大卒+2年で看護師国家試験受験資格」という日本初のコースでの新たなチャレンジとなる。近年、看護系学部を持つ大学が急増して250校近くに上る中、多様なバックグランドを持つ質の高い看護師を現場のリーダーとして送り出すという独自のポジションを打ち出す。
聖路加国際大学の大卒者3年次編入コース(定員30人)は、既存の大卒者2年次編入コース(定員20人)を廃止して新設される。11月14日の記者会見で発表した。
同コースは、2009年の保健師助産師看護師法の改正で、看護師国家試験の受験資格付与対象者から「3年以上」という修業年限の縛りがなくなったのを受けて構想された。他の看護系大学では学部段階での資格取得をめざすことが多い保健師、助産師の専門教育を同大学では修士課程に移し、学部のカリキュラムに余裕が生まれたことも背景にある。
さらに、従来の2年次編入ではさまざまな問題が生じていたことも説明。1年次から看護教育を受けてきた一般の学生と同じクラスで学ぶため、学習の順序が逆転することがあり、過密なカリキュラムの3年次と余裕がある4年次との落差の大きさも問題視されていた。20代半ば以上で職業経験がある者が多いという編入生の特性に配慮した教育をするうえでも、一般学生と合同のクラスでは無理があったという。
そこで、新設する3年次編入コースは定員を増やし、クラスを独立させることに。他大学で履修済みの教養科目は基本的に全て単位認定するが、同大学の建学の理念と結びついた「キリスト教概論」(2単位)は必修で課す。これと基礎科目31単位以上、専門科目65単位以上の計98単位以上を卒業要件とする。理系学部を卒業して生化学系の科目等が履修済みであれば基礎科目の単位として認定するが、98単位をフルに履修する文系卒の学生でも2年間で卒業できるようカリキュラムに工夫を凝らした。
看護学部の教員は「授業のない土曜日、および長期休暇も勉強してもらうので、単位の実質化は可能と考えている。そのために、2年間勉学に集中できることを出願資格として明記している」と話す。
近接分野の専門科目を統合して効率化することによって履修の負担を軽減し、理論・演習・実習の連動も図る。座学と実践とが乖離しないよう、3カ月ごとに看護学実習を設ける。大学での学修の方法や姿勢を修得済みという前提でアクティブラーニングを多用。編入学試験では小論文と面接を課す。
日本看護協会の調査によると、2014年度に3年課程の看護師学校に入学した約2万7000人のうち、大卒者は8.4%に上る。聖路加国際大学では、3年次編入コース新設について「在籍期間の短縮、早期就業により経済的負担を軽減できる」と説明。一方で、期待する編入生像について「人の悩み、苦しみを理解し、課題の科学的探究に関心を持つ多様な人材」と述べた。少子高齢化、グローバル化などの影響で複雑化する医療現場に、多様なバックグランドを持ち指導者的役割を担える看護師を送り出したい考えだ。
記者発表では合わせて、2017年度からの①公衆衛生大学院の設置、②看護学研究科博士後期課程DNP(Doctor of Nursing Practice)コース設置、③看護学部の75人から100人への入学定員増についても説明した。日本で5校目、私立では2校目となる公衆衛生大学院はグローバル水準の教育内容で、今後、アメリカのアクレディテーション団体による認定をめざす。夜間や土曜の開講、eラーニングの導入などで仕事と両立できるカリキュラムを構築する。授業は原則、英語で行い、聖路加国際病院の臨床・健診データを活用した実践的プログラムで独自性を打ち出す。
一連の改革についての説明後、福井次矢学長は聖路加国際大学が医療人材の高度化をリードしていくというビジョンを語った。「個人的な希望」としたうえで、将来的なメディカルスクールの設置にも言及。「18歳からの医療人教育で育つ人材はテクノクラート(技術官僚)的になりがち。良い臨床医を育てるためには哲学や倫理学まで教える大学院レベルの教育が必要だ」と述べた。