2016.0530

2016年度入試志願動向(国際系) + 【トピックス】学習院大学 「国際+社会科学」の新学部

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3行でわかるこの記事のポイント

●全私大の学科別志願者数は国際系10%増、外国語系1%減
●「語学」に付加される「教育の中身」と特色が問われ出した
●学習院大学は「社会科学の手法で国際社会の課題を解決する力」を育成

グローバル人材の育成に取り組む大学が増える中、2016年度入試における私立大学の国際系学部の志願状況はどうだったのか。新設学部の中でも注目され、多くの志願者を集めた学習院大学の国際社会科学部の教育内容も併せて紹介する。


●新設学部と既存学部とで明暗が分かれた

 2016年度入試における私立大学の一般入試とセンター試験利用入試の志願者データによると、国際系学部の志願者数は18万1988人で、対前年指数105.2だった。私立大学全体の指数103.8を上回ったが、私立文系学部全体の106.5よりは低かった。
 国際系学部はこの10年ほど一貫して志願者数を伸ばしていたが、2015年度に減少に転じた。本年度は再び増加したものの、「やはり国際系は人気」と単純に解釈するわけにはいかないようだ。近畿大学の国際学部(入学定員500人。一般・センターの募集人員289人に対し志願者数は5558人)をはじめ、新設の学部・学科に多くの志願者が集まる一方で、既存学部・学科の対前年指数は97.7。新設も含め学科別に見ると、国際系に集中し、外国語系では前年度を割っている。国際系の志願者増も新設学部・学科で顕著だった。

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 同分野の学部・学科が増える中、語学力だけで受験生を引き付けるのは難しくなり、語学力を生かして何ができるようになるかという中身、他大学との違いが問われだしていると言えそうだ。 
 こうした観点から学習院大学の国際社会科学部は、「社会科学の手法を使って国際社会の課題を発見、解決する」という発想と語学教育における独自の手法が注目される。

【トピックス】学習院大学:「国際+社会科学」の新学部

●異文化理解中心の国際系学部と差別化

 学習院大学の国際社会科学部は学習院大学が52年ぶりに新設した学部で、国際社会科学科のみを置き、入学定員は200人。初年度の志願者は2183人で、最終的に237人が入学、うち女子が62%を占める。入学者の4人に1人が1か月以上の海外滞在、留学等の経験がある一方、海外に出たことがない学生も多く、英語力に幅があるという。
 新学部の広報で大学全体の注目度も上がり、既存学部の志願者数は軒並み前年を上回って全学で対前年指数152.0だった。
 国際社会科学部のコンセプトは「国際系と社会科学の融合」。法学、経済学、経営学、社会学、地域研究という5分野中心に社会科学の手法を使って国際社会の課題を発見、解決する力を養い、ビジネスの現場で活躍できる人材の育成をめざしている。段階的に実践的な英語力を修得する一方で、社会科学的なデータ分析・活用能力を高める。末廣昭学部長は、「他大学では近年、異文化理解を中心とする国際系学部の新設が相次いでいるが、あえてそれらとの差異化を図った」と説明する。自学の卒業生を採用し、国際化に熱心な企業を対象に実施した「今後の人材」に関する調査で、異文化理解の力以上に課題発見・解決力への期待が高いという結果が出ており、学部のコンセプトに自信を示す。

●英語の自律的学習法修得のための科目も

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 英語教育では、専門分野を英語で学ぶ手法・CLIL(クリル)や、自律的学習法修得のための科目を導入している点が特徴だ。
 1年次には、英語で大学教育を受けるのに必要な力をつけるための科目を集中的に配置。週4科目、6コマの授業が必修だ。英語力が突出した学生を同じクラスにまとめるほかは、緩やかな習熟度別クラスを編成し、入学直後からの仲間づくりと学び合いを促す。
 必修科目では社会的な問題を多く扱う。リスニングとスピーキングが中心の「English Communication」、リーディングとライティングが中心の「Academic Skills」が週2コマずつで、「Presentation」は週1コマ。自律的学習法を学ぶ「Self-Directed Learning」では、教材の選び方、ボキャブラリーを増やし速読のスキルを上げるためのテクニックなどについて講義し、学生はTOEFLのスコアなど個々の目標を設定して学習計画を立てて発表し、自ら進捗管理と計画の見直しを行う。教員はむしろカウンセラー、コーチとして指導し、相談に乗る。
 英語教授法が専門で学部主任を務める入江恵教授は、「授業だけで語学力を向上させるのは限界があり、自学自習で成果を出すためのスキルが不可欠」と話す。「海外の大学では語学の自習室にアドバイザーの教員が配置されている場合が多くあり、同様の機能をカリキュラムの中で実現しようと考えた」。

●2年次には英語による専門科目と「ブリッジ科目」をセットで

 1年次には、「ミクロ経済学」「グローバル環境論」など、専門の講義科目を日本語で開講。必修の「入門演習」では、社会科学的な発想、資料・データの探し方、統計などの研究手法の基礎を学ぶ。
 2年次前期からCLILの手法による英語科目の授業が始まり、一部の専門科目も英語で開講。その専門科目と対をなす英語科目「ブリッジ科目」も設け、英語による専門科目の教科書を噛み砕いて教えるなど、専門の授業についていけるよう「橋渡し」をする。
 2年次後期は専門科目の半数、3年次からは大半の専門科目を英語で教える。4年次には英語で専門分野のディスカッションやプレゼンテーション、卒論作成ができるレベルまで引き上げる。これと並行して、統計スキルの引き上げのための専門演習も設けている。

●英語力や目的に合わせて多様な海外プログラムを設定

 国際社会科学部では4週間以上の海外経験を必修で課している。学生の英語力や海外経験の程度に幅があるため、一律の留学プログラムではなく、行き先、期間、内容が多彩なプログラムを大学があらかじめ用意し、自分の力や目的に合ったものを選べるようにしている。適切な選択と準備を支援する「海外研修Ⅰ」は1年次の必修で、帰国後には「海外研修Ⅱ」を履修させる。
 長期休暇を利用する1か月程度の短期研修(費用は30万〜100万円)の場合、単位認定はされない。2016年度の夏季休暇の短期研修プログラムには、ベトナムでのインターンシップ、ニュージーランドでの語学研修等がある。1学期程度の中期留学(80万〜300万円)は最大24単位まで認定される。1年間の長期留学(費用は中期留学の約2倍)は最大48単位まで認定される。中・長期の留学先で学費負担がある場合には、学習院大学の授業料と施設設備費を免除する。学生が自ら調べて選んだ留学先も、一定の条件を満たす内容であれば卒業要件として認められる。

次年度は一般入試で英語外部検定試験を導入

 初年度は、公募推薦とAOの両入試でGTECをはじめとする英語の外部検定試験を導入。2017年度入試では、一般入試の定員100人中20人を対象とする「B方式」でも導入する。4技能検定試験のスコアを6段階で英語の得点に換算する方式だ。入江教授は「基準点に達したら英語の筆記試験を免除するという方式だと、せっかく高得点を挙げた学生にとって、メリットがないと考えた」と説明する。
 専任教員18人中、元々、学習院大学に所属していたのは1人のみ。開設準備から関わった入江教授は「理念ありきで学部を構想し、それを実現するための要件に合う教員を広く内外に求めた」と話す。東京大学から移籍した末廣学部長は「私以外は全員が海外の大学で学位を取得しており、私自身もアジア諸国のほか、欧米諸国やメキシコで集中講義や講演を行ってきた。海外経験の豊富な教授陣が、英語による専門科目の授業を可能にしている」と話す。
 当面、大学院を作ることは考えず、ビジネスの現場で活躍できる人材の育成に全力を投入する。
 2016年度入試では、既存の国際系学部・学科で志願者が大幅に減ったところも目立った。学習院大学の国際社会科学部も次年度、あらためて真価を問われることになりそうだ。初年度の入学者の80%以上を一都三県の出身者が占めていることをふまえ、「地方からももっと多くの学生を集め、多様化を図ることが次年度以降の課題」と末廣学部長。地方の受験生の出願を促す具体策を検討したいという。