2016.0518

グローバル人材育成プログラムの特色と成果―創価大学のGCP

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3行でわかるこの記事のポイント

●多くがグローバル企業・機関に就職、外務省専門職も
●授業は放課後、大量の宿題で6時間超の授業外学習
●海外研修をはさむ2年間のゼミで汎用的能力を鍛える

7年目を迎えた創価大学の学部横断型特別プログラム「グローバル・シティズンシップ・プログラム(GCP)」は、修了生をグローバル企業・機関や海外の大学院に送り出すという創設時の目標を着実に達成しつつある。「英語力だけでなくコンピテンシーを重視して選抜、育成するプログラムが、出口で結果を出している」。担当教員が胸を張るグローバル人材育成プログラムの全容に迫る。


●学部横断のプログラムで授業外学習を徹底

 外務省専門職(3人)、アクセンチュア(4人)、日本アイ・ビー・エム(3人)、ゴールドマンサックス証券(2人)、あずさ監査法人(公認会計士、1人)、ジョンズ・ホプキンス大学をはじめとする海外の大学院(計7人)。2010年度に開設された創価大学の「グローバル・シティズンシップ・プログラム(GCP)」が、2016年5月までに送り出した68人の卒業生の進路の一部だ。それ以外もほとんどが、外資・国内の大手企業や自治体、公立学校等に就職したり、東京大学を含む国立大学の大学院に進んだりしている。
 GCPは定員30人で、4年間継続する学部横断型の特別プログラムだ。アメリカの大学並みの授業外学習で徹底的に勉強させること、そのために切削琢磨し、支え合う学習コミュニティを提供していることが特色と言える。看護学部と国際教養学部以外、すなわち経済、経営、法、文、教育、理工の6学部の入学者から希望者を募り、入試さながらの多面的評価で選抜する。トップ層の学生を対象とする「オナーズプログラム」だ。専門分野の異なる学生が少人数のコミュニティに集い、きめ細かい指導、濃密な交流を通して力をつけていく。
 学生は、各学部のカリキュラムと並行してプログラム独自の科目群を履修、4年間で36単位を修得して修了する。2年次までの集中的な授業で英語と汎用的能力を鍛えて海外研修を体験し、3年次からはめざす進路に向けた個別の学習や活動が中心になる。
 その具体的な中身について、GCPディレクターの西浦昭雄教授(学士課程教育機構)とGCPコーディネーターの佐々木諭教授(看護学部)に聞いた。

●4年間で9割の学生がTOEIC800点を突破

 GCPプログラムは図で示すように、正課のプログラム科目群と課外のピア・ラーニングから成る。

カリキュラム.jpg

 正課は、全学共通科目の中に「GCP科目群」として位置づけられている。2年間、あるいは4年間、有機的につながる授業によって一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出すという発想で設計。所属学部の授業と並行して履修できるよう放課後の5時限、6時限(19時50分終了)を中心に開講される。
 「GCP英語」は全学共通の英語科目の最上位レベルに位置づけられ、1年次前期から2年間、週4回授業がある。外国人教員らの指導で4技能を磨き、実践的な英語力の修得をめざす。4年間のプログラムを終えた1期生から3期生90人のTOEIC平均点は、入学時は615点で、「GCP英語」を2年間履修した後は858点に伸びている。卒業時には約6割の学生が900点を突破した。

英語スコア.png

 汎用的能力の修得を図る「プログラムゼミ」も、1年次から2年次の4学期間にわたり開講される。リーダーシップや論理的思考、資料収集、課題の設定と解決、グループワーク、プレゼンテーションなどの手法を段階的に学んでいく。
 1年次後期から2学期間にわたって開講する「社会システム・ソリューション」は、文系が多数を占める学生を対象に、統計を中心とする数理能力を鍛える点で特に難易度が高い科目だ。グローバル社会で活躍するためには、データ分析を通して現状を把握し、解決策を導き出すスキルが不可欠との考えが反映されている。英語力も強化しようと、英語で課題を出したり、アメリカの大学進学適性試験・SATで達成度を評価したりしている。
 1年次終了時点までの「プログラムゼミ」と「社会システム・ソリューション」の学習成果を実践的に活用するため、春休みにはフィリピンで2週間のフィールド調査を実施。経済、医療、教育など、学部の専門性を考慮したテーマごとのグループに分かれ、日本での事前学習で課題を設定して仮説を立てる。それを、現地でのフィールド調査を通して検証し、英語による成果発表まで行う。交通費や宿泊費など基本的な研修費用は全額、大学が負担する。
 長期休暇には、身に付けた力を試す機会として国際会議への参加を促す。日米学生会議やハーバードアジア国際プロジェクトなど、英語エッセイや面接を得て選抜されるものも多くあり、8割の学生が自主的に挑戦し参加を勝ち取っている。長期留学する学生も7割を超えるという。
 4年間継続する「チュートリアル」も正課に位置づけられている。2年次までは学部ごとに分かれて各分野のゼミを実施し、専門分野とGCPの学習の両立を支援する。3年次からはめざす進路に応じた個別対応が中心となり、目標を実現するための履修や学内外の活動、資格取得などについて助言する。担当教員は学習指導にとどまらず、学生の心身の状態を見守り、ケアすることにも心を配る。

●学生間、教員や先輩とのコミュニケーションがドロップアウトを防ぐ

 GCPの学習はハードだ。修得単位は一定程度、共通科目の単位として読み替えられるが、多くの学生は卒業までに、一般の学生より30単位ほど多く修得する。1、2年次はほぼ毎日6時限まで授業があり、この間は学業に専念するための環境が整えられている。GCP生の選抜時にも、学業以外の活動を控えることを学生と確認し合っている。
 拘束時間が長い上に、どの授業でも宿題を山ほど出す。各科目の内容は接続しながら学期ごとにレベルが上がっていくため、上位科目にスムーズに移行できるよう長期休暇中も大量の宿題を出している。1期生の1年次後半に実施した調査では、1日あたりの授業外学習時間は一般学生が2.6時間だったのに対し、GCP学生は6.6時間だった。タイムマネジメントの力をつけさせるためにあえて厳しい状況に追い込み、多くは入学後2、3か月で無理なく授業についていけるようになるという。
 過去6年間で途中プログラムを辞退した学生が5人ほどにとどまっているのは、選抜がうまくいっていることに加え、「チュートリアル」や課外のピア・ラーニングによるケアが功を奏していると、西浦教授は捉えている。ピア・ラーニングでは、学生相互の学び合いと励まし合い、教員や上級生、修了生とのコミュニケーションのためにGCP専用の施設やさまざまな企画を提供。モチベーションを高め、より高い目標に向かうための仕掛けとして機能しているという。
 学生が自らの成長を実感できることも、ハードな学習を続けられる原動力になっていると言えそうだ。プログラムの成果を多面的に評価すべく、先に述べたTOEICやSATによる客観テストに加え、入学直後と1年次、2年次それぞれの終了時点で、学生に学習到達度を自己評価させている。主に「プログラムゼミ」と「社会システム・ソリューション」による能力、スキルの修得度を確認するアセスメントの1期生の結果を見ると、入学直後には最も低い「数理力」が2年間で他の項目と同程度まで伸びていることがわかる。

創価学生自己評価.jpg

●学生の多様化で支援が手薄だったトップ層に照準

 創価大学のGCPは、学生が多様化する中での大学教育のあり方を問い直す議論を通じて構想された。西浦教授は「本学には、幅広い学力層の学生が入学してくる。多様な学生それぞれにきめ細かく目配りして一人ひとりの可能性を最大限に伸ばしたいという理想があっても、これまでは実態として成績中低位層のケアに力を割き、トップ層に対する支援は手薄になりがちだった」と話す。
 こうした問題意識の下でトップ層に照準をあてた教育を設計する時、「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」という建学の精神を具現化する形で積み上げてきた国際交流の実績が強みとなった。海外の交流協定大学はアジア、アフリカ等の途上国を含む52か国・地域に広がっている。以前から語学教育に力を入れ、海外経験を積む学生も多かった。建学の精神に基づくこうした実績をさらに先鋭化させ、グローバル企業・機関への就職や海外の大学院への進学など、よりわかりやすい実績をつくっていこうという挑戦がGCPだった。
 特別プログラムとすべきか学部として新設すべきか議論になったが、より早くスタートさせること、学部横断型で多様性のある学習コミュニティを形成することを重視し、プログラムとしての位置づけが決まった。
 創立50周年(2020年)に向けて2010年にグランドデザインを発表し、その中の最重要事業の一つとして同年にGCPをスタートさせた。

●選抜では英語に加え潜在的能力を見極める

 GCP学生は2段階で選抜している。入試の合格者にエントリーシートを送り、志望動機や高校までに取り組んだことなどを書いて応募してもらう。例年、約1600人の入学者のうち150〜200人がエントリーし、シートの内容と入試得点による一次選抜で70人程度に絞り込む。二次選抜では小論文、面接、英語のライティング試験を課し、さらに全入学者を対象に実施するプレイスメントテスト(英語、国語、TOEIC)の結果も加味して最終決定する。
 英語だけを重視するのではなく、面接でグローバルな活躍をめざす目的意識の強さ、アウトカムを出せる潜在的能力を見極め、総合的な観点から選抜する。

●就職希望者には長期留学を推奨

 卒業後の希望進路は、就職と大学院進学の割合がおおよそ7:3。教員は特に就職希望者に対しては、社会に出る前に自分ならではの強みを作るために「ぜひ長期留学を」と勧める。4年次前期に留学先から帰国し、翌年の就職活動を経て5年で卒業するというプランを指導する。
 一方、海外の大学院進学希望者は、単位互換制度のある交換留学や提携大学への留学を経て4年で卒業するパターンが多い。「在学中に留学しなくても海外の大学院に進学できるレベルまで引き上げる」という教員陣の目標は、高校で英語が大の苦手だったという3期生のオクスフォード大学大学院への進学(2016年9月に予定)によって達成された。

●中堅・若手教員とSAが学生を支える

 GCPの事務局は総合学習支援センターが担う。「対象の6学部から、教育に対する熱意があふれる中堅・若手の教員を出し合っている」(西浦教授)といい、計20数人で担当。全員が学部と兼務だ。
 3、4年次のGCP学生は有償でSAを担当。専用ラウンジでメンターとして下級生の相談に乗ったり、語学サポートグループのリーダーを務めたりする。 

●培ったノウハウを多様な学生支援に生かす

 教育の質の担保と教員の負担を考え、当面は現在の定員を維持する方向だという。GCPで培う教育ノウハウを他の学生支援にも生かしながら、多様な学生に合わせたきめ細かい支援を全学的に充実させていく。フィールド調査で途上国の実態に触れたGCP学生のめざましい成長に着目し、2014年度に開設した国際教養学部でも同様の手法を導入。1年次必修のアメリカやイギリスへの長期留学に加え、希望者対象のマレーシア研修を設けている。「スーパーグローバル大学創成支援」で採択された事業プランにも、GCPのさまざまなノウハウが盛り込まれた。
 GCPの二次選抜で不合格になった学生の能力、可能性を伸ばす支援もしている。「トップをめざせ」という激励を込めて「ヒマラヤグループ」と名付け、学長、理事長との定期的な懇談会を設けたり、海外で活躍する卒業生の講演や懇談会に参加を呼びかけたりして奮起を促す。
 佐々木教授は「GCPは、理念の議論から設計まで約3年をかけ、完成度が高い。この6年あまり、ほとんど手を加える必要がなかった」と説明。グローバル人材の育成に取り組む大学が増える中、「他の大学に負けない自信があるのは何よりも、学生の潜在的能力を引き出し、最大限に伸ばし、社会に送り出したいという教員の情熱だ」と胸を張った。